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 ダイさんに言われて少し心は軽くなっていた。

 ふたりを見守って、もし対立したときには、私が間に入って支える。そのときは頑張る!

 確かに今さっき、そう覚悟はしたけれど……。
 私は病室の前で立ち止まっていた。

 「ばか、俺のことはいいんだよ、気にすんなよ自分のこと考えろよ」
 「無理だよ、もう来んなって言ってんだろ」

 聞こえてくるのは、半笑いで告げる櫂晴と、無機質な機械音。
 その内容はなんだか不穏で、私はドアを開くのを足踏みする。

 ダイさん、私、こんなにすぐだと、やっぱり間に入るなんて覚悟できてないです。

 心の中で、ダイさんに助けを求めてしまう。

 そのとき、手のひらに伝わるスープの熱を感じ、私はぎゅっと唇を噛み締めた。

 覚悟を決めてドアを開けた瞬間、

 「行けよ」

 悔しそうな楽久君の表情とはかけ離れた淡々とした機械音が流れた。

 それがさらに残酷な静けさを誘い、静まり返った病室で、不機嫌そうな二人の視線を浴びた私は小さな声でその沈黙を破った。

 「とりあえず、スープ、飲む?」

 ベッドを囲み、3人でスープを飲んだ。
 その間も、ずっと静かで、私は落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

 彼らは普段から、口の悪いやりとりをしていたけれど、実際に喧嘩をしたら言葉を交わさないらしい。

 それは新しい発見だった。
 こんな時に、知るとは思わなかったけれど。

 「櫂晴、練習してきたら?病院の庭でもいいから。全く体動かしてないでしょ」

 考えた結果、私が提案したのはそれだった。

 「いや、でも……」
 「その間、私が楽久くんと話しておくから、そしたら安心でしょ?私だってリハビリの相手したいよ」

 一旦、櫂晴を病室から離れさせようと思った。

 好きなダンスに向き合ったら、少しは気分転換になるかもしれないし。
 それに、櫂晴の夢を大切にしているのは、私も楽久くんも同じ気持ちだから。