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 「練習しよう、ちょっとでもいいから。それにコンテストも出た方が良いよ。この日のために、練習頑張ってきたんでしょ?」

 帰って来た櫂晴に、私はそう伝えた。

 「だから俺は!」

 それでも否定しようとした櫂晴に、楽久くんのスマホが鳴り響く。

 「練習しないのなら追い返す」

 その有無を言わせない音声と、鋭い視線に、櫂晴は渋々練習を再開した。

 その日からコンテストまでは、1週間もなかった。

 病院へ寄った後、河川敷で練習をしているのだという櫂晴。

 私は一度、塾のない日に河川敷へと寄り道をした。

 全然、身は入っていないみたいだった。

 私の大好きな、感情の全てを訴えるような、気持ちの乗ったダンスは見られなかった。

 輝きを放ち、見る物を虜にするような魅力がない。
 これじゃコンテストはだめかもしれない。

 わたしでもそう思ってしまうのだ。
 櫂晴はきっと、自分でも分かっていた。

 「櫂晴」

 そっと土手を下り、声を掛けると櫂晴は力なく笑った。

 「俺、だめだ」

 そう呟いた彼は、顔を歪めぽろぽろと涙を零した。
 その涙は、楽久くんが目を覚ました日以来、初めて見る涙だった。

 「櫂晴、大丈夫……大丈夫だから」

 泣き崩れた櫂晴を、私は抱きしめることしかできなかった。

 自分の力不足が悔しい。

 楽久くんなら、彼の声なら、きっと櫂晴を動かせた。

 楽久くんは、私の存在を嬉しいと言ってくれたけど、私にはそう思われるような力なんてない。

 ……私は、櫂晴に、何もしてあげられない。