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 「少し歩こう」

 楽久くんの提案で、私たちは街へ出た。

 今朝の天気予報で伝えた通り、外はポツポツと雨が降っていた。

 持ってきていた傘を開く。
 同時に両隣からもバサッと傘を開く音が聞こえて、私は目を丸くした。

 今朝は晴れてたのに、二人とも傘持参……?

 そんな私に、含みのある笑みを向けながら先を歩くふたりを、私は慌てて追いかけた。

 帽子を目深に被り、さらにパーカーのフードを重ねる櫂晴と、同じく帽子を被りめがねを掛けた楽久くん。

 昔から雰囲気のあるふたりだったけど、180cmを超えたふたりは、そんな小さな変装なんて意味をなさないほど輝きを放っていた。

 人気商売ではないため普段はありのままで街に出る私も、一応テレビに出演する身ではあるため、彼らと一緒に歩くのはなんだか気が引けた。

 少し後ろを遠慮がちに、傘を低くしてついて行く私に櫂晴が気づき、帽子を深くかぶせてくれる。

 見えなくなった視界に帽子を少しあげると、もうこちらを見ていない櫂晴と、少し口角を上げて櫂晴を追う楽久くんが見えた。

 懐かしい河川敷を通り、足を止めた。

 懐かしい。ここで踊る彼の後ろ姿は、今でも鮮明に思い出せた。

 その隣には、いつも楽久くんがいた。
 馬鹿にしながら滞在する彼に、邪魔をするなら帰ってよなんて怒ったこともあった。

 だけど、彼が誰よりも櫂晴のことを応援していたのは、あの後思い知ったから。
 今思い出すその記憶は、決して切れない二人の繋がりが見える。

 少し先で、ふたりも足を止めていた。

 黙って河川敷を見下ろす彼らに、きっと同じように思い出を振り返っているんだろうと、温かい気持ちになった。