ホールを一時的な救護先として、次々と担架に乗せられた違法奴隷が運ばれてくる。
鞭の跡があったり、切り傷刺し傷があったり、栄養状態も良くなく痩せていたりと、とにかく状態が良くない。
そこにビアンカ殿下から、さらなるSOSが上がった。
「サトー、ルキア。急いで治療してくれ」
「この子はどうしたんですか?」
「息子の隠し部屋におった。他にも何人かおるし、先程領主夫人の部屋でも隠し部屋があった」
「分かりました、直ぐに治療します」
「こんなになるまで、酷いですよ」
運ばれてきたのは、小さな獣人の男の子。
顔を含めて、全身に殴られた跡がある。
次々と運ばれてくる怪我をした子どもに、俺とルキアさんは回復魔法をかけていく。
殴られた跡があるのはバカ息子の方で、切り傷とかもある。これは剣を使っているな。
一方で領主夫人の隠し部屋から出てきたのは、鞭の跡がある子ども達。
息子よりも被害者の年齢は高めだ。
子どもは全て確認できたようで、全部で二十人くらい。
成人女性も十人くらい確認できた。
「ルキア様、領主様を救出しました」
「お父様!」
モルガンさん達が、ルキアさんのお父さんを担架で運んできた。
痩せていて動けないが、意識はハッキリしている。
「ルキアよ、色々済まないな」
「お父様、お父様」
ルキアさんは担架に横わたるお父さんの胸に抱きつき、嗚咽を漏らしていた。
父親はそんな娘の頭を優しく撫でていた。
七年ぶりの親子の再会となった。
モルガンさんも、ケリーさんも、涙を流して喜んでいた。
「ルキアよ。儂の事よりも子ども達の事を頼む。今お前ができることをやるのじゃ」
「はい、お父様」
ルキアのお父さんは、自分の事よりも子ども達を優先させていた。
ルキアさんも涙を拭いて、子ども達の治療を再開した。
ルキアさんのお父さんは、ケリーさんが面倒を見ている。
「アルス王子殿下、このようなことになり大変申し訳無い。責任は私めにお願いします」
「いや、卿が無事で良かった。ブルーノ侯爵領の安定には、卿の力が必要だな」
「勿体ないお言葉です」
「こうしてルキアも戻ってきた。先ずは体の静養に努めるが良い」
「はい、こうしてルキアに会えた事に、皆様に感謝します」
アルス王子がまだ担架に寝ているルキアのお父さんの近くで、色々話をしている。
先ずは、元気になってもらわないといけないよな。
と、そこに子ども達をおんぶやだっこしたリンさん達が駆けつけた。
「アルス王子殿下、サトーさん。ワース商会は制圧しました。今、小隊三班が現場検証しています」
「リンさんお疲れ様です。その子どもが囚われていたのですか?」
「はい、三名だったのでここに連れてきました。目立った外傷もなく元気です」
リンさん達が連れてきた子どもは、確かに外傷もなく健康状態も良いようだ。
この分なら治療の必要はないだろう。
「子ども達や囚われていた人に、温かい食事を出さないといけませんね」
「そうだな。卿よ、先ほどの誕生パーティーで出された食事が、殆ど手つかずで残っている。それを皆に提供してもよいか?」
「もちろんでございます。ケリー、皆に配ってやりなさい。もし、食事を取ってないメイドがいたら、一緒に食べさせてやりなさい」
「畏まりました」
アルス王子に食事の事を聞いたら、直ぐにルキアさんのお父さんに聞いてくれた。
子ども達だけでなくメイドさんにも気を配るなんて、やはりルキアさんのお父さんは良い人だ。
「アルス王子殿下、今できる治療はだいたい終わりました。暫くは安静にして、薬草を併用した治療が必要です」
「それは任せよう。治療と食事を取らせたら、休ませてやらんとな」
「お父様には、客室で休んでもらいます。また、誕生パーティーの会場を仮の救護室として使います」
ルキアさんからアルス王子に報告したが、治療は一区切りでみんなで食事中。
メイドさんが追加で料理を作っている。
ちなみにうちの料理長スラタロウも、厨房でみんなの分の料理を作っているそうだ。
