⋆*
 放課後は雨宮くんとの約束通り学校に残り、塾の課題を進める。

 「じゃあねー、仲良くねーっ」

 余計な内心が溢れ出た七星の微笑みに、私は少し眉をひそめた。

 「わー!怖!」

 相変わらず反省のみえない七星は、楽しそうに笑って教室を後にする。
 暫くして雨宮くんが七星の椅子を私の机に引き寄せて隣に座った。

 ひとつの机に寄せられた椅子。
 いつも七星とはこの距離感で座っているものの、やっぱり、男の子とは距離が近いように感じる。

 「どこまでやってる?」

 いつも通りの雨宮くんに、私は小さく笑った。

 やっぱり私の考えすぎだよね。友達だよ友達。
 そう思えば、あっという間にいらない緊張は消え去った。

 「ここで止まってるんだよね……この公式かなとは思ったんだけど」
 「あー……そこか、そこ多分ねその公式の応用で」

 理数系で、全国模試トップクラスの雨宮くんはやっぱり優秀だ。
 私は元々、文系特化で理数系は並程度の成績だった。だけど、彼と勉強を一緒にするようになってから、驚く程に問題が解けるようになり、校内ではトップクラスと言われるまでに成長した。

 高めあえる彼と一緒の時間は落ち着くし、心から尊敬できる。将来はこんな人と家庭を築きたいとも思う。
 だけど、やっぱり「好き」という気持ちは分かりそうになかった。

 ペンを指先で回転させながら空を見上げると、遠くに帽子を被った雲を見つけた。

 ああ……今日折りたたみ傘持ってないや……。

 私は、シャーペンの芯を戻し、パタリとノートを閉じた。

 「そろそろ帰ろっか」

 キリが良い訳でもない場所で急に終わった学習に、雨宮くんは不思議そうに首を傾げる。

 「いいけど、なんか予定でもあるの?」
 「うん、そんな感じ」

 適当に誤魔化した私を深追いすることはなく、雨宮くんはにこりと笑って私と共に校舎を出た。