「なれないよ。あんな狭き門……私は特別じゃないもん」

 静かに首を横に振った。

 私の素直な考えだった。
 確かに、昔から空が好きだった。気象予報士になりたいと、興味を持ったこともあった。
 だけど、選ばれたほんの数人にしかなり得ないその職業に、平凡な私はなれないと分かった。

 無理だとわかっている夢を、ただ無謀に追いかけるようなことはしない。
 早々に現実を見て諦めることは、悪くないことだと思っている。

 それを聞いた彼は、途端に肩を落とした。
 あからさまな彼の変化に、私はどうしてか後ろめたい気持ちになった。

 叶いもしない夢を見ても、自分が悲しくなるだけ。
 その考えが、間違いだとは思わないのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。
 彼と、私は、違うんだ。分かっているのに……。

 「そんなの自分次第だろ、特別じゃない人なんていねーよ」

 彼は笑っていなかった。
 いつもいつも笑顔でみんなを照らしている人だと思っていた彼の真剣な顔は、心を追い詰めるような圧力があった。
 絶対的な自信を持つその目は、私の弱い心を否定する。

 何も言わないで立ち尽くす私から目を逸らし、彼は再び音楽をかけた。
 雨が降ってきたというのに、気にしない様子で同じ箇所を練習する。

 「羨ましいな……」

 気付いたら口から出ていた言葉に、私はひとり驚いていた。

 何が、羨ましいんだろう。
 私は、私は、将来の自分の為に、自分の道を決めているはずなのに。
 疑問に思ったことなんて、一度もなかったのに。