「サトーさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、大丈夫」
「とても大丈夫には見えないですよ。目が真っ赤だし、さっきから溜め息ばかりです」
バスク領を出発して一時間ほど。
みんなが俺の体調を気遣ってくれている。
うーん、どうもさっきのララ達との一時的な別れが、思ったよりも精神的にきているようだ。
リンさんが声をかけてくれたけど、他の人も心配そうに俺のことを見ている。
「サトーよ、暫く寝るがよい。ここ暫く魔物を討伐したおかげか、あたりの気配もおとなしいのじゃ」
「ここのところサトーさんは頑張りすぎです。少しは休まないと」
「じゃあ、お言葉に甘えて暫く寝させてもらいます。何かあったら教えて下さい」
俺は背中にクッション代わりにバックを置き、馬車の角の所に寄りかかった。
天気がよく暖かいためか、直ぐに眠くなってきた……
「あ、お兄ちゃんもう寝ちゃったよ」
「あっという間ですね。よほど疲れていたのでしょう」
「ここ暫くは特に気を張っておったのじゃ。少しゆっくりさせるのじゃ」
「そうね、まだサトーと会ってからそんなにたってないけど、平民なのに王族や貴族以上の働きをしているからね」
「この先は私の実家の尻拭いみたいな事をお願いするので、サトー様には申し訳ないです」
「サトーは何だかんだ優しいからねー。困っている人がいると、放っておけない性格だよー」
「私達はみんな女性で、結局はただ一人の男性のサトーさんを頼りにしてますから。サトーさんはサトーさんで、頼み事を断りませんし」
「もう暫くは迷惑をかけるかもしれませんが、いつか恩返しをしたいですね」
「そうじゃのう、この度のことは王家としてもサトーにはキッチリと恩を返さないとな」
みんな、サトーに頼りっぱなしなのを改めて感じていた。
落ち着いたらゆっくりとさせてあげたいとも思っている。
今は一時でも心と体を休めさせてあげよう。
皆の意見が一致したした瞬間だった。
しかし中々上手く行かないのが、異世界の旅の道中。
サトーが寝始めてから三十分もたたない時だった。
「うん? 何か気配がする」
「あ、お兄ちゃん起きた」
「何かの視線を感じる」
「うむ、主よ良くわかったな。恐らくダークウルフの群れだぞ。主もそろそろ探査の魔法が使えそうだぞ」
魔力循環の技術が上がり、高位の空間魔法を覚え始めた為、こういう気配の察知に敏感になってきた。
嬉しいやら悲しいやらだな。
「サトーよ、妾達が対応するのじゃ。もう少し休んでおれ」
「そうはいかないでしょうが。みんな未成年の女の子なんだから」
「「「……」」」
「あれ? 何か変な事言いましたか?」
「いや、サトーらしいなと思っただけじゃ」
睡眠中の会話を知らないので、イマイチ話の内容が理解できないサトーだった。
お昼のタイミングになったので、一旦開けた場所に馬車を止めて昼食に。
馬にはご飯と水に加えて、回復魔法もかけてやろう。
今日のスラタロウ料理長の逸品は、オーク肉を使った豚丼。オーク丼だ。
やったよ、この世界で初めてお米食べたよ。しかも丼物ってのがまた良い。
市場で見つけたお米がとても美味しい。感動で涙が出そうだ。ありがとうスラタロウ。
「お兄ちゃん、これ凄く美味しい!」
「白麦がこんなに美味しいとは。王城の料理人にも教えたい」
「これはお腹にたまるのじゃ。腹持ちがいいのう」
「白麦の新しい可能性ですね」
「くう、白麦の可能性に気付けないとは。メイドの名折れです」
「いや、マリリはそこまで料理は担当しないでしょうが」
「まあまあ。でもとても美味しいですね、お父様やお母様にも食べさせたいです」
みんなオーク丼に感激している。
久々のドヤ顔スラタロウだけど、みんな納得でしょう。
お米の美味しさが伝わって、この世界のお米の生産が上がればいいな。
「あ、そうだ。ルキアさんに肝心なことを聞くのを忘れていた。ブルーノ侯爵領まで、どのくらいで着きますか?」
「普通の馬車なら二日はかかりますが、この馬なら夕方前には着きそうですよ」
「それは良かった。野営をしないと駄目かと思いましたから」
「確かにこの辺りの森は、まだまだ安全とはいえませんから」
「ですよね。あと宿泊施設とかはありますか?」
「私がいた頃はありましたよ。バスク領やランドルフ伯爵領への宿場町の機能もありましたから。ただ、今は何ともいえませんね」
「こればっかりは、現地に着かないとどうしようもないか」
重税で逃げてきた人もいるくらいだ。今の街がいわゆるシャッター通りになっている可能性もある。
最悪は馬車の中で寝るしかないな。
「エステル殿下、ビアンカ殿下。この先の街の状況を考えると、最悪は野営する可能性があります」
「その可能性は考えておる。防犯面の問題で、街なかよりも外で野営したほうが安全な場合もあるのじゃ」
「街中に盗賊がいて、危ない場合もあるからね。だったら外の方が安全だよ」
何だかんだままならない状況だな。事前に情報収集が出来ないのが痛い。
そういえば、この世界に来てからはずっと領主邸か野営しかしてないから、宿泊施設を使った事がないな。
野営の場合も食糧は大丈夫だし、ビアンカ殿下とスラタロウの魔法で土壁を作れば防犯にはなるだろう。
取り敢えず現地で判別するか。
皆でオーク丼を堪能し、再び馬車は進んでいく。
そういえば、道中すれ違う馬車が少ないな。オース商会から話のあった物流問題が如実に出ている。
そしてブルーノ侯爵領に近づいていくと、段々と辺りに畑が増えてきた。
麦は青々と茂っているけど、世話をする村人が少ない様にみえる。
「耕作面積の割に、村人が少ないですね」
「しかもよく見ると人ばかりじゃ。農作業は重労働なので、獣人も多くいるはずじゃ」
「はぁー、ビアンカ殿下にルキアさん。これはあれですね」
「難民はここから出てますね」
「残っている村人の話も聞けば、直ぐに分かりそうじゃのう」
領主の方針を聞かないとわからないが、街と農村のダブルで対策が必要だ。
そんな農村部を見ているうちに、段々と城壁が近づいてきてきた。
ここでエステル殿下が一言。
「サトーはいつ女装するの?」
あ、すっかり忘れていた。
「大丈夫ですよ、大丈夫」
「とても大丈夫には見えないですよ。目が真っ赤だし、さっきから溜め息ばかりです」
バスク領を出発して一時間ほど。
みんなが俺の体調を気遣ってくれている。
うーん、どうもさっきのララ達との一時的な別れが、思ったよりも精神的にきているようだ。
リンさんが声をかけてくれたけど、他の人も心配そうに俺のことを見ている。
「サトーよ、暫く寝るがよい。ここ暫く魔物を討伐したおかげか、あたりの気配もおとなしいのじゃ」
「ここのところサトーさんは頑張りすぎです。少しは休まないと」
「じゃあ、お言葉に甘えて暫く寝させてもらいます。何かあったら教えて下さい」
俺は背中にクッション代わりにバックを置き、馬車の角の所に寄りかかった。
天気がよく暖かいためか、直ぐに眠くなってきた……
「あ、お兄ちゃんもう寝ちゃったよ」
「あっという間ですね。よほど疲れていたのでしょう」
「ここ暫くは特に気を張っておったのじゃ。少しゆっくりさせるのじゃ」
「そうね、まだサトーと会ってからそんなにたってないけど、平民なのに王族や貴族以上の働きをしているからね」
「この先は私の実家の尻拭いみたいな事をお願いするので、サトー様には申し訳ないです」
「サトーは何だかんだ優しいからねー。困っている人がいると、放っておけない性格だよー」
「私達はみんな女性で、結局はただ一人の男性のサトーさんを頼りにしてますから。サトーさんはサトーさんで、頼み事を断りませんし」
「もう暫くは迷惑をかけるかもしれませんが、いつか恩返しをしたいですね」
「そうじゃのう、この度のことは王家としてもサトーにはキッチリと恩を返さないとな」
みんな、サトーに頼りっぱなしなのを改めて感じていた。
落ち着いたらゆっくりとさせてあげたいとも思っている。
今は一時でも心と体を休めさせてあげよう。
皆の意見が一致したした瞬間だった。
しかし中々上手く行かないのが、異世界の旅の道中。
サトーが寝始めてから三十分もたたない時だった。
「うん? 何か気配がする」
「あ、お兄ちゃん起きた」
「何かの視線を感じる」
「うむ、主よ良くわかったな。恐らくダークウルフの群れだぞ。主もそろそろ探査の魔法が使えそうだぞ」
魔力循環の技術が上がり、高位の空間魔法を覚え始めた為、こういう気配の察知に敏感になってきた。
嬉しいやら悲しいやらだな。
「サトーよ、妾達が対応するのじゃ。もう少し休んでおれ」
「そうはいかないでしょうが。みんな未成年の女の子なんだから」
「「「……」」」
「あれ? 何か変な事言いましたか?」
「いや、サトーらしいなと思っただけじゃ」
睡眠中の会話を知らないので、イマイチ話の内容が理解できないサトーだった。
お昼のタイミングになったので、一旦開けた場所に馬車を止めて昼食に。
馬にはご飯と水に加えて、回復魔法もかけてやろう。
今日のスラタロウ料理長の逸品は、オーク肉を使った豚丼。オーク丼だ。
やったよ、この世界で初めてお米食べたよ。しかも丼物ってのがまた良い。
市場で見つけたお米がとても美味しい。感動で涙が出そうだ。ありがとうスラタロウ。
「お兄ちゃん、これ凄く美味しい!」
「白麦がこんなに美味しいとは。王城の料理人にも教えたい」
「これはお腹にたまるのじゃ。腹持ちがいいのう」
「白麦の新しい可能性ですね」
「くう、白麦の可能性に気付けないとは。メイドの名折れです」
「いや、マリリはそこまで料理は担当しないでしょうが」
「まあまあ。でもとても美味しいですね、お父様やお母様にも食べさせたいです」
みんなオーク丼に感激している。
久々のドヤ顔スラタロウだけど、みんな納得でしょう。
お米の美味しさが伝わって、この世界のお米の生産が上がればいいな。
「あ、そうだ。ルキアさんに肝心なことを聞くのを忘れていた。ブルーノ侯爵領まで、どのくらいで着きますか?」
「普通の馬車なら二日はかかりますが、この馬なら夕方前には着きそうですよ」
「それは良かった。野営をしないと駄目かと思いましたから」
「確かにこの辺りの森は、まだまだ安全とはいえませんから」
「ですよね。あと宿泊施設とかはありますか?」
「私がいた頃はありましたよ。バスク領やランドルフ伯爵領への宿場町の機能もありましたから。ただ、今は何ともいえませんね」
「こればっかりは、現地に着かないとどうしようもないか」
重税で逃げてきた人もいるくらいだ。今の街がいわゆるシャッター通りになっている可能性もある。
最悪は馬車の中で寝るしかないな。
「エステル殿下、ビアンカ殿下。この先の街の状況を考えると、最悪は野営する可能性があります」
「その可能性は考えておる。防犯面の問題で、街なかよりも外で野営したほうが安全な場合もあるのじゃ」
「街中に盗賊がいて、危ない場合もあるからね。だったら外の方が安全だよ」
何だかんだままならない状況だな。事前に情報収集が出来ないのが痛い。
そういえば、この世界に来てからはずっと領主邸か野営しかしてないから、宿泊施設を使った事がないな。
野営の場合も食糧は大丈夫だし、ビアンカ殿下とスラタロウの魔法で土壁を作れば防犯にはなるだろう。
取り敢えず現地で判別するか。
皆でオーク丼を堪能し、再び馬車は進んでいく。
そういえば、道中すれ違う馬車が少ないな。オース商会から話のあった物流問題が如実に出ている。
そしてブルーノ侯爵領に近づいていくと、段々と辺りに畑が増えてきた。
麦は青々と茂っているけど、世話をする村人が少ない様にみえる。
「耕作面積の割に、村人が少ないですね」
「しかもよく見ると人ばかりじゃ。農作業は重労働なので、獣人も多くいるはずじゃ」
「はぁー、ビアンカ殿下にルキアさん。これはあれですね」
「難民はここから出てますね」
「残っている村人の話も聞けば、直ぐに分かりそうじゃのう」
領主の方針を聞かないとわからないが、街と農村のダブルで対策が必要だ。
そんな農村部を見ているうちに、段々と城壁が近づいてきてきた。
ここでエステル殿下が一言。
「サトーはいつ女装するの?」
あ、すっかり忘れていた。