だけど、そのときの私は思わず聞いてしまった。

 「悪いなんてもんじゃねーの。サボるし、ほぼオールで赤点。それであの態度なんだからほんとに困ってんだよ……。」

 頭を抱える先生に、日頃から悩まされているんだろうと察し、苦笑いが落ちる。

 「でも美雲が教えてやってるって聞いて安心した。ありがとうな」

 屈託の無い、信じきった笑顔が向けられて、私の罪悪感は途端に大きなものに広がり、胸がズキリと痛む。

 ーあれは、彼が適当に言っただけで。

 そう真実を伝えることだって出来るはずだったのに、私は苦笑いでその感謝を受け取ってしまった。

 悪い癖だった。
 感謝されると嫌とは言えない。都合よく使われているときだって、それを知った上で引き受けてしまうんだから。
 そんな私が、こんな真正面からの感謝を無碍にできるはずがなかった。

 妙なことに巻き込まれた。

 ため息をつきたい内心は、ギリギリのところで保たれる。

 気は進まないけれど、先生の手前もあるし一度声をかけてみよう……。
 最低限赤点回避までは力になれるだろう。
 私にそんな義理はないけれど、彼のために必要なことは確かなのだから少し力になるのも悪くない。

 「美雲……?」

 必死で納得させる理由を浮かべ、薄ら笑いを浮かべる私を、雨宮くんが心配そうに見つめていた。