三年生を送る会の翌日。
私達は卒業式の準備のためホームルームで、川村先生から説明を受けていた。
「んじゃー、このホームルームが終わったら会場準備のために体育館に移動します。内容はさっき言った通り、紅白幕を壁に飾る作業、机と椅子の設置、ステージ上の準備、太鼓のセッティングです。時間が余ったら、卒業式の練習もちょっとできれば良いなぁー」
毎年、卒業式の準備は先生方と協力して全校生徒で行う。
「説明は以上! 分からないことがあったら、その都度聞いてくださーい。では、体育館で待っててねー」
そう言うと、川村先生は職員室へと戻って行った。
体育館へ移動しながら、千秋に話し掛けた。
「千秋、門出の言葉の準備できてるの?」
「うん。緊張するー。あ、式の練習やるって言ってたから、一応、原稿も持ってきた」
門出の言葉は、生徒会長をしていた千秋が担当する。
「卒業かぁー。来年からJKだよ、JK! あたし達!」
ふーは変な顔で笑っている。
「ふー、高校生になっても中学生にしか見えないかもねー」
「そう言うなっつは、高校生になっても小学生にしか見えないよねー」
「ぬぅぅぅ?」
「ああん?」
バチバチと視線で戦っていたら、千秋が割って入ってきた。
「あんた達、お互い様でしょ」
千秋の鋭いツッコミに、私とふーはガックリと肩を落とした。
体育館に着くと先生方が集まっている。
まもなく、二年生達も体育館にやってきた。
「全員集まったね。んじゃー、早速準備に取りかかりましょう」
川村先生の号令で、会場準備に取りかかった。
「なっつー、あたしらは小さいから机と椅子の設置しよー」
「そうだねー。ステージ上の準備と紅白幕は背の高い人達に任せよー」
私とふーは机と椅子の設置を担当した。
「じゃー、この椅子全部使って指定の位置に椅子並べてね。椅子足りると思うけど」
中野先生が教えてくれた。
しかし、いくら来賓が来るとはいえ、椅子の数がやけに多すぎる。
「中野先生ー。椅子多すぎませんか? 足りるも何も、逆に余ると思いますけど」
私は中野先生に問いかけた。
「えっ? そう?」
「はい。だって来賓と私達の親の分だけですよ?」
「あと、お客さんの席」
「お客さん? お客さんって誰ですか?」
「あれ? 川村先生から聞いてないの? 最後の卒業式だから姫乃森地区のコミュニティー会の方が広報に載せるために取材に来るし……。あと、地元のテレビ局や新聞記者も来るのよ?」
「えぇー!」
相変わらずだけど、川村先生の連絡不足に呆れてしまう。
中野先生の指示で、机と椅子を設置した。
一時間程度で、式場全体の準備が終わる。
私とふーは、川村先生にメディアの取材が入ることについて聞いていないと抗議した。
その話を聞いた千秋が驚き、私達の話に加わってきた。
「ごめんごめん。忘れてた。まぁー、やることは例年通りで変わらないし大丈夫!」
「周りの目と人の多さが違います!」
千秋が猛反発している。
なにせ、門出の言葉を言う役割がある。
当日は緊張がMAXになることであろう。
「んじゃー、準備も終わって時間も余ったし、緊張がほぐれるように式の練習をしよう!」
ほんと、人の話を聞かない先生だ……。
二年生も加わり、私達は式の練習を始めた。
入退場の練習、卒業証書のもらい方、校歌と式歌の練習、門出の言葉と送る言葉の練習をした。
贈る言葉は生徒会長の明日香がやることに決まっている。
在校生も卒業式に出席するが、毎年見てきただけあって練習はバッチリ出来ていた。
生徒だけは……。
問題は川村先生であった。
一番緊張しているのは川村先生であることを、この練習で知ることになった。
「姫乃森中学校卒業生。工藤夏希」
「せんせーい。私じゃないです。千秋です。五十音順ですよー」
「え? あっ……。小原冬美」
「先生! うちとふーの名前が混ざってます!」
「あっ……。あー。ちょっと待ってね……。ゴンッ! いってぇ~……」
なんというテンパりよう……。
終いにはマイクに頭をぶつけてしまっていた。
そんな川村先生に、優しく落ち着いて教える内藤先生。
心配そうに見守る中野先生。
その様子を微笑みながら気楽に見ている校長先生。
川村先生のドジっぷりに呆れる生徒達。
生徒達のための練習のはずなのに、いつの間にか川村先生のための練習に変わってしまっていた。
「もう、帰っていいかな?」
ふーは飽きてしまったようだ。
「いや、うちまだ門出の言葉の練習一回しかやってないし……。もう少し付き合おうよ」
そう言いながら千秋は、ふーのことをなだめていた。
私はこのまま授業時間が潰れてくれればいいなと思い、ボーとしていた。
ボーとしている目の前には、ステージ上で国旗とともに校章が掲げられている。
最後の卒業式。
地元も注目するこの卒業式に最後の卒業生として出席できることを誇りに思う。
そして、小さい頃から共にしてきた仲間と最高の思い出をつくる。
そう思っていた。
だから、頼むから、どうか変なハプニングは起こらずに、平和に卒業式が終わって欲しい……川村先生よ。
気がつくと、チャイムが流れていた。
川村先生はというと、赤ペンで卒業式の資料に教えてもらっている内容を黙々と書き込んでいた。
「チャイム鳴っちゃったねー」
私がそう呟くと、中野先生が私達に話し掛けてきた。
「チャイムも鳴ったし、みんな教室に戻って良いわよ」
「はーい!」
「お尻いたーい」
「あー、疲れたー」
各々、ブツブツ言いながら教室に戻って行った。
そして、卒業式の日が翌日と迫ってきた。
