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 「先生ー。模試結果届きました」

 進路指導室へ入り、面倒みの良いおじいちゃん先生の席へと向かう。
 そこには先約がいて、綻ぶような柔らかな笑顔が向けられた。

 「あ、お話中ごめんなさい」

 一歩後ろに下がると、そこにいた雨宮くんは、優しく首を横に振り、手招きをした。

 「俺もう終わるから、大丈夫」

 雨宮くんと共にこちらを見て頷くおじいちゃん先生に、私は申し訳なくなりながらも席へと近付いた。
 昨日届いていた紙を差し出すと、先生はそれを少し眺めてから穏やかに笑う。

 「君たちふたりは、なんにも心配ないね」

 到底真似出来ない包容力と安心感を持った先生に、私と雨宮くんは顔を見合せて笑った。

 「さすが、美雲。A判定か」
 「地元だし、なんとかね……雨宮くんには遠く及ばないよ」

 結局、一緒に進路指導室を出た私たちは、お互いの結果を交流し合っていた。
 雨宮くんの志望校は、私よりずっとレベルの高い、東京の大学。そこでもA判定の彼はやっぱり、別次元の人だった。

 「美雲も、もっと上目指せると思うけど」
 「そんなことないよ」

 お茶を濁す私を、雨宮くんは追求しなかった。

 単純な褒め言葉のはずだ。そう受け取れば、勿論嬉しいはずなのに、私の心には嫌な風が吹いていた。

 その正体には気付いている。だけど、夢を見たって私はそんなにできる人間じゃない。
 そこそこの高校で好成績を残すのですら精一杯なのだから。特別になんてなれるわけないんだ。

 それは、他の誰よりも私がいちばん分かっている。