「かーいせい!ちょっと圧強いかもよー」

 後ろから聞こえたそんな賑やかしが、私たちを取り巻く重たい空気を取り払った。

 「楽久」
 「ん?」

 ふんわりと笑った音坂くんがそこにはいた。
 お揃いのピアスが光り、相楽くんも笑顔を見せる。
 彼らの笑顔はその場の空気を和ませて、私はほっと肩の力を抜いた。

 だけど、納得できないのは変わらなかった。
 困らないわけがない。
 この先の人生がかかってるのに、今の自堕落で将来までダメにしてしまって本当にいいと思っているのだろうか。

 「心配してくれてありがとうね!」

 そう言って再び背を向けた彼らを、私は思わず引き止めていた。

 「待って」

 声だけが廊下に響き、振り返った彼らとの間に沈黙が広がる。
 先走った呼び止めに、私は自分でも驚き、次いで後悔の念に襲われた。

 どうして呼び止めてしまったんだろう。これもまた、中途半端な正義感、なんだろうか。

 「美雲、今日の放課後一緒にどう?」

 私のせいで生まれた不自然な沈黙を壊したのは、音坂くんだった。
 不敵に笑った彼に、私も相楽くんも彼を見つめ固まる。
 意図なんて、読めるはずがなかった。

 「分かった」

 純粋に気になっていた。
 「困らない、必要ない」と言い切った彼が、強がりを言っているようには見えなかった。
 それどころか、その瞳の奥には何か強い意志があるようにすら感じた。
 だとしたら、それは何なのだろう。
 もし、それを知れたら、私は少しでも彼を理解できるのだろうか。

 頷いた私を、相楽くんは意外そうに見つめていた。