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 「今日日直?高いところ消すよ」

 気付いたら隣にいた雨宮くんは、黒板消しを持っていた。

 「あ……うん、ありがとう」

 飛び跳ねながら黒板を消していたところが見られていたと思うと急に恥ずかしくなる。
 小声でお礼を言うと「いいえ」と優しい笑みが落とされた。

 「あ、そうだ、美雲!」

 教卓で授業後の質問を捌いていたはずの先生に名を呼ばれ、私は手を止めて振り返る。
 先生は、質問を締め切ったようで、こちらに身体を向けていた。

 「あいつの調子どう?」
 「なんのことですか?」

 口にするまで忘れていたのは事実だった。

 授業に出ないで帰る彼を見たときに、進学はどうするのだろうと微かに気にする日はあったものの、その度に関係ないと首を振っていた。
 時間が経つに連れて、気にもならなくなった日の先生の質問だった。

 言いながら思い出したから、何だか惚けたようになってしまっただろうか。
 まぁでも、関係ないのだ。知らないふりでいいのだろう……。

 「相楽だよ。勉強見てくれてんだろ?悪いなー……」

 有り難そうに眉を下げて笑った先生に、突然の罪悪感が芽生える。

 「えっと……あの、そんなに成績悪いんですか?」

 このタイミングで、正直な事実を伝えればよかった。
 後々、後悔することになるのは自分だった。