ルキアさんのお父さんも休養しないといけないし、子ども達も休まないといけない。
エステル殿下とリンさんとオリガさんは、パーティー会場を臨時の救護室とするために、寝床とかを他の人と共に運んでいる。
マリリさんは、子ども達の治療や食事の面倒を見ていた。
ミケとビアンカ殿下は子ども達の相手をしている。
こういうのは、年齢が近い方が効果的だろう。
「殿下、ギルドと国教会の制圧が完了しました。しかし人神教会は既に人も荷物も一切ありませんでした」
「ビルゴと闇の魔道士が何かしたのだろう。人神教会は警備だけ継続だ」
「は!」
騎士からアルス王子に報告があったが、人神教会は闇の魔道士がまとめて色々な物を運んだのだろう。
逆を言えば、ブルーノ侯爵領から闇ギルドの影響が殆どなくなったともいえる。
「殿下、関係者の身体検査が終わりました。あの若い男がこの屋敷の執事らしく、鍵などを隠し持っていました。国教会の司祭とギルド長の引き渡しも完了し、関係者は別室で監視中です」
「分かった。関係者は明日朝イチで飛龍で王都に搬送する。それまで交代で監視せよ」
「は!」
関係者の対応も今日分は終わった。
王都に移送され、正当な裁判で裁かれる事を祈るばかりだ。
今日は子ども達を休ませたら終わりなんだけど、その子ども達の中に気になる存在がいる。
殆どの子どもは獣人らしいが、一人だけ明らかに別の存在がいた。
「アルス王子、あれはもしかして龍の子では?」
「人化しているが、あれは龍だろう」
年齢はビアンカ殿下と同じ位だが、頭から龍の角っぽいものが出ている。
尻尾も赤い鱗の立派な物だ。
赤い髪が肩まで伸びていて、勝ち気な瞳も赤い色をしている。
チャイナドレスみたいな刺繍がされた服も赤い物だ。
見ただけで炎系の龍だとわかる。
「アルス王子、もし大物の龍の子どもだったらどうしますか?」
「考えたくもない」
珍しくアルス王子が頭を抱えていた。
何せ相手は龍だ。
一歩対応を間違えたら、王都すら壊滅する恐れがある。
と、そこに子ども達の相手をしていたビアンカ殿下が会話に加わった。
「お兄様にサトーよ、残念ながらあの龍の子は大物じゃ。ドワーフ自治領にいる赤龍の子どもだそうじゃ」
「アルス王子、大物ですか?」
「大物だよ。ここにきてこんな爆弾があるとは」
「まあ、そこまで深刻に考えなくてもよいのじゃ。彼女はドラコ。冒険者を目指して旅をしていた所、闇ギルドに食事に睡眠薬を盛られていたそうじゃ。特に虐待は受けてないのじゃ」
「いや、龍の子を監禁していた事が、既に問題なのでは?」
領主夫人も爆弾を残していったよ。
たぶん闇ギルドから珍しい違法奴隷が手に入ったって、領主夫人に紹介したんだな。
「うん? ビアンカちゃん。ドラコの話をしていた」
「そうじゃ。ここにいるのは、妾のお兄様のアルス王子と冒険者のサトーじゃ」
「冒険者のサトー! さっきミケちゃんからサトーの話を聞いたんだ。そして冒険者やるなら一緒に行こうって誘ってくれたんだよ」
ドラコは自分の話をしていたビアンカ殿下の元に来て、アルス王子と俺の紹介を受けたら俺のことをキラキラした目で見上げてきた。
そして、ドラコは俺に抱きついてきたぞ。
くそー、ミケのやつはなんて事を言ったんだよ。
「お兄様、解決策ができて良かったのじゃ」
「ああ、冒険者を目指すならサトーの所が良いだろう」
ビアンカ殿下とアルス王子まで、ドラコを俺に押しつけてきた。
良い解決策が出来たと喜んでいる。
いや、もしこの子に何かあったら、俺が龍の襲撃を受けることになるんじゃ。
「あ、ドラコちゃんとお姉ちゃんだ。ドラコちゃんも仲間になるの?」
「ビアンカちゃんとビアンカちゃんのお兄ちゃんが、サトーなら良いって」
「やったー! 一緒に冒険を頑張ろうね!」
「うん、頑張ろうミケちゃん!」
ミケがこちらに来て、ドラコと手を取り合って喜んでいる。
これで駄目だと言った方が、きっと被害が大きくなりそうだ。
先ずはドラコちゃんと話をしないと。
