「今のメンバーと組んだ時、俺らの地元で、今日の会場で、ライブをすることを夢として掲げた。
 それが叶った日は、ふたりに絶対見せたかったんだ。それに、聞かせたい曲もあったし」

 満足げに微笑んだ彼に、私は思わず尋ねる。

 「楽久くん、あの新曲って……」
 「お前らの人生」

 用意されたように、すぐに伝えられた答えに、信じられないほど真っ直ぐ心に響いた理由が腑に落ちた。

 それでも、曲を聞いただけで、あんなにも鮮明に過去が想起されるのは、楽久くん自身の才能だった。

 どれだけ努力をしたんだろう。
 爽やかに笑みをこぼす楽久くんを見て思う。

 「実はまだ、タイトル決まってないんだ。櫂晴と美雲に決めてほしいと思ってた」

 言いながらスマホに触れ先程の音源が流れ出す。

 ♪太陽のような君にであった
 ♪雨上がりの空に太陽を

 私達の人生を歌っているのだとしたら、きっと歌詞の中の太陽は、
 私にとっての櫂晴で、櫂晴にとっての私だ。

 「私の太陽が櫂晴なら、太陽をくれたのは楽久くんなんだよ」
 「俺らを出逢わせたお前が最強なんだ」

 改めて、曲を聞き終えた私達が伝えると、すぐに櫂晴も続いた。

 「はは、なんだよそれ、大袈裟」

 見事に照れながら誤魔化した楽久くんは、昔の楽久くんの面影を感じさせた。

 「タイトル、『楽久がくれた太陽』でいんじゃね」

 櫂晴が笑いながら言い、楽久くんが感情のままに呆れた顔をする。

 「なしだろ」
 「だって、事実だし」

 言い合うふたりに、私は笑っていた。

 「美雲、もっとおしゃれなやつ出るだろ?」
 「えー、私もそれでいいと思うなあ、事実だし!」
 「そんなところでいちゃつかなくていいんだよ!」

 困ったように頭を抱える楽久君を見て、櫂晴と笑った。

 「『君がくれた太陽』は、普通すぎ?」

 笑って涙が滲む目で、私が口を開く。
 少しの沈黙があり、楽久くんは顔を上げた。

 「……それでいい。それにする」

 嬉しそうな笑顔が見えた。
 私達は3人で空を見上げた。