⋆*
退場の人混みを避けたくて、私はしばらくの間席に留まっていた。
人がいなくなった舞台はなんだか淋しくて、さっきまであんなに輝かしく光っていた会場が、名残惜しかった。
「美雲さんですか?」
突然声を掛けられて、私は肩を震わせた。
振り返ると、そこには、ライブのTシャツをきて帽子を目深に被ったスタッフさんがいた。
「え……あ、はい」
準レギュラーを貰ってから、時折声をかけられることがある。
その時の癖が抜けず、私は少し顔を伏せ、お辞儀をした。
「少しお残りいただけますか?」
けれど、私は勢いよく顔を上げた。聞き覚えがあったのだ。
堪えきれない楽しさを滲ませる、少しふざけた声に。
「……櫂晴?」
スタッフにしては目深に被った帽子が怪しい。
当てずっぽうでは無かった。
上がった口角に、私は確信した。
「やっと会えた」
帽子を外して髪を振った彼は、昔と変わらない笑顔を向けた。
短髪になった。当時よりずっと好青年に見えて、体つきも分厚くなった。
だけど、この先ずっと、見間違えることの無い人。
元々、素晴らしいバンドに出会ってしまったせいで、私の涙腺は既にゆるゆるだった。
それを言い訳にしたかったけど、言葉も出ないまま、私はポロポロと涙を零した。
「あの人、今日のダンサーさんに似てない?」
「えー?こんなとこ居ないでしょ!」
そんな声が近くから聞こえ、私は、ハッとする。
「櫂晴!」
焦った声で小さく名前を呼ぶと、彼は動じてなどいないゆっくりした動作で再び帽子を深く被る。
「ほらスタッフの帽子だよ。違うじゃん」
「えー、似てると思ったのになあ!」
退場していくファンに、安心して息をつく。
「こんなとこ出てきちゃダメじゃん…!」
「大丈夫だろ」
難しいことなんて考えない。
常識なんて関係の無い。
周りを困らせるような自由奔放な彼の姿さえ懐かしくて、私は口角を上げた。
退場の人混みを避けたくて、私はしばらくの間席に留まっていた。
人がいなくなった舞台はなんだか淋しくて、さっきまであんなに輝かしく光っていた会場が、名残惜しかった。
「美雲さんですか?」
突然声を掛けられて、私は肩を震わせた。
振り返ると、そこには、ライブのTシャツをきて帽子を目深に被ったスタッフさんがいた。
「え……あ、はい」
準レギュラーを貰ってから、時折声をかけられることがある。
その時の癖が抜けず、私は少し顔を伏せ、お辞儀をした。
「少しお残りいただけますか?」
けれど、私は勢いよく顔を上げた。聞き覚えがあったのだ。
堪えきれない楽しさを滲ませる、少しふざけた声に。
「……櫂晴?」
スタッフにしては目深に被った帽子が怪しい。
当てずっぽうでは無かった。
上がった口角に、私は確信した。
「やっと会えた」
帽子を外して髪を振った彼は、昔と変わらない笑顔を向けた。
短髪になった。当時よりずっと好青年に見えて、体つきも分厚くなった。
だけど、この先ずっと、見間違えることの無い人。
元々、素晴らしいバンドに出会ってしまったせいで、私の涙腺は既にゆるゆるだった。
それを言い訳にしたかったけど、言葉も出ないまま、私はポロポロと涙を零した。
「あの人、今日のダンサーさんに似てない?」
「えー?こんなとこ居ないでしょ!」
そんな声が近くから聞こえ、私は、ハッとする。
「櫂晴!」
焦った声で小さく名前を呼ぶと、彼は動じてなどいないゆっくりした動作で再び帽子を深く被る。
「ほらスタッフの帽子だよ。違うじゃん」
「えー、似てると思ったのになあ!」
退場していくファンに、安心して息をつく。
「こんなとこ出てきちゃダメじゃん…!」
「大丈夫だろ」
難しいことなんて考えない。
常識なんて関係の無い。
周りを困らせるような自由奔放な彼の姿さえ懐かしくて、私は口角を上げた。