「ドラコちゃん」
「ドラコで良いよ」
「じゃあ、ドラコで。冒険者になりたいの?」
「うん! お母さんも元冒険者で、頑張ってと言って送り出してくれたんだ」
「そっか。冒険者登録はしたの?」
「まだだよ」
「じゃあ、お母さんから冒険者の基礎は教えて貰った?」
「うーん、依頼をするとしか聞いてないな」
「じゃあ、基礎から教えないと」
「うん、ありがとう! サトー」
この子は何も知らないんだな。
俺もまだ冒険者になって日が浅いけど、この子は放置できないって気がする。
またドラコに抱きつかれているけど、嫌われるよりかはマシか。
そしてドラコは、抱きついたま上目使いで爆弾発言をしてきた。
「あ、そうだ。ミケちゃんが言ってたけど、サトーは本当は男だけど趣味で女装しているって本当?」
「誰が趣味で女装するか! 任務で仕方なく女装しているだけだ」
「えー、でもお店手伝ってる時は女装でノリノリだって聞いたよ」
おいミケ、あんた初対面の子になんて事を教えたんだよ。
ドラコは、完全に勘違いしているぞ。
俺の後ろでビアンカ殿下とアルス王子も笑いを堪えているし。
「クンクン。うーん、確かに匂いは男だけど、見た目は女にしか見えないや」
「ブハハハ、今度は龍の子にまで女性と言われているのじゃ」
「アハハハ、サトーは趣味で女装しているとか。これは傑作だな」
ドラコは俺に抱きついたまま、匂いを嗅いで男と判断したようだが、未だに戸惑っていた。
俺の後ろのビアンカ殿下とアルス王子は、ついに爆笑し始めているし。
俺達の話を聞いた成人女性も、信じられないって感じで俺を見ている。
「ねー、お姉ちゃん。あの女の人は男なの?」
「本当はそうなんですよ。でも、女性にしか見えないですよね」
「「「女の人にしか見えない!」」」
マリリさん、あんた子どもに何を言っているんですか。
違法奴隷の子どもも、俺を指さして女性にしか見えないって口を揃えない。
「ははは、サトーのお陰で場の空気が和んだのじゃ」
「子どもの気持ちを変えるとは、流石はサトーだ」
子ども達の反応を見て、またビアンカ殿下とアルス王子が笑っている。
確かに心が傷ついた子どもが笑っているのはいい傾向だけど、流石に納得はしないぞ。
「アルスお兄ちゃん、救護室の準備ができたよって、何でサトーはへこんでいるの?」
「人生色々あるんだよ……」
「ふーん、まあいいや。じゃあ、ごはん食べた子からあっちで寝るよ!」
「「はーい」」
エステル殿下が救護室ができたと報告にきたが、へこんでいる俺をスルーして子ども達の誘導をはじめた。
子ども達の声が明るいから、良しとしておこう。
ちなみにルキアさんは、今日はこのまま領主邸で子ども達と一緒に寝るそうです。
アルス王子と飛龍部隊も領主邸の客室に泊まって、明日朝に王都に出発するという。
ルキアさんのお父さんも既に客室で休んでいるそうだ。
自治組織のメンバーも警備メンバー以外は一旦帰り、明日朝に集合となる。
俺達もコマドリ亭に帰って、明日に備える。
ドラコもコマドリ亭で寝ることになった。
「サトーさん、その子が新しい仲間ですか?」
「仲間というか保護したというか。暫くは一緒に冒険者として活動する予定です」
リンさんからドラコの質問がきたので、取り敢えずの方針を伝えた。
「ドラコだよ。お姉ちゃんは?」
「私はリンですよ」
「オリガです」
「さっき話したね。マリリだよ」
マリリさんは子ども達の世話をしていたから、既に挨拶はしていた模様だ。
リンさんとオリガさんが、ドラコに話しかけていた。
ちなみにエステル殿下とルキアはんは既に挨拶済みだ。
従魔とかは既に寝てしまっていたので、紹介は明日に持ち越しだ。
「ふう、疲れたな」
部屋についたら、着替えてベットに寝転んでいた。
ようやく、ウイッグとか女装しないでよい生活が戻るのは嬉しい。
ドラコとミケは同じベッドで既に寝ている。
相当疲れていたのもあるんだろうな。
バスク領に残っているララとリリとレイアにも会いたいなと思いながら、寝るのだった。
