扉の辺りで、二人は握力テストのように全力で手を握り合っていた。

 「いってえな馬鹿力!!」
 「お前こそ、なんかごつくなりやがって!」

 笑い合いながらの怒号。
 既視感のあるそのやり取りに私は目を疑う。

 ベーシストの男性と目が合った。
 小さく笑みを見せたその男性に、私は目を見開いた。

 櫂晴とは違う、満面の笑みでは無い、だけど魅力的なミステリアスな笑顔。

 奥が読み取れないその目を、私は昔怖いと思った。
 でも、その瞳の奥にあるのは、ただひたすらに友人思いな感情。

 クールな見た目でありながら、熱い心を持った人。

 「久しぶり、美雲」
 「……」

 言葉を失っている私に、彼は優しく微笑んだ。

 「気付かなかった?」

 チケットに名前書いてあるのに。そう呟いた彼。

 確かにバンド名とローマ字で4人の下の名前は、書いてあった。
 だけどそんな、まさか、繋がるはずがない。

 「楽久、くん……」

 彼に会うのは、あの冬、交通事故にあった彼が転院して以来のことだった。
 大学に入学してからも、彼の事は気になっていた。

 だけど、櫂晴ですら連絡を取っていないというから、会わない間にどんどんと疎遠になっていっていたのだ。

 「楽久くん、え、もう大丈夫なの?身体もどこも後遺症はない?」
 「おかげさまで。声は少し、枯れたままだけどもう、普通に喋れるから」
 「よかった、よかったぁ……」

 酷く、高校時代の思い出を思い出す日だった。
 もう感情は、すっかり当時のものになっていた。

 「なんか、俺との再会より嬉しそうなんだけど」
 「まじ?美雲も俺の魅力に気付いたってこと」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべる楽久くんに、櫂晴が飛びかかる。

 こんなやり取りをもう一度見れるなんて、思っていなかった。
 私は溢れそうな涙を、零れないうちにこっそりと拭って笑っていた。