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 「でも、楽久くんも凄いよ。バンドやってるなんて知らなかった。それに、テレビで特集されてたでしょ?」

 そう伝えると、楽久くんはこちらに目を向けて微笑んだ。

 「俺はどっちかっていうと、昔の美雲みたいに、叶わない夢なんて必要ないって思う方だったから。
 音楽は、声が出ない間に出会った趣味だったんだ。バンドの音楽を見て、心が揺れた。ちょっとやってみたいなって夢を見た」

 「入院中、動画見てたよな。それはなんか覚えてるわ」

 櫂晴がぼんやりというのを聞き、私もイヤホンを付ける彼の姿を思い出した。

 「きっと、近くにいたのが櫂晴だけじゃ、俺は本気で目指そうと思わなかった」

 悪口だと思ったのか、櫂晴は、ムッと眉を下げる。
 楽久くんは、違う違うと笑いながら否定して続けた。

 「櫂晴は、特別だと思ってたから。あんな風に根っから前を向けるのは才能だよ。
 けど、美雲は違う。元々現実的で落ち着いているタイプなのに、相当怖いはずなのに、夢を追うって決めた。その姿が、俺に勇気をくれた」

 楽久くんがそんな風に思っていたなんて、驚きばかりだった。
 櫂晴は、納得したように小さく笑う。