「サトーさん、おまたせしました」
「いえ、こちらも待っていませんから。マールさんもローゼさんもおはようございます」

 朝食の後、支度をしてギルドへ。
 受付での手続き後にチナさんと合流し、王都に向かう街道へ。

「うーん、うーん」

 馬車の中でララ達とチナさんが勉強をしているので、ドラコも一緒に勉強をしているが、どうも順調に進んでいないようだ。
 今にも頭から煙が出てきそう。
 中身は、そんなに難しい事を書いてはないけど。

「サトーよ、明日はどうするのじゃ?」
「可能でしたら朝イチでブルーノ侯爵領に向かって、夕方までに着いたらそのままギルドで薬草をおろす手続きをしようかと。何かありますか?」
「いやな、どうせならチナ達もブルーノ侯爵領に連れていくのはどうかと」
「あ、そうですね。まだブルーノ侯爵領への街道は安定したとは言えませんし」

 ビアンカ殿下からの提案はもっともだ。
 いとこの顔も直接見たいだろうし、会った方が安心できるだろう。

「チナさん、この提案どうですか」
「とってもありがたいのですが、よろしいのですか?」
「私たちもどうせブルーノ侯爵領に行かないといけませんし、行き先が同じなら安心するでしょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 ということで、チナさん達も一緒にブルーノ侯爵領へ行く事に。
 明日朝ギルドに集合で話がついた。
 ちなみにドラコがやけに静かだなと思っていたら勉強で疲れ切っていたらしく、今日の採取場所についた時には口から魂が抜けていた。

「うおー、一杯取るぞ!」

 ドラコは勉強の反動なのか、薬草取りに燃えていた。
 体を動かすのが性に合っているのだろう。
 とりあえず昨日と一緒の組み合わせて、薬草取りを行う。
 
「今日は遠慮しなくていいから、どんどん薬草取っちゃって」
「分かった、ミケ頑張るよ」

 ミケの掛け声を合図にして、薬草取りを開始。
 今日も特にトラブルもなく順調に進んでいく。
 
「は!」
「うん、うまく仕留めていますね。これは後でギルドにおろしましょう」
「ありがとうございます」

 マールさんとローズさんが交代しながら護衛にまわっているが、マールさんも中々手際がいい。
 それに比べて。

「はあ!」
「あーあ、ドラコやりすぎだ」
「え? 何で? ミケちゃんもこうだったよ」
「ミケの倒したものと比べてみろ。ミケは綺麗に傷をつけないで倒しているが、お前のはぐちゃぐちゃだ。これでは安い値段になるぞ」
「えー、そんな」
「ドラコは何でも力で押しすぎ。ミケとエステル殿下について、戦闘訓練も必要だな」

 ドラコは力の加減ができないのか、倒した魔物の状態が悪い。
 どうも我流で格闘を習ったらしいので、これは基礎からやらないとダメだ。
 俺の中では、ドラコは手のかかる妹ポジションになりつつある。

「えーい」
「とーう」
「やー」

 ちなみにララとリリとレイアは掛け声はともかくとして、それぞれ中々の腕前だった。
 こっちが指示を出したらどんどん上達するし、的確に急所をとらえている。
 魔法の腕も良いし、これは中々の逸材だ。

「エステル殿下にミケ、すみませんがドラコに格闘の基礎を教えてくれませんか?」
「私でいいなら」
「ミケも大丈夫」

 昼食の際に、エステル殿下とミケにドラコの格闘を見てくれと頼んだ。
 午前中頑張って薬草を取ったので、必要な量は確保できている。
 なので、午後はそれぞれの戦闘訓練をしつつ手の空いた人で薬草取りをしている。
 リンさんがローゼさんとララとリリを見ている。
 ビアンカ殿下がマールさんを。
 俺がチナさんとレイアの魔法関連を教えている。
 俺が魔法関連でいいのかと思ったが、リーフもルキアさんやマリリさんの様な魔法使いが今はいないのでしょうがない。
 ちなみにシルはベリルを連れて森の中へ。
 何やら特訓をするらしいのだが、程々にしてほしい。
 それぞれ半分が特訓で半分が薬草取りで動いている。

「パパ、魔力弾できた」
「どれどれ? お、ちゃんとできているな」

 レイアは朝の魔法訓練で練習した魔力圧縮をもう覚えた様で、木に向かってエアーバレットの試し打ちをしていた。
 俺はレイアの魔法制御技術に感心しつつ、レイアの頭を撫でて褒めてやった。
 
