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 「あ、そうだ、チケットもありがとね。櫂晴の姿ちゃんと気づけたし、それに素敵なバンドにも出会えた」

 先程の歌を思い出し、私は目を閉じる。

 帰ったら調べてみよう。
 思いを乗せた歌声、メロディ、演奏全てが素敵だった。

 「チケット?」
 「うん、送ってくれたでしょ?」
 「は?送ってないけど」
 「え?」

 冗談を言っているようでもなさそうだった。
 私は首を傾げる。

 「あー……あいつ、そういうこと……」

 突然、何かを察したように右手で顔を覆った彼。

 「ん?どういう……」

 言いかけた時、ノックもなく扉が開かれた。

 そこに立っていたのは、今日のバンドのベースを演奏していた方だった。

 黒髪で、少しかすれた声。
 そして、あの曲を作った人。
 少ない情報だけど、私は緊張して身体を強ばらせる。

 「今日は、ありがとうございました」
 「いえいえこちらこそ、明日も宜しくお願いします」

 出迎えに行った櫂晴と、ベーシストさんの会話に耳を傾ける。

 言葉こそは丁寧だけど、なんだか圧が強いようなやり取りに、私は真っ直ぐ見れないでいた視線をゆっくり上げた。