3人が話し終えた後、マイクを受け取ったのはベースの人だった。
 大トリの彼もきっといいことを言うんだろうな、とその姿を眺める。

 「今日、ここで歌うために作った曲があります。下手くそな曲だった……。カイトと、ソラと、タイガが、手伝ってくれて何とか形になって」

 少し掠れた、でも魅力的で落ち着いた声は、泣きそうに聞こえた。
 メンバーたちは温かい目で彼を見つめる。

 「だめだ。もう曲行こう」

 涙を誤魔化すためか、話を早々に切り上げてベースを肩にかけた彼にメンバーは揃って笑った。

 「まぁこんくらい必死で作った曲です。俺は、最高の曲だと思ってるし、この曲に言葉の説明はいらないから」

 準備に入るメンバーを眺めながら、そう言ったボーカルに、ベースの彼は嬉しそうに口角を引き上げた。

 「今日、ここに来てくれた貴方に、届きますように」

 曲が始まる前、ベーシストの掠れた声でそう、囁かれる。

 始まったのは、しっとりしたバラード曲だった。

 気持ちが落ち着くような穏やかなイントロに、私は目を閉じる。

 今日は、彼らの夢が叶った特別な日なのだろうか、この曲は、そんな日に合わせて作られた、ファンからしたら最高の曲なのかもしれない。

 そう思うと、事前知識もなく訪れてしまったことを残念に思った。
 そんな感情になるくらい、ライブが始まってからの2時間弱で、彼らの魅力は十二分に伝わっていた。