なあ、ハル。
 アンタはどうしてアタシを呼んだんだ。
 走り出した車両には人もまばらで、アタシは一人でシートに座って、流れていくホームを見つめていた。
 次第に光は遠のき、それからはただ断続的に、外灯からの光がちらちらと(のぞ)くだけ。引っ掛けるような、つっかけるような演奏をするジャズドラマーのリズムで、光と闇が交互に見えた。
 そこから外の様子は(うかが)えない。黒塗りの車窓にはただ、何にも感じてないみたいな風に憮然とした表情で座る自分が映るだけだ。
 暖房の風が自分に吹いてきて、髪がふぁさっとなびいた。先端が目に入ったが、首を振るのも手で払うのも面倒で、アタシはただ目を閉じた。
 レールと車輪の摩擦音が耳に馴染んでいって、世界にはもうこの音しか残されていなんじゃないかって言う気がした。
 溜め息一つ。
 どうやらアタシの声までは、無くなってないらしい。
 良かった。
 良かった?
 いっそ自分の声も存在も何もかも消えちまっていたら、そっちの方が良かったのかもな。
 なあ、ハル。
 そうすりゃアンタも少しは心配してくれるだろう。
 いや、アンタは既にこんなアタシを心配しているかもしれないな。
 でもそういうことなら、どうしてアタシを呼んだんだ。
 アンタは初めっからそのつもりでいて、まったく変更の予定なんかなかったってのなら、くだらないやり取りなんかやめにして、単刀直入にいっそメールや電話で伝えてくれりゃあ良かったんじゃあねえか。
 この馬鹿みたいに寒い空の下、わざわざ電車で出かけて、あの公園まで歩いていくことはなかったんじゃあないか。
 なあ。