「おーい!!華梛だろー!?いま帰りー!?」

 無邪気で大きすぎる声に、私は目を丸くした。

 明確に世界が違うと思うことはなくなった。
 ただ、あの日はやっぱり特別で、あれからも数える程しか言葉を交わさなかった私たち。
 
 ただのクラスメイトかそれ以下だと思っていた私は、突然親し気に呼ばれた自分の名前と、その満面の笑みに愕然とした。

 彼からしたら私はもう友達のひとりなのかもしれない。

 大きく手を振り続ける彼を無視することは流石に出来なくて、私は少しだけ空を見上げてから河原へと続く土手を下った。

 「練習中?本気だったんだね」

 思ったよりもずっと自然に声をかけることが出来た自分に驚いた。
 友好的な彼の態度に私自身の心も緩んだのかもしれない。

 「信じてなかったのかよ!ひっでえな!」

 言葉とは裏腹に、特に傷付いている様子はなかった。
 笑い飛ばした彼は私の前だと言うのに再度音楽をかけ、練習を再開する。

 「今度、コンテストがあって。レッスンだけじゃ足りねーんだ。みんなすっげー上手くて!」

 魅せるように踊る姿はすごく楽しそうだった。
 私は、人の前でこんなにも堂々と魅せられることなんてない。
 自信がなくて、自分の殻に閉じこもることがほとんどで……。
 私は、その姿を少し羨ましく思った。

 自信の表れる表情はあまりに魅力的で、気付けば目を奪われ、言葉を失うほどに感動していた。

 「凄い……。本当にダンサーになれちゃいそう……」

 音楽をとめた彼に、思わずそんなことを口にしていた。
 元々本気で目指していると言っているのだから、失礼な言葉だったかもしれない。

 だけど、私の感動は彼にも伝わったようで、彼は爽やかな汗を拭いながら嬉しそうに笑った。