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 結局、そのゲームが終わるまで滞在した私は、皆に「お邪魔してすみません」と頭を下げその場を後にした。

 「えー?華梛もう帰るの??」
 「またおいでー、今度はカラオケいこ!」

 本当に印象が変わってしまった女の子に流されるように笑顔を向ける。
 賑やかな世界の人たちは社交的で人と距離を詰めるのが早いらしい。
 気付けば、美雲から華梛に呼び名まで変わっていた。
 私は1度も名前を呼べなかったのが、なんだか申し訳ない。

 靴を履き替えていたら、どこかから戻ってきた音坂くんとすれ違う。

 「あれ、もう帰んの?楽しくなかった?」

 相楽くんのような満面の笑顔では無い。クールで中身の見えない彼の瞳を私は怖いと思ったけど、きっと彼にもそういう意図はなかった。
 友人と過ごす彼の様子を見て、きっとこの人は所謂クールな人なのだと理解した。

 昼休みと比べるとずっと話しやすい彼に、私は返す。

 「ううん。新鮮だった。私の周りとはかなり違うから」
 「そう」

 静かに受け止めて、彼はいまだ盛り上がる集団に目を向けた。その瞳が何を思っているのかは、やっぱり読めなかったけど。

 「……音坂くんは、今日なんで私を誘ったの?」

 結局、音坂くんが、どういうつもりで私を誘ったのかは分からないままだった。
 なんだか柔らかい雰囲気の彼に、答えが聞けるのではないかと期待する。

 「んー……。化学反応?」

 答えのようなそうでないような……。
 そんなひと言を落とし、緩やかにに口角を上げた彼は、ひらひらと手を振って集団へと入っていった。

 「それはきっと……期待には添えなかったなあ」

 私が今日来たことで、何かの化学反応が起こったとは到底思えない。
 どんな変化を期待していたかは知らないけど、私が抜けても変わりなく楽しむ集団を遠目にそんなことを思った。