ひゅーと吹いた涼しい風につられ、私は空を見上げる。
 さっきまでの雲は帽子を外し、もくもくと大きな集合体へと姿を変えていた。

 「このあとレッスン?もうすぐ雨が降るから、早めに行った方がいいよ」

 カバンを持ち直し、慌てて家まで走ろうとした私を彼は怪訝そうな顔で引き止めた。

 「は?今日降らねーだろ?俺、天気確認したんだ」

 余裕の笑みを浮かべた表情は、私の言葉を真に受けてはいない様子だった。

 「でも雲がね……」

 説明しようと口を開いている間にぽつりと冷たい雫が頭へと落ちる。

 「あ……」
 「は!?まじ!?」

 間に合わなかった……。

 肩を落とし、空を見上げた私。
 驚いた彼はささっと荷物をまとめて、そんな私の腕を掴んだ。

 強く掴まれた腕は、熱かった。
 目を丸くしているうちに、手を引かれるままに橋の下へ移動させられる。
 その間にポツポツと大粒の雨が降り始め、あっという間に辺りは雨降りになった。

 「お前、なに?預言者なわけ!?」

 少しだけ濡れた服を払いながら彼は言った。
 その真っ直ぐな瞳に、私は思わず笑ってしまった。

 いつか、純粋で可愛いと彼に言われたのだけれど、その言葉をそっくりそのまま返したいくらいの純粋な瞳だった。

 「そんな訳ないじゃん。空が好きなの。雲の動きとか。種類とか。それでちょっと推測できるんだよ」

 私には、ほんの簡単な知識しかないけれど……。

 雨雲に覆われた空を見上げる。

 降る前に帰るつもりで、早く学校を出たのに。
 でもこれなら少ししたらやみそうだから待つか……。

 「えーっ!すっげえ!気象予報士とかなんの?」

 考え事をしていた私を輝かしい光が照らした。
 目の前で大きな目を輝かせた相楽くんに、私は目を丸くした。
 でもすぐに、そんな風に夢に直結するのは、大きな夢を持っている彼らしいと納得した。