ブルーノ侯爵領を出発して一時間、馬車は順調に街道を進んでいった。
 俺達がブルーノ侯爵にいる間に随分と魔物の討伐が進んだのか、出発してからまだ魔物には遭遇していない

「サトー、今日はこの後どうするの?」
「今日は夕方まではこのまま馬車で移動するよ。リンさんのお家でお泊まりだね」
「明日と明々後日は薬草取りして、その次の日にブルーノ侯爵領へ戻るよ」
「おお、冒険者みたいな事をするんだね」
「ルキアさんのお父さんからの依頼だから、実際に冒険者の仕事だよ」

 道中は俺が御者をして馬車を進めている。
 まあ、この馬だからお任せでも大丈夫なんだよね。
 俺の横に座って足をぶらぶらさせているドラコが、今後の予定を聞いてきた。
 薬草取りは、ルキアさんのお父さんからの指名依頼となっている。
 もちろん依頼料は最低金額で設定しているが。
 ドラコは冒険者の活動ができるのが嬉しそうだ。
 そういえばドラコは冒険者登録をしていない。

「ドラコ。この際だから、バスク領に着いたら冒険者登録をしておこう」
「やった! これでドラコも冒険者だ」
「あと、リンさんのお家に俺が面倒を見ている子どもがいるから、仲良くしてやってな」
「へえ、どんな子なの?」
「天使と悪魔の双子と、エルフの子だよ。三人も一緒に冒険者登録をする予定だ」
「おお、一緒に頑張るよ」

 ドラコは仲間が増えるのと、冒険者登録ができる事を喜んでいた。
 同年代はミケとビアンカ殿下位しかいなかったので、三人にとってもいい友達になってほしいものだ。

「うー」
「ミケよ、暫く我慢せい。ドラコも色々あるのじゃ」

 ミケは俺がドラコと話しているのが不満そうで、ビアンカ殿下にたしなめられていた。

「ミケちゃんは、今まではずっとサトーさんを独り占めでしたから」
「それが段々と人が増えてるからね。わたし達もお邪魔なのかな」

 この世界にきて、シルとミケで色々始まったからな。
 人が増えてきて、ミケも俺といる時間も少なくなったし。
 どこかで、ミケと二人っきりの時間をとってやらないと。

 その後も順調に進み、今は昼食タイム。
 今回はスラタロウがブルーノ侯爵領に残っているので、事前に購入してアイテムボックスに入れておいたお好み焼きとたこ焼きを食べる事に。
 ドラコは珍しい食べ物に興味津々だ。
 
「そうだ、ドラコは魔法が使えるのか?」
「うーん、まだ使えないんだよね。人化は上位龍族の技術というか魔法とは違うんだよ」
「そっか、じゃあ魔法使いの先輩としてミケがドラコに魔法を教えてあげよう」
「お、ドラコちゃんに魔法を教えるよ」
「サトー、ミケちゃんは魔法使えるの?」
「ミケは魔法を使えるし、魔力制御も上手だから大丈夫だよ」

 ミケとドラコが仲良くなれるように、馬車で移動する間できる事をお願いしよう。
 
「サトーも苦労しているのう」
「サトーさんは面倒見が良いですから。実質子どもが五人いる計算になりますね」
「従魔を含めるともっといるよね」

 ビアンカ殿下とかも、その内に子どもが生まれれば分かりますよ。

 昼食を食べ終わって、再び馬車は進んでいく。
 まだブルーノ侯爵領からの馬車は少ないけど、増えれば特に食料の取り扱いが増えるなと思っていたら、バスクの城壁が見えてきた。
 段々と大きくなってきて、ミケとドラコのテンションも上がってきた。

「リン様、おかえりなさいませ」
「ご苦労さま。何か変わったことはありましたか?」
「ブルーノ侯爵領へ部隊が向かった以外は、特にありません」

 リンさんが門兵に情報を聞いていた。
 どうやら不在の間は、特に問題はなかったようだ。
 門を抜けて街中に入ると、活気のある声が聞こえてきた。
 そんな中、ドラコが門のやりとりを聞いてきた。

「ねえサトー、わたしたちは何で他の人と違って何も調べられなかったの?」
「それは、リンさんがバスク領のお嬢様だからなんだよ。オリガさんとマリリさんは、リンさんお付きなんだ」
「じゃあ、ブルーノ侯爵領では何でなの?」
「ルキアさんがブルーノ侯爵領のお嬢様だからだよ」
「へー、そうなんだ」

 よく考えれば、殆どの城門をノーパスで通過しているから、ドラコにとっては不思議なんだろうね。
 普通は不審者が入らないようにチェックされるし。

「ビアンカちゃんとエステルもお嬢様なの?」
「ビアンカ殿下とエステル殿下は、この国のお嬢様だよ。王女様だね」
「王女様! カッコいい!」

 よく考えれば王女二人とずっといるのも凄いことだな。
 アルス王子とかもよく話すし。
 ドラコに褒められて、ビアンカ殿下もエステル殿下も悪い気はなさそうだ。
 ここでドラコが問題発言をする。

「じゃあ、サトーはどこのお姫様なの?」
「は? どういう事?」
「今朝行ったところで、メイドさんとかが、サトーさんはブルーノ侯爵領を救ってくれたお姫様って言っていたよ」
「その前に、俺は男ですよ……」

 おい、一体どういう事だ?
 何故俺が、救国のお姫様扱いになっているのか。

「その話は妾も聞いたのじゃ。何でも求婚してきた跡取りを返り討ちにしたとか」
「あ、わたしも聞いた。現れた魔物を華麗に倒したとか」
「後は、助け出された傷ついた子どもに優しく治療をしたとか。これはわたしも見ましたけど、あの光景は噂になってもしょうがないですね」
「おお、なんてこった。全てに身に覚えがある」

 まだ一日もたってないのに、そこまで噂が広がっているとは。
 これは俺がいない間に、噂に尾ひれがつくパターンだ。
 しかも事実なだけに何も言えない。
 うう、ブルーノ侯爵領に戻りたくなくなったぞ。
 気持ちとは裏腹に、段々とバスク領のお屋敷に近づいてきた。