焦ることも無く意味深に口角を上げた七星の膝を、横から小さく抓った。

 「いったいー!」

 大袈裟に言った七星に、無言で視線を向けると、彼女は悪びれない様子で舌を出した。

 「どうしたの?」
 「ううん?なんでもない」

 にっこりと笑った私たちを、雨宮くんは不思議そうに見つめていた。

 「櫂晴ーー!今日家行ってもいーい?」

 廊下から甘い声が聞こえ、私は顔を向ける。
 スリッパの色で3年生だと分かったその人は、綺麗に化粧が施された端正な顔で、教室内を見つめていた。

 「うわ、超美人……」

 目を奪われていたのは私だけではなかったようで、七星がぼそりと呟いた。
 2年生と3年生なんて、ほんの1歳しか違わないのに、どうしてこんなにも美しく大人っぽく映るのだろう。
 私もこくりと、七星の言葉に同意する。

 「今日予定あんだよ、悪い!」

 そんな誰もが羨む先輩からの誘いを、軽い言葉で断る相楽くんの声が響いた。

 「えーーつまんなーい」

 可愛らしい表情で彼の席へと走っていった先輩。
 私は、こっそりとその姿を目で追った。

 「はいはい、また今度な」と頭を撫でた相楽くんは、やはり女たらしなことは間違いなかったけれど。
 あんな先輩まで可愛らしくしてしまう彼は恐ろしい人だと、少しだけ思った。