「化学反応……?」

 思い出した楽久くんのセリフを思わず口にすると、楽久くんは懐かしそうに笑った。

 「起こったでしょ。あの時はただの直感だったけど、でも今思えば、あれは俺の人生最大の功績だね」

 ついていけてない櫂晴をよそに、私は目を丸くして楽久くんを見つめていた。

 「それに、俺の本心もしっかり見抜いてたし。ちゃんと伝えろって言ってくれてたのにね。
 言えないまま、俺は事故にあって」

 その言葉に、櫂晴は事故の記憶が蘇ったようだった。
 少し顔を顰め、楽久くんの腕に目を向ける。

 彼の腕には、バンドマンらしくちょっとした刺青が入っていた。
 だけどそれは近くで見ると、事故で負った怪我の傷を誤魔化すように入れたもののようだった。

 「声を失って、本当に伝えられなくなったとき、後悔した。
 だから、次、お前に会った時は、絶対に自分の声で伝えるって決めてた」

 楽久くんは櫂晴の方を向き、楽しそうに口角を上げた。
 腕を見つめていた櫂晴はゆっくりとその顔を上げた。

 「櫂晴、おめでとう。ずっと応援してた。夢に全力なお前をずっと、かっこいいと思ってた。
 美雲もだ。毎朝、美雲の天気予報を見てから家を出られる。その度に、叶えたんだすげーなって尊敬してた。
 これからも俺はお前らの味方で、お前のら1番のファンでいるから」

 楽久くんから聞くには真っ直ぐすぎる言葉に、流石に驚いた様子だった櫂晴の瞳は潤んでいた。
 私も当然、涙が溢れ出す。

 「約束、叶ったな」
 「だな」

 彼らも何年も会ってないはずだった。
 それを感じさせないくらいの、変わらないふたりの笑顔に、私も嬉しくなって、涙で濡れたまま笑っていた。