初めてのバトルの翌日。
 今日も順調に旅は進んでいました。
 あの後も何回かバトルがあったが、シルとミケの活躍もあって特に問題なく終了した。
 俺もちょっとは慣れたのか、どきどきはするけどへたり込むことは無くなった。
 
「今日の晩御飯は何かにゃー?」
「主人の料理はなんでも美味しいので、とっても期待しているのだぞ」

 ミケとシルは本日の晩御飯のメニューに夢中なようだ。
 どの料理も美味しいと言ってくれるので、作る方も作りがいがあるもんだ。
 さっき試しに川で魚獲ったら思いの外大漁だったので、アイテムボックスには下処理をしたお魚が一杯。
 今日はお魚メインの料理にしようかな? ミケが特に食べたがっていたし。
 そんな事を思っていたら、シルが鼻をひくひくさせていた。
 魔物の襲撃かと思ったら、どうも様子が違うようだ。

「主人、前に嗅いだ匂いと血の匂いがこの先から匂ってきたぞ」
「前に嗅いだ匂いって、誰の匂い?」
「馬車と馬に乗っていた騎士だぞ、我が走って十分位先だぞ」

 なんと、初日にミケに頬擦りされている所を見られた人たちが危険らしい。
 恥ずかしいけど、この世界であった第一異世界人だ。見過ごせない。
 すると、突然シルの体が大きくなった。
 ミケは大喜びだが、俺はとっても驚いた。

「わあ、かっこいいねシル!」
「そうだろ、ミケ。主人、この姿なら主人とミケを乗せても大丈夫だぞ」

 シルがかっこいい事を言ってくれるが、その前に念のための確認。
 ミケとシルに、このまま人助けをするか確認をする。
 助けに行って死んでしまったら大変だ。

「ミケ大丈夫! いっぱい人助けするよ!」
「我も頑張るぞ!」

 二人とも了解してくれたので、このままシルに乗って助けに向かうことにした。

「わあ、シルの背中高いね!」
「主人、しっかり捕まるのだぞ」

 ミケはシルの背中に乗って大はしゃぎだが、シルが気をつけるように言ってくる。
 とりあえず、しっかり捕まるようにする。

「では、いくぞ」

 ぶん。
 シルの掛け声と共に、視界がぶれた。

「わあ、シル速いね!」
「そうだろう!しっかり捕まっているのだぞ」
「うん!」

 ミケはシルの速さに大はしゃぎだが、こっちは捕まっているのに必死だ。
 たかが十分、されど十分。
 俺はミケのはしゃぐ声を聞きながら、ひたすらシルに捕まっているしかなかった。

「主人、そろそろだぞ」

 時間の感覚など全くわからなかったが、シルが声をかけてくれたのでそろそろ十分なのだろう。
 ……長い十分間だった。

「そろそろ着くぞ。む、主人。少しまずいぞ」
「お兄ちゃん大変!」

 シルが速度をあげて着きそうだと言ったが、ちょっと問題があったのだろうか。
 ミケも獣人の視力で何かに気がついて、俺に訴えてくる。
 俺もようやく先が見えてきたが、馬車に対して結構な数の魔物が取り囲んでいる。
 確かにこれは一大事だ。

「馬車を守れ! 近づけさせるな!」
「うわー!」

 馬車に近づくと、およそ三十体のゴブリンらしき魔物が取り囲んでいた。
 その後ろにまたゴブリンの集団と、一体大きなゴブリンがいる。
 馬車を守っているのは八人の騎士。
 これではいくら騎士が強くても多勢に無勢だ。

「主人、ミケ。このまま突っ込むぞ! しっかり捕まっておるのだぞ!」

 そう言って、シルはゴブリンの群れに突っ込んでいき、ゴブリンを数体吹っ飛ばしていった。

「新手か? いやお前は猫耳幼女に抱きつかれていた……」
「加勢します」
「すまない、助かる」

 守っていた騎士たちは、最初飛び込んできた大きなオオカミにびっくりし新手かと勘違いしたが、すぐに三日前にあった人物だと分かったようだ。
 何か不穏な事を言いそうだったので、加勢するというとすぐに切り替えてくれたようだ。

「シルとミケは集団とボスを頼めるか?」
「まかせるのだ、主人」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ!」

 シルとミケは大丈夫みたいなので、ミケにバトルハンマーを渡した。
 その瞬間、シルがゴブリンに向かって吠えた。

「ウォーン!」
 
 その効果は絶大で、ゴブリンたちがボスも含めて怯んだ。
 ……俺と、騎士の人も怯んだ。

「いっくよー!」

 ゴブリンが怯んだ隙に、ミケとシルがゴブリンの群れに突っ込んだ。
 ミケは縦横無尽にバトルハンマーを振り回し、シルは鋭い爪でゴブリンを蹂躙していく。
 あちらは大丈夫だな。

「俺がここを守ります!」
「すまない、頼む。お前たちも陣形を立て直すぞ」
「「はい!」」

 シルとミケの攻撃に唖然としていた騎士だが、隊長が声を出すと陣形が立ち直った。
 ゴブリンは突然の乱入者で混乱していた。
 こうなれば事態は一気に進む。五分もかからず形勢逆転していた。

「よし、馬車の周りは片付いたな!」

 人助けというのもあるが、少し夢中になっていた。
 気がつけば、馬車の周りにいたゴブリンは全て倒れていた。

 シルとミケの方はどうなったか見ようとしたところ、突然どーーんっと大きな音がした。
 俺と騎士の人が顔を見合わせ振り返ると、物凄い光景がそこにはあった。

「お兄ちゃん、ボス倒したよ!」
「ふふん、我にかかればゴブリンなぞ一捻りだぞ」
「「「うわあ……」」」

 ゴブリンはミケとシルに一方的に蹂躙されていて全て息絶えており、ボスに至ってはおそらくミケのハンマーで吹っ飛ばされ、木に寄りかかった状態で倒れていた。
 そして得意げに巨大ハンマーを掲げる猫耳幼女とゴブリンを蹂躙した白いオオカミは、返り血を浴びた状態で満面の笑みを浮かべていた。

 シルはともかく、ミケさんよ、笑顔は可愛いのだが、今はとってもこわいよお……
 俺と騎士さんの意見が一致した瞬間だった。