⋆*
私は、久しぶりに季節の家を訪れていた。
声は出ないままだけれど、舌の機能は少しずつ良くなってきているようで、食事を取れるようになった楽久くんにお見舞いを買いに来たのだ。
冬の季節の家は、スープ屋さんになっていた。
グレーのニットに身を包んだダイさんは、私を見て優しく微笑んだ。
「いらっしゃい」
目まぐるしく変わったここ数日間のドタバタに、私は気付かないうちに疲弊していた。
だからだろうか。秋と変わらない様子で微笑むダイさんに、驚くほどの安心感を覚えた。
日替わりの3種のスープをセットで注文する。
「楽久に持っていくの?なら、あいつの好きなの作るしちょっと待っててくれる?」
ダイさんのご厚意に甘えて、既に調理済みの日替わりのスープではなく、楽久くんが好きだというスープを作ってもらうことになった。
「華梛ちゃんは、大丈夫?」
食材を切りながら、ダイさんは、優しく尋ねた。
「はい、私は……」
言いながら、思い浮かぶ櫂晴の顔に表情を曇らせる。
ダイさんは、察したように一瞬こちらを向いて、また、野菜に視線を戻した。
「櫂晴のこと。気に病みすぎちゃだめだよ」
相変わらず全てお見通しのダイさんに私はため息を零した。
「櫂晴にとって、楽久は少し特別なんだよな」
ダイさんは懐かしそうに少し口角を緩めた。
「あ……確か、楽久くんと櫂晴は、季節の家で出会ったって」
「そうなんだよ」
切り終えた食材をダシをいれて煮詰めていたスープに泳がせる。
「心を開ける友達がいなかった櫂晴を、連れ出したのが楽久だったんだ。親がいなくて本当の友達もいなくて、塞ぎ込みがちだった櫂晴が初めて信じられた友達なんだよ」
そんな友達が、自分のせいで声を失った。
勿論、櫂晴のせいではないとみんなが思っているけれど、それでも櫂晴は自分を責めて責任を感じている。
自分の事なんて考える余裕、あるわけないよね。
表情を暗くした私に、ダイさんは、スープを味見しながら言った。
「楽久も楽久でいろいろ悩んでここに来てた。
あいつらはお互いに特別だから。今のままで、楽久が許すはずがない。
だから、華梛ちゃんは、もしふたりが対立したときに、二人の話を聞いてあげて。
それできっと、大丈夫だから」
丁度差し出されたスープは温かく、私はしっかりと頷いて、病院へと駆け出した。
私は、久しぶりに季節の家を訪れていた。
声は出ないままだけれど、舌の機能は少しずつ良くなってきているようで、食事を取れるようになった楽久くんにお見舞いを買いに来たのだ。
冬の季節の家は、スープ屋さんになっていた。
グレーのニットに身を包んだダイさんは、私を見て優しく微笑んだ。
「いらっしゃい」
目まぐるしく変わったここ数日間のドタバタに、私は気付かないうちに疲弊していた。
だからだろうか。秋と変わらない様子で微笑むダイさんに、驚くほどの安心感を覚えた。
日替わりの3種のスープをセットで注文する。
「楽久に持っていくの?なら、あいつの好きなの作るしちょっと待っててくれる?」
ダイさんのご厚意に甘えて、既に調理済みの日替わりのスープではなく、楽久くんが好きだというスープを作ってもらうことになった。
「華梛ちゃんは、大丈夫?」
食材を切りながら、ダイさんは、優しく尋ねた。
「はい、私は……」
言いながら、思い浮かぶ櫂晴の顔に表情を曇らせる。
ダイさんは、察したように一瞬こちらを向いて、また、野菜に視線を戻した。
「櫂晴のこと。気に病みすぎちゃだめだよ」
相変わらず全てお見通しのダイさんに私はため息を零した。
「櫂晴にとって、楽久は少し特別なんだよな」
ダイさんは懐かしそうに少し口角を緩めた。
「あ……確か、楽久くんと櫂晴は、季節の家で出会ったって」
「そうなんだよ」
切り終えた食材をダシをいれて煮詰めていたスープに泳がせる。
「心を開ける友達がいなかった櫂晴を、連れ出したのが楽久だったんだ。親がいなくて本当の友達もいなくて、塞ぎ込みがちだった櫂晴が初めて信じられた友達なんだよ」
そんな友達が、自分のせいで声を失った。
勿論、櫂晴のせいではないとみんなが思っているけれど、それでも櫂晴は自分を責めて責任を感じている。
自分の事なんて考える余裕、あるわけないよね。
表情を暗くした私に、ダイさんは、スープを味見しながら言った。
「楽久も楽久でいろいろ悩んでここに来てた。
あいつらはお互いに特別だから。今のままで、楽久が許すはずがない。
だから、華梛ちゃんは、もしふたりが対立したときに、二人の話を聞いてあげて。
それできっと、大丈夫だから」
丁度差し出されたスープは温かく、私はしっかりと頷いて、病院へと駆け出した。