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　知らない曲ばっかりのライブは、想像していたよりもずっと楽しかった。

　大学を卒業するまでずっと必死に夢を追いかけてきた私は、好きな娯楽を見つける暇なんてなかった。
　１階では押しつぶされるような人混みの中で感嘆の声を漏らすファンたちがいる。

　あんな風に楽しめるのなら、私も少しくらい娯楽を持ってみるのもいいのかもしれない。

　夢を追いかけることで必死だった頃と、一緒に思い出されるのは、櫂晴との思い出だった。
　娯楽を持つ暇がなかったのは、彼も同じだった。

　毎日毎日必死に過ごし、その間でお互いの努力を認め合い、尊敬し合い、頑張り続ける日々。

　そして、挑戦の規模が夢へと近づけば近づくほど、ふたりの時間は少なくなり、気付けば疎遠になってしまった私の淡い恋の思い出。

　彼は今、好きな娯楽を楽しめる日々を送っているだろうか、なんて、懐かしいことを思いながら曲を聴く。

　トゲトゲしたエレキギターの音を想像していたライブは、思ったよりもずっと色んな毛色の曲が聞けて、私はいくつか好きな曲を見つけていた。

　返ったらセトリを調べて、聞いてみよう。

　音楽のことは詳しくないので分からないが、聞き馴染みの良いボーカルの柔らかな声と、ときおり入るコーラスの声は心地よいものだった。

　それに加え、メンバー間で何度も何度も顔を見合わせながら、楽しそうに演奏するバンドメンバーも魅力的に映っていた。

　やっぱりこの年になっても、夢を追いかける人たちはかっこいい。
　その輝きは、過去の私が追い求めたものに、この上なくそっくりで、それも惹かれた理由の一つだったのだと思う。