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 職員室から出たら、彼はすぐにその腕を離して微笑んだ。

 「ありがとう美雲!助かった!」

 私は、彼を助けてもいないし巻き込まれただけだ。
 それなのに、無邪気な笑顔で嬉しく思ってしまうようなお礼を述べる相楽くんに、目を丸くする。

 もはや才能だ。ここまで純度100%で言葉を伝えられるのは……。いや、100%ではないかもしれないのだけれど。
 それでもそう思わせてしまうのだから、凄い才能であることは違いない。

 私は先を歩いて行こうとする彼に、思わず声をかけた。

 「聞いてないんだけど」
 「ん?言ってないよ?」

 「当たり前じゃん」と笑った彼の意図が読めない。

 分かりやすく眉をひそめた私に彼は「だーかーらー」と言葉を添えた。

 「安心してよ、逃げるためのただの口実だから。そんな真面目に捉えないでよ。さすが優等生の美雲さん」

 馬鹿にされているようにも感じる飄々とした口調に、私はため息をついた。

 やっぱり彼らの常識は理解しかねる。
 偶然会話に参加しただけなんだから、彼自身そう言っているんだから。
 私も言われた通り放っておけばいいのだ。

 私は、そう自分を納得させ、一度深呼吸をして教室へと戻った。