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 結局、駅までは送ると言った彼に着いて歩く。
 会話のない時間が落ち着かず、私は思わず聞いていた。

 ついさっき、もう口を出さないと自分で言ったのに。
 やっぱり、踏み込んでしまった知らない世界にいる彼を理解したいと思っていたのかもしれない。

 「あの……やっぱり困らないわけないと思うんだけど。入試ギリギリなんだよね?いいの?進学できなくても。
 友達と一緒の大学とか行きたくないの?」

 彼らが、今という時間を全力で楽しんでいることは伝わった。それ程にみんなの笑顔は輝いていた。
 だけど、それなら尚更、この先もみんなと一緒に進みたいと思うものではないのだろうか……。

 「俺大学行かねーから」
 「え?」

 答えは、あまりにもそもそも論だった。

 私の人生には有り得ない選択肢に、目を見開く。

 「あはは、美雲って、もっと冷淡なイメージだったけど、めっちゃ素直で可愛いんだな」

 眉を下げて柔らかく笑った。
 その柔らかい笑顔に今度こそ目を奪われた。
 顔が火照るのが明確に自覚できた。

 自然だった。女慣れしている印象から、もっとわざとらしく誘うような甘い言葉を囁いているんだと思っていた。

 これは確かにずるい、彼を魅力的に感じる理由もわかる気がする。

 「ほら、その顔。かっわい」

 追い討ちをかけるように意地悪く笑う彼から、私は目を逸らすことしか出来なかった。

 あーもう、分かった。
 どこがいいんだとか思ってごめんなさい。
 彼の魅力は分かったから、こんな、男慣れしてない私に、そんな笑顔は向けないでください。

 空に向かってそう念を飛ばす私の横顔を、彼は面白そうに見つめていた。