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 私は、久しぶりに季節の家を訪れていた。

 声は出ないままだけれど、舌の機能は少しずつ良くなってきているようで、食事を取れるようになった楽久くんにお見舞いを買いに来たのだ。

 冬の季節の家は、スープ屋さんになっていた。
 グレーのニットに身を包んだダイさんは、私を見て優しく微笑んだ。

 「いらっしゃい」

 目まぐるしく変わったここ数日間のドタバタに、私は気付かないうちに疲弊していた。
 だからだろうか。秋と変わらない様子で微笑むダイさんに、驚くほどの安心感を覚えた。

 日替わりの3種のスープをセットで注文する。

 「楽久に持っていくの?なら、あいつの好きなの作るしちょっと待っててくれる?」

 ダイさんのご厚意に甘えて、既に調理済みの日替わりのスープではなく、楽久くんが好きだというスープを作ってもらうことになった。

 「華梛ちゃんは、大丈夫?」

 食材を切りながら、ダイさんは、優しく尋ねた。

 「はい、私は……」

 言いながら、思い浮かぶ櫂晴の顔に表情を曇らせる。

 ダイさんは、察したように一瞬こちらを向いて、また、野菜に視線を戻した。

 「櫂晴のこと。気に病みすぎちゃだめだよ」

 相変わらず全てお見通しのダイさんに私はため息を零した。

 「櫂晴にとって、楽久は少し特別なんだよな」

 ダイさんは懐かしそうに少し口角を緩めた。

 「あ……確か、楽久くんと櫂晴は、季節の家で出会ったって」
 「そうなんだよ」

 切り終えた食材をダシをいれて煮詰めていたスープに泳がせる。

 「心を開ける友達がいなかった櫂晴を、連れ出したのが楽久だったんだ。親がいなくて本当の友達もいなくて、塞ぎ込みがちだった櫂晴が初めて信じられた友達なんだよ」

 そんな友達が、自分のせいで声を失った。
 勿論、櫂晴のせいではないとみんなが思っているけれど、それでも櫂晴は自分を責めて責任を感じている。

 自分の事なんて考える余裕、あるわけないよね。

 表情を暗くした私に、ダイさんは、スープを味見しながら言った。

 「楽久も楽久でいろいろ悩んでここに来てた。
 あいつらはお互いに特別だから。今のままで、楽久が許すはずがない。
 だから、華梛ちゃんは、もしふたりが対立したときに、二人の話を聞いてあげて。
 それできっと、大丈夫だから」

 丁度差し出されたスープは温かく、私はしっかりと頷いて、病院へと駆け出した。