私達は卒業式の準備のためホームルームで、川村先生から説明を受けていた。
「んじゃー、このホームルームが終わったら会場準備のために体育館に移動します。内容はさっき言った通り、紅白幕を壁に飾る作業、机と椅子の設置、ステージ上の準備、太鼓のセッティングです。時間が余ったら、卒業式の練習もちょっとできれば良いなぁー」
毎年、卒業式の準備は先生方と協力して全校生徒で行う。
「説明は以上! 分からないことがあったら、その都度聞いてくださーい。では、体育館で待っててねー」
そう言うと、川村先生は職員室へと戻って行った。
体育館へ移動しながら、千秋に話し掛けた。
「千秋、門出の言葉の準備できてるの?」
「うん。緊張するー。あ、式の練習やるって言ってたから、一応、原稿も持ってきた」
門出の言葉は、生徒会長をしていた千秋が担当する。
「卒業かぁー。来年からJKだよ、JK! あたし達!」
ふーは変な顔で笑っている。
「ふー、高校生になっても中学生にしか見えないかもねー」
「そう言うなっつは、高校生になっても小学生にしか見えないよねー」
「ぬぅぅぅ?」
「ああん?」
バチバチと視線で戦っていたら、千秋が割って入ってきた。
「あんた達、お互い様でしょ」
千秋の鋭いツッコミに、私とふーはガックリと肩を落とした。
体育館に着くと先生方が集まっている。
まもなく、二年生達も体育館にやってきた。
「全員集まったね。んじゃー、早速準備に取りかかりましょう」
川村先生の号令で、会場準備に取りかかった。
「なっつー、あたしらは小さいから机と椅子の設置しよー」
「そうだねー。ステージ上の準備と紅白幕は背の高い人達に任せよー」
私とふーは机と椅子の設置を担当した。
「じゃー、この椅子全部使って指定の位置に椅子並べてね。椅子足りると思うけど」
中野先生が教えてくれた。
しかし、いくら来賓が来るとはいえ、椅子の数がやけに多すぎる。
「中野先生ー。椅子多すぎませんか? 足りるも何も、逆に余ると思いますけど」
私は中野先生に問いかけた。
「えっ? そう?」
「はい。だって来賓と私達の親の分だけですよ?」
「あと、お客さんの席」
「お客さん? お客さんって誰ですか?」
「あれ? 川村先生から聞いてないの? 最後の卒業式だから姫乃森地区のコミュニティー会の方が広報に載せるために取材に来るし……。あと、地元のテレビ局や新聞記者も来るのよ?」
「えぇー!」
相変わらずだけど、川村先生の連絡不足に呆れてしまう。
中野先生の指示で、机と椅子を設置した。
一時間程度で、式場全体の準備が終わる。
私とふーは、川村先生にメディアの取材が入ることについて聞いていないと抗議した。
その話を聞いた千秋が驚き、私達の話に加わってきた。
「ごめんごめん。忘れてた。まぁー、やることは例年通りで変わらないし大丈夫!」
「周りの目と人の多さが違います!」
千秋が猛反発している。
なにせ、門出の言葉を言う役割がある。
当日は緊張がMAXになることであろう。
「んじゃー、準備も終わって時間も余ったし、緊張がほぐれるように式の練習をしよう!」
ほんと、人の話を聞かない先生だ……。
二年生も加わり、私達は式の練習を始めた。
入退場の練習、卒業証書のもらい方、校歌と式歌の練習、門出の言葉と送る言葉の練習をした。
贈る言葉は生徒会長の明日香がやることに決まっている。
在校生も卒業式に出席するが、毎年見てきただけあって練習はバッチリ出来ていた。
生徒だけは……。
問題は川村先生であった。
一番緊張しているのは川村先生であることを、この練習で知ることになった。
「姫乃森中学校卒業生。工藤夏希」
「せんせーい。私じゃないです。千秋です。五十音順ですよー」
「え? あっ……。小原冬美」
「先生! うちとふーの名前が混ざってます!」
「あっ……。あー。ちょっと待ってね……。ゴンッ! いってぇ~……」
なんというテンパりよう……。
終いにはマイクに頭をぶつけてしまっていた。
そんな川村先生に、優しく落ち着いて教える内藤先生。
心配そうに見守る中野先生。
その様子を微笑みながら気楽に見ている校長先生。
川村先生のドジっぷりに呆れる生徒達。
生徒達のための練習のはずなのに、いつの間にか川村先生のための練習に変わってしまっていた。
「もう、帰っていいかな?」
ふーは飽きてしまったようだ。
「いや、うちまだ門出の言葉の練習一回しかやってないし……。もう少し付き合おうよ」
そう言いながら千秋は、ふーのことをなだめていた。
私はこのまま授業時間が潰れてくれればいいなと思い、ボーとしていた。
ボーとしている目の前には、ステージ上で国旗とともに校章が掲げられている。
最後の卒業式。
地元も注目するこの卒業式に最後の卒業生として出席できることを誇りに思う。
そして、小さい頃から共にしてきた仲間と最高の思い出をつくる。
そう思っていた。
だから、頼むから、どうか変なハプニングは起こらずに、平和に卒業式が終わって欲しい……川村先生よ。
気がつくと、チャイムが流れていた。
川村先生はというと、赤ペンで卒業式の資料に教えてもらっている内容を黙々と書き込んでいた。
「チャイム鳴っちゃったねー」
私がそう呟くと、中野先生が私達に話し掛けてきた。
「チャイムも鳴ったし、みんな教室に戻って良いわよ」
「はーい!」
「お尻いたーい」
「あー、疲れたー」
各々、ブツブツ言いながら教室に戻って行った。
そして、卒業式の日が翌日と迫ってきた。