鞭の跡があったり、切り傷刺し傷があったり、栄養状態も良くなく痩せていたりと、とにかく状態が良くない。
そこにビアンカ殿下から、さらなるSOSが上がった。
「サトー、ルキア。急いで治療してくれ」
「この子はどうしたんですか?」
「息子の隠し部屋におった。他にも何人かおるし、先程領主夫人の部屋でも隠し部屋があった」
「分かりました、直ぐに治療します」
「こんなになるまで、酷いですよ」
運ばれてきたのは、小さな獣人の男の子。
顔を含めて、全身に殴られた跡がある。
次々と運ばれてくる怪我をした子どもに、俺とルキアさんは回復魔法をかけていく。
殴られた跡があるのはバカ息子の方で、切り傷とかもある。これは剣を使っているな。
一方で領主夫人の隠し部屋から出てきたのは、鞭の跡がある子ども達。
息子よりも被害者の年齢は高めだ。
子どもは全て確認できたようで、全部で二十人くらい。
成人女性も十人くらい確認できた。
「ルキア様、領主様を救出しました」
「お父様!」
モルガンさん達が、ルキアさんのお父さんを担架で運んできた。
痩せていて動けないが、意識はハッキリしている。
「ルキアよ、色々済まないな」
「お父様、お父様」
ルキアさんは担架に横わたるお父さんの胸に抱きつき、嗚咽を漏らしていた。
父親はそんな娘の頭を優しく撫でていた。
七年ぶりの親子の再会となった。
モルガンさんも、ケリーさんも、涙を流して喜んでいた。
「ルキアよ。儂の事よりも子ども達の事を頼む。今お前ができることをやるのじゃ」
「はい、お父様」
ルキアのお父さんは、自分の事よりも子ども達を優先させていた。
ルキアさんも涙を拭いて、子ども達の治療を再開した。
ルキアさんのお父さんは、ケリーさんが面倒を見ている。
「アルス王子殿下、このようなことになり大変申し訳無い。責任は私めにお願いします」
「いや、卿が無事で良かった。ブルーノ侯爵領の安定には、卿の力が必要だな」
「勿体ないお言葉です」
「こうしてルキアも戻ってきた。先ずは体の静養に努めるが良い」
「はい、こうしてルキアに会えた事に、皆様に感謝します」
アルス王子がまだ担架に寝ているルキアのお父さんの近くで、色々話をしている。
先ずは、元気になってもらわないといけないよな。
と、そこに子ども達をおんぶやだっこしたリンさん達が駆けつけた。
「アルス王子殿下、サトーさん。ワース商会は制圧しました。今、小隊三班が現場検証しています」
「リンさんお疲れ様です。その子どもが囚われていたのですか?」
「はい、三名だったのでここに連れてきました。目立った外傷もなく元気です」
リンさん達が連れてきた子どもは、確かに外傷もなく健康状態も良いようだ。
この分なら治療の必要はないだろう。
「子ども達や囚われていた人に、温かい食事を出さないといけませんね」
「そうだな。卿よ、先ほどの誕生パーティーで出された食事が、殆ど手つかずで残っている。それを皆に提供してもよいか?」
「もちろんでございます。ケリー、皆に配ってやりなさい。もし、食事を取ってないメイドがいたら、一緒に食べさせてやりなさい」
「畏まりました」
アルス王子に食事の事を聞いたら、直ぐにルキアさんのお父さんに聞いてくれた。
子ども達だけでなくメイドさんにも気を配るなんて、やはりルキアさんのお父さんは良い人だ。
「アルス王子殿下、今できる治療はだいたい終わりました。暫くは安静にして、薬草を併用した治療が必要です」
「それは任せよう。治療と食事を取らせたら、休ませてやらんとな」
「お父様には、客室で休んでもらいます。また、誕生パーティーの会場を仮の救護室として使います」
ルキアさんからアルス王子に報告したが、治療は一区切りでみんなで食事中。
メイドさんが追加で料理を作っている。
ちなみにうちの料理長スラタロウも、厨房でみんなの分の料理を作っているそうだ。
ルキアさんのお父さんも休養しないといけないし、子ども達も休まないといけない。
