しばらく歩いてから、彼は続きを呟いた。

 「俺さ、ダンサーになりてーの。だから大学は行かない。必要ない勉強するより、経験積む方が余っ程楽しいし効率的だろ?」

 その場でターンして見せた彼は、真っ直ぐな重心で、こちらを正面にピタリと止まって笑う。
 その瞳は、希望に満ち溢れ、とにかく輝いていた。
 自分がくすんでしまっているのを自覚させるような、眩い光に私は目を背けた。

 そういうこと……別の夢があるんだ……。

 少し、納得した。
 だけど、それが大学に行かないという選択にはどうしても直結せず、かなり彼との会話にも慣れた私は持論を伝えていた。

 「でも、大学は今の時代行った方がいいと思う……」

 ダンサーになるとしても、そういうサークルや部活がある大学があるんじゃないか。
 その方が時間も取れるし、それに、もしなれなかったときにその後の人生のことは考えているんだろうか。
 そんな考えが脳裏を過り、勝手に彼の将来を案ずる。

 「必要ないんだよ」

 そう言いきった彼に、私は溢れ出しそうだった言葉を飲み込み、納得はしないまま頷くことにした。

 「そんな生き方もあるんだね」

 私とは決定的に違う。
 その決別した言葉の意図を彼がどう受けとったかは分からない。

 絶対大学へは行った方がいいのに。
 そう信じて疑わない私は、彼の気持ちを完璧に理解することは出来なかった。

 ただ、私の中の凝り固まった正しい道というものは、人にとっては正しくないのかもしれない。
 それを押し付けるのはきっと違うし、違う考えも理解は出来なくとも受け入れることは必要だ。

 だから、違う世界へ飛び込んで、自分なりに納得しようと思った今日は、私にとって貴重な日になった。