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 雨宮くんとは校舎を出てすぐ分かれ、私はいつもの通学路を早足で歩いていた。
 ほんのり冷たい風を肌に感じ、私は空を見上げる。

 ……出来るだけ早く家に帰っておきたいなぁ。

 さらに足を早め、川沿いの土手道に走ると、河川敷で、音を出して踊っている少年が目に入った。
 その見覚えのある長めの茶髪に、私は急ぎ足を弛めた。
 認識してから真横を通るまでの間にも、何度も何度も音楽を巻き戻し、同じ箇所を練習する姿が見える。

 その表情は、学校で見た事のないような真剣な顔で、私は思わず足を止めて少年を見つめていた。
 滴る汗はきらきらと輝いていてかっこよかった。

 あれが、彼の本気の姿……?

 正直信じられなくて目を懲らすけど、凝らせば凝らす程、鮮明に見えたその顔が人違いでは無いことを認識させた。

 「相楽くんだ……」

 ぽつりと呟いた私の声は、遠すぎて彼には届かない。
 知らない一面に、私は彼の言葉を思い出していた。

 「ダンサーになりたい」
 そう語った夢は、本気だったんだ……。

 見すぎていたのだと思う。
 こちらを見上げた相楽くんと目が合った私は、思わず一歩後ずさった。

 いや、大丈夫。強めのコンタクトをしている私は、きっと目がいいほうだから彼にはバレていないだろう。

 そう思い直し、目を逸らしたまま足を早める。
 しかし、すぐに河原の音楽が止まり大きな声で名前を呼ばれた。