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 足を進め自動ドアが開くころ、後ろから足跡が響き私は振り返る。
 そこには、荷物を持った相楽くんが立っていた。

 「え……」

 私はカバンの肩紐を握りしめ、少し後ずさる。

 「送ってく」
 「は?なんで」

 彼から飛び出した言葉に、私は勢いよく突き返した。
 だって、人気者の彼が出てきてしまえば、せっかく友好的に接してくれた彼女たちから要らない批判をかうことになる。
 簡単に想像できる面倒事からは極力逃げたかった。

 「あいつらが、俺のせいで来たんだから責任もって送っていけって」

 言いながらも嫌そうではなく、面白そうに笑った彼は、私の先を歩いていった。

 「え、いいよ……。それに、勉強ももう口出ししないから安心して。明日先生にも伝えておく」

 追ってきた理由に、批判を食らう心配は少し消えたけど、後を追って伝える。
 彼は、パッと足を止めて振り返った。

 「え、先生にはそのままにしておけよ。
 美雲のおかげで、俺毎日楽しい時間過ごせてんだから!それ伝わったろ?!楽しかっただろ!?」

 誰にでも、こんな笑顔を向ける彼は、そりゃあ人気者だろう。
 そう思うほどの真っ直ぐで純度100%の笑顔だった。
 裏なんてなにもない、きっと思っていることは本心だと、そう思わせてしまうような。
 太陽のような笑顔だった。

 不思議と頷いてしまいそうな感覚に、ギリギリのところで勝ち、私は首を振った。

 「嫌だよ、結果が出なかったら私の責任になるもん」
 「え?なんで?そんなことないじゃん。そんなの俺の実力が変わんないのは俺のせいなんだから」

 ああ、噛み合わない。
 あまりにも噛み合わない会話に私はそれ以上の返答を諦めた。

 「じゃあいいよ、それで」

 諦めの笑顔だった。
 小さく緩めた口元を、彼は真剣な表情で見つめていた。
 吸い込まれそうな、綺麗な瞳だった。

 「美雲ってさ、いつも、髪結んでるよな」
 「え?」

 脈略の無い言葉だった。
 顔を上げると同時に、後ろで束ねていたゴムが外される。
 さらりと放たれた黒い長髪に、彼は不敵に笑った。

 「なんだ……。こっちのが、可愛いじゃん」

 時間が止まったかと思った。
 この人は、どれだけ女の子に慣れているんだ。
 私なんかに、なんの取り柄もない可愛げもない私なんかに、こんなことが簡単に言えてしまうんだから。
 ひんやりと冷めた心とは対照的に、顔は熱を帯びていた。