「はー、レイアちゃん凄いですね」
「これは今朝教えたばかりなんですけど、もうできる様になっていて驚いています」
「えっへん」

 レイアが珍しくドヤ顔したのでチナさんも笑っていたが、チナさんの魔力制御も中々のものだ。
 属性は風と回復でレイアと被っているので、お互いに色々話をしている。
 獣人なので周りに魔法使いが少ない分、詳しく教えてくれる人がいなかったのでひたすら魔法制御の勉強をしていたらしい。
 技の数をもう少し増やしたら、いい魔法使いになりそうだ。
 
「さてさて、ドラコの方はどうだ?」

 エステル殿下とミケに指導を受けているドラコを見る。
 うん、あれは苦戦しているな。

「うーん、ドラコちゃんは体に力が入りすぎだね」
「もっとぶらんとした方がいいよ」

 ドラコは体に力が入りすぎで、動きがぎごちない。
 一発一発に力を入れているので、技の連動性がない。
 ミケにもすぐ動きを見切られて、簡単に負けてしまう。
 
「うー、うまくいかないよー」
「ドラコ、先ずは避けるトレーニングをしよう。そうすれば体の動きも変わるよ」
「本当?」

 俺もかなり大変だった、あの訓練をやってもらおう。
 ドラコにとって、きっとタメになるはず。

「サトー、あの訓練をするの? ドラコちゃんにはキツくない?」
「あの特訓楽しいよね!」
「特訓って、楽しいの? 大変なの?」

 エステル殿下とミケとで反応が違っていてドラコは戸惑っているが、俺は絶対に大変だと思う。
 明日の朝にやって見てから、その後の事を考えよう。

 撤収の時間となったので、みんなで馬車に乗り込み帰り路へ。
 ドラコは疲れ切ったのか、馬車の中でまた魂が抜けている。
 他の人は冊子を見ているけど、ドラコはどう考えても無理だな。
 今日はこのまま休ませておこう。

「うー、疲れた」
「ほら、明日は朝早く出るから今のうちに支度しておけ」
「はーい」

 夕食を取って明日の出発の準備をしているが、ドラコはベットの上でぐたぐたしている。
 ミケとララとリリとレイアは奥様ズに捕まり、道中の服のファッションショーをしている。
 俺は準備があるからと、丁重にお断りした。

 バン。

「お兄ちゃん、どうかな?」

 ドアを開けて入ってきたのはミケとララとリリとレイア。
 それにサーシャさんもいた。
 おお、ドラコがサーシャさんを見てビクビクしているぞ。
 
「今回はちゃんと可愛らしさに加えて、実用性も兼ね備えているのよ」

 今回のミケたちの衣装は、どうやらサーシャさんの自信作のようだ。
 ミケは素軽さをメインにしているので、黒のシャツに黒の短パンで、白のジャケットを着ている。
 ララとリリは色違いだけと、ゴスロリ風の衣装だ。
 ララが白をメインにし、リリが黒色を基調としている。
 二人の髪の色に合わせたようだ。
 フリルもたくさん使われてきて、かなり手の込んでいる衣装だな。
 レイアはスッキリとしたワンピースの上にローブを着ている。
 全体に緑色で統一されていて、こちらも髪の色にあわせたようだ。

「へー、中々いい感じに出来てますね」
「ふふーん、しかもタラちゃん達の糸を使っているから、防御力もバッチリ」

 いつの間にかと思ったけど、確かにアルケニーの糸ならかなりの防御力はありそうだ。

「さて、これからが本番ですよ」
「ひぃ」

 そしてサーシャさんに取ってこれからが本番らしい。
 俺の後にいたドラコがターゲットの様だ。
 ドラコは悲鳴を上げていたが、サーシャさんは止まらない。

「ミケちゃん達もお願いね」
「「「「はーい」」」」

 そしてサーシャさんの号令のもと、ミケ達がドラコの両腕を掴んでいるサーシャさんのところに連れて行った。

「うふふふふ」
「サトー、助けて……」

 バタン。

 無常にもドラコの悲鳴を無視して、ドラコはサーシャさんに連れて行かれた。
 俺にはサーシャさんを止める事はできない。
 ドラコよ、諦めてくれ。

「疲れた……」
「お疲れ様」

 ドラコが解放されたのは二時間後。
 気力体力を使い果たし、直ぐに寝てしまった。
 今日はドラコにとって受難な日だったな。