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 「シャワー浴びるから待ってて」

 誰もいなくなったあと、櫂晴はそう言い残して楽屋を出ていった。

 「マイペースは相変わらずか」

 ものすごく久しぶりな再会なのに、余韻なんてそこそこにひとりぼっちにされて笑ってしまう。
 そわそわと楽屋をひとまわりして、控えめにソファへと腰かけた。

 落ち着かない空間に、大学時代の私たちを思い出した。

 交際していた頃、私は彼のアパートで帰りを待つ日が多かった。

 夜遅くまで練習かバイト。ヘトヘトになって帰る彼に何かしてあげたくて。
 彼の家で勉強をしながらちょっとしたご飯を作って待っていた。

 「あーーー!終わった!!」

 騒々しい音を立てて部屋へなだれ込む彼。

 「華梛ー、会いたかったまじで」

 ぎゅーっと強く抱きしめられるのが好きだった。

 私も嬉しいよ。

 そんな気持ちを伝える暇もなく、彼は満足して直ぐにお風呂へと向かう。
 ぽつりと残される感覚は、慣れ親しんだものだった。

 「何笑ってんの?」

 そして突然帰ってくるのもいつものこと。

 「え、ちょ、シャワー室から楽屋まで、その格好で来たの!?」
 「そうだけど」

 上裸にタオルをかけて現れた彼から慌てて顔を逸らす。

 「んな、初めて見るわけじゃねーんだから」
 「そっ、それはそうだけど!!」

 可笑しそうに笑う彼に、私は真っ赤な顔を隠すので必死だった。

 そんな……そんなこと普通に言うものですか?
 私たち、自然消滅してたんだよ?
 会うの5年ぶりだよ?

 火照った顔を冷やすように顔を仰ぐ。
 彼は、ドライヤーをしながら余裕の笑みでこちらを見つめていた。