エステル殿下とリンさんとオリガさんは、パーティー会場を臨時の救護室とするために、寝床とかを他の人と共に運んでいる。
マリリさんは、子ども達の治療や食事の面倒を見ていた。
ミケとビアンカ殿下は子ども達の相手をしている。
こういうのは、年齢が近い方が効果的だろう。
「殿下、ギルドと国教会の制圧が完了しました。しかし人神教会は既に人も荷物も一切ありませんでした」
「ビルゴと闇の魔道士が何かしたのだろう。人神教会は警備だけ継続だ」
「は!」
騎士からアルス王子に報告があったが、人神教会は闇の魔道士がまとめて色々な物を運んだのだろう。
逆を言えば、ブルーノ侯爵領から闇ギルドの影響が殆どなくなったともいえる。
「殿下、関係者の身体検査が終わりました。あの若い男がこの屋敷の執事らしく、鍵などを隠し持っていました。国教会の司祭とギルド長の引き渡しも完了し、関係者は別室で監視中です」
「分かった。関係者は明日朝イチで飛龍で王都に搬送する。それまで交代で監視せよ」
「は!」
関係者の対応も今日分は終わった。
王都に移送され、正当な裁判で裁かれる事を祈るばかりだ。
今日は子ども達を休ませたら終わりなんだけど、その子ども達の中に気になる存在がいる。
殆どの子どもは獣人らしいが、一人だけ明らかに別の存在がいた。
「アルス王子、あれはもしかして龍の子では?」
「人化しているが、あれは龍だろう」
年齢はビアンカ殿下と同じ位だが、頭から龍の角っぽいものが出ている。
尻尾も赤い鱗の立派な物だ。
赤い髪が肩まで伸びていて、勝ち気な瞳も赤い色をしている。
チャイナドレスみたいな刺繍がされた服も赤い物だ。
見ただけで炎系の龍だとわかる。
「アルス王子、もし大物の龍の子どもだったらどうしますか?」
「考えたくもない」
珍しくアルス王子が頭を抱えていた。
何せ相手は龍だ。
一歩対応を間違えたら、王都すら壊滅する恐れがある。
と、そこに子ども達の相手をしていたビアンカ殿下が会話に加わった。
「お兄様にサトーよ、残念ながらあの龍の子は大物じゃ。ドワーフ自治領にいる赤龍の子どもだそうじゃ」
「アルス王子、大物ですか?」
「大物だよ。ここにきてこんな爆弾があるとは」
「まあ、そこまで深刻に考えなくてもよいのじゃ。彼女はドラコ。冒険者を目指して旅をしていた所、闇ギルドに食事に睡眠薬を盛られていたそうじゃ。特に虐待は受けてないのじゃ」
「いや、龍の子を監禁していた事が、既に問題なのでは?」
領主夫人も爆弾を残していったよ。
たぶん闇ギルドから珍しい違法奴隷が手に入ったって、領主夫人に紹介したんだな。
「うん? ビアンカちゃん。ドラコの話をしていた」
「そうじゃ。ここにいるのは、妾のお兄様のアルス王子と冒険者のサトーじゃ」
「冒険者のサトー! さっきミケちゃんからサトーの話を聞いたんだ。そして冒険者やるなら一緒に行こうって誘ってくれたんだよ」
ドラコは自分の話をしていたビアンカ殿下の元に来て、アルス王子と俺の紹介を受けたら俺のことをキラキラした目で見上げてきた。
そして、ドラコは俺に抱きついてきたぞ。
くそー、ミケのやつはなんて事を言ったんだよ。
「お兄様、解決策ができて良かったのじゃ」
「ああ、冒険者を目指すならサトーの所が良いだろう」
ビアンカ殿下とアルス王子まで、ドラコを俺に押しつけてきた。
良い解決策が出来たと喜んでいる。
いや、もしこの子に何かあったら、俺が龍の襲撃を受けることになるんじゃ。
「あ、ドラコちゃんとお姉ちゃんだ。ドラコちゃんも仲間になるの?」
「ビアンカちゃんとビアンカちゃんのお兄ちゃんが、サトーなら良いって」
「やったー! 一緒に冒険を頑張ろうね!」
「うん、頑張ろうミケちゃん!」
ミケがこちらに来て、ドラコと手を取り合って喜んでいる。
これで駄目だと言った方が、きっと被害が大きくなりそうだ。
先ずはドラコちゃんと話をしないと。
「ドラコちゃん」
「ドラコで良いよ」
「じゃあ、ドラコで。冒険者になりたいの?」
「うん! お母さんも元冒険者で、頑張ってと言って送り出してくれたんだ」
「そっか。冒険者登録はしたの?」
「まだだよ」
「じゃあ、お母さんから冒険者の基礎は教えて貰った?」
「うーん、依頼をするとしか聞いてないな」
「じゃあ、基礎から教えないと」
「うん、ありがとう! サトー」
この子は何も知らないんだな。
俺もまだ冒険者になって日が浅いけど、この子は放置できないって気がする。
またドラコに抱きつかれているけど、嫌われるよりかはマシか。
そしてドラコは、抱きついたま上目使いで爆弾発言をしてきた。
「あ、そうだ。ミケちゃんが言ってたけど、サトーは本当は男だけど趣味で女装しているって本当?」
「誰が趣味で女装するか! 任務で仕方なく女装しているだけだ」
「えー、でもお店手伝ってる時は女装でノリノリだって聞いたよ」
おいミケ、あんた初対面の子になんて事を教えたんだよ。
ドラコは、完全に勘違いしているぞ。
俺の後ろでビアンカ殿下とアルス王子も笑いを堪えているし。
「クンクン。うーん、確かに匂いは男だけど、見た目は女にしか見えないや」
「ブハハハ、今度は龍の子にまで女性と言われているのじゃ」
「アハハハ、サトーは趣味で女装しているとか。これは傑作だな」
ドラコは俺に抱きついたまま、匂いを嗅いで男と判断したようだが、未だに戸惑っていた。
俺の後ろのビアンカ殿下とアルス王子は、ついに爆笑し始めているし。
俺達の話を聞いた成人女性も、信じられないって感じで俺を見ている。
「ねー、お姉ちゃん。あの女の人は男なの?」
「本当はそうなんですよ。でも、女性にしか見えないですよね」
「「「女の人にしか見えない!」」」
マリリさん、あんた子どもに何を言っているんですか。
違法奴隷の子どもも、俺を指さして女性にしか見えないって口を揃えない。
「ははは、サトーのお陰で場の空気が和んだのじゃ」
「子どもの気持ちを変えるとは、流石はサトーだ」
子ども達の反応を見て、またビアンカ殿下とアルス王子が笑っている。
確かに心が傷ついた子どもが笑っているのはいい傾向だけど、流石に納得はしないぞ。
「アルスお兄ちゃん、救護室の準備ができたよって、何でサトーはへこんでいるの?」
「人生色々あるんだよ……」
「ふーん、まあいいや。じゃあ、ごはん食べた子からあっちで寝るよ!」
「「はーい」」
エステル殿下が救護室ができたと報告にきたが、へこんでいる俺をスルーして子ども達の誘導をはじめた。
子ども達の声が明るいから、良しとしておこう。
ちなみにルキアさんは、今日はこのまま領主邸で子ども達と一緒に寝るそうです。
アルス王子と飛龍部隊も領主邸の客室に泊まって、明日朝に王都に出発するという。
ルキアさんのお父さんも既に客室で休んでいるそうだ。
自治組織のメンバーも警備メンバー以外は一旦帰り、明日朝に集合となる。
俺達もコマドリ亭に帰って、明日に備える。
ドラコもコマドリ亭で寝ることになった。
「サトーさん、その子が新しい仲間ですか?」
「仲間というか保護したというか。暫くは一緒に冒険者として活動する予定です」
リンさんからドラコの質問がきたので、取り敢えずの方針を伝えた。
「ドラコだよ。お姉ちゃんは?」
「私はリンですよ」
「オリガです」
「さっき話したね。マリリだよ」
マリリさんは子ども達の世話をしていたから、既に挨拶はしていた模様だ。
リンさんとオリガさんが、ドラコに話しかけていた。
ちなみにエステル殿下とルキアはんは既に挨拶済みだ。
従魔とかは既に寝てしまっていたので、紹介は明日に持ち越しだ。
「ふう、疲れたな」
部屋についたら、着替えてベットに寝転んでいた。
ようやく、ウイッグとか女装しないでよい生活が戻るのは嬉しい。
ドラコとミケは同じベッドで既に寝ている。
相当疲れていたのもあるんだろうな。
バスク領に残っているララとリリとレイアにも会いたいなと思いながら、寝るのだった。