「あっ、このお人形がいいな」
「リリはこっちのぬいぐるみ」
「パパ、レイアはこれ」
「はいはい、これでお金払っちゃうよ」
只今、ブルーノ侯爵領への遠征に向けて買い出し中。
大体の物は買えたので、今は子ども達と人形やぬいぐるみの買い物中。
王都に行く子ども達の分も買っていきます。
ちなみにリンさん達とエステル殿下達は別行動。
皆で遠征で着る服を選んでいるとのこと。
何時間かかるか分からないので、俺は子ども達の方を選んだわけだ。
ちなみにシルは、女性陣の買い物があると分かると部屋にひきこもった。
どうも過去二回の女性陣の買い物を長時間待つのが、相当なトラウマになったらしい。
「お兄ちゃん、ミケはこれ!」
「どれだって……何だこれ?」
「「「大っきいクマさん!」」」
ミケが持ってきたのは、ミケと同じ位大きいクマのぬいぐるみ。
デフォルメされているけど、だいぶいかつい顔をしているぞ。
しかも他のぬいぐるみの合計金額よりも高い。
まあ買えなくもないが、これどうするんだ?
「ミケ、このクマのぬいぐるみどうするの?」
「お兄ちゃんの部屋に置いておくの。ミケたちがお仕事している間のお兄ちゃんのかわりなの」
「「「おー!」」」
……その理由なら断れない。
三人も喜んでいるし、これはこれで良いか。
しかしミケもよく考えたな。
後は食料品も買っていこう。
ブルーノ侯爵領で食料が買えない可能性も考慮して、多めに買ってアイテムボックスに入れておけばいいだろう。
せっかくだから、たこ焼きにお好み焼きとかも買っていく。
飲み物とかも買っていこう。水とかはあってもいいから、樽とかも用意しよう。
うーん、俺の荷物はこれくらいだな。
ミケの荷物も揃っているから、後は女性陣の買い物だけだ。
「買い物も終わったから、リンさんの所に合流するか」
「リンお姉ちゃんはまだ買い物しているのかな?」
「間違いなくまだ買い物しているはずだ」
四人を連れて女性陣が買い物しているお店へ。
「リンちゃんにはこっちが似合うよ」
「こちらの方が良いと思いますよ」
うん、中から試着のあれこれの会話が聞こえてくる。
こりゃ当分終わりそうもないな。
「ミケたちも、リンさんの試着を見に行くか?」
「「「「うん!」」」」
ミケたちも手持ち無沙汰だったので、服屋に入っていった。
「リンお姉ちゃん、こっちの買い物は終わったよ!」
「ちょうど良かった。ミケちゃん達の服も買おうと思っていたのよ。一緒に試着しない?」
「「「「うん!」」」」
失敗した。ミケたちを向かわせた事で、試着にもっと時間がかかりそうだ。
子どもといえども女の子だ、オシャレが嫌いなわけがない。
どうやって待ち時間を潰すか。
ふと服屋の隣のお店を見たところ、色々な小道具が売られていた。
リボンとか髪留めとかもあるな。
ぬいぐるみとは別に、王都に行く子ども達の分も買ってあげよう。
後はアクセサリーか。
うーん、指輪とかもおいてあるけど、リンさんとかエステル殿下の結婚が決まったらちゃんとした指輪を贈りたいな。
この辺はまだ子ども達には早いので、今回はパスで。
「サトーさん、お待たせしました」
「何を見ているんですか?」
ここに、思ったよりも早く買い物が終わったリンさんとエステル殿下が、俺の両サイドに来ていた。
「王都に向かう子ども達のおみやげですよ。女の子が殆どなので、髪飾りとかリボンとかがいいかなと」
「サトーさんはやっぱり優しいですね。でも、わたしもプレゼント欲しいな。なんて」
「あ、それはわたしも欲しい!」
「事件が解決したら、ゆっくり見てまわりましょう」
「「えー」」
今はまだ色々隠している関係ですよ。
贈り物はもう少し落ち着かないとダメです。
ただでさえ今も周りからの視線が痛いんですから。
「多めにリボンとか髪留めを購入しましたので、後で好きなものを選んで下さい」
「うー、それで我慢します」
「まあサトーだし、仕方ないや」
今回はこれで許して下さい。
「さてサトーよ、取り敢えず必要な物は揃ったでよいか?」
「はい、あとは変装する道具とかの完成待ちです」
「それはサーシャ達が張り切っておったな。先ほど服屋にも屋敷のメイドが買い物に来ておった」
「となると、変装道具もかなりの力の入れ具合ですね」
「エーファもサーシャも、服飾への熱意は凄いものがあるからのう」
ビアンカ殿下の話を聞いて、どんな変装衣装になるかちょっと心配になってきた。
あくまでも常識の範疇で収まってくれないと、ブルーノ侯爵領の城門ではじかれてしまう。
一体どんなものが出来るのやら。
買い物を終えてお屋敷に到着。
さっそく王都に向かう子ども達に、色々なプレゼントを渡す。
みんな笑顔になって、あれこれ悩んで欲しいものを決めていた。
服とかは荷物になるので、後で商人経由で王都に送るらしい。
ちなみにバスク領に残る子どもは、ララとリリとレイア以外は三人。
トラ獣人の男の子の赤ちゃんと、ウサギ獣人の双子の姉妹。
どちらもまだ小さいので、王都に向かうのは難しいと判断された。
次に小さいのがレイアなので、その他の子どもは王都に向かうのは問題ないとの事。
まあ早ければ出発したその日のうちに王都に着くらしいので、子ども達の負担も少ない。
無事に王都についてもらいたい。
夕食も子ども達と一緒に食べることに。
お屋敷のホールがパーティーができるように大きく作ってあるので、子ども達が三十人いても全く問題ない。
「王城では百人や二百人のパーティーをやることがあるのじゃ」
「うーん、その規模のパーティーは年一回位だけど、挨拶回りとか本当に面倒くさいんだよ」
「うむ、ゴマをする貴族の相手は懲り懲りじゃ。このような可愛らしい子の相手をしたいのじゃ」
「本当にビアンカちゃんの意見に同感だね」
ビアンカ殿下とエステル殿下の話を聞いて、王族はパーティー一つとっても中々大変だなと思ってしまう。
パーティーは一種の出会いと顔を売る場なので、相手の貴族としても必死なのだろう。
今日はそんな事とは全く無縁なので、みんなにこやかに楽しんでいる。
子ども達も美味しいと言って、沢山料理を食べていた。
うん、朝に比べるとだいぶ笑顔になってきたな。
「サトーよ、出立の準備は出来ているのか?」
「アルス王子、準備は大丈夫です。変装に関しては、この後皆で試す予定です」
「そうか、なら心配はいらんな」
「ところで、アルス王子は子どもに大人気ですね」
「昔から子どもには何故か好かれてな。まあ悪い気はせんよ」
出発の準備の進捗を聞きに来たアルス王子だったが、周りには目をキラキラさせた子どもが何人もいる。
絵本で見るような王子様が実際に目の前にいるし、アルス王子も子どもに優しい。好かれて当然だ。
ちなみにもう一人というかもう一匹人気なのがスラタロウ。
子ども達の救出後に魔法を駆使して料理を作ったのが凄いと、特に小さい子どもに大人気だ。
炊き出しの時も子どもに人気だったし、見ていて楽しいのだろうな。
夕食の後は、エーファ様とサーシャさんお待ちかねの変装衣装のチェックタイム。
今日も男性は俺だけだ。
くそ、仕事があるとみんな逃げられたぞ。
ララとリリとレイアは変装が見たいと参加している。
シルとリーフはさっさと部屋に戻って寝てしまった。
テーブルの上には、衣装の他にもウイッグやかつらも色々並んでいるぞ。
「貴族とは見栄を張る生き物じゃ。髪も一種のステータスなので、こういうものはいくらでもあるのじゃ」
「たまに、髪の毛のボリュームが凄いことになっているおばさんとかいるよね」
これも貴族の舞踏会あるあるだな。
男性も、ハゲ面で参加するのは恥ずかしいと思うのだろう。
女性陣は髪を編み込んで、ウイッグがつけやすいように準備中。
普段髪が長いリンさんやオリガさんは、髪を編み込みするだけで随分と印象が変わったぞ。
ミケは、猫耳の上からウイッグとかをつけて猫耳を隠すという。
みんな思い思いに変装を始めた。
「お兄ちゃん出来たよ!」
「一度は妾もこういう衣装してみたかったのじゃ」
「上手く変装している。うん、これなら判別つかないだろう」
一番手はミケとビアンカ殿下。
二人とも黒髪のショートヘアにメイド服という組み合わせ。
おお、これだと言われないと全くわからないぞ。
いつもと違った魅力が出ている。
スカート丈も長いから、ミケの尻尾も問題なく隠せている。
「サトー様、わたしはどうでしょうか?」
「こういう衣装のルキアさんも新鮮ですね」
ルキアさんは茶髪の編み上げに、騎士服に近いパンツスタイルだ。
男装令嬢って感じだかタイトな服なので、お胸の素敵なボリューム感がより一層際立ってます。
「私も無難なものにしました」
「お揃いです。あんまりバラバラの服装も良くないので」
「いや、よくお似合いですよ」
オリガさんとマリリさんは執事服だ。
オリガさんは銀髪のショートヘアで、マリリさんは金髪のロングヘア。
マリリさんも印象が違うが、オリガさんは身長も高いので男装執事って感じでハマっている。
「私達はこんな感じです」
「サトー、どうですか?」
「二人とも普段と違うから、とっても新鮮です」
リンさんとエステル殿下は魔法使いだ。
リンさんは青色のロングヘアーで、エステル殿下は赤髪のショートボブ。
騎士服で見慣れたせいか、この魔法使いの姿はいいなあ。
「これでみんなの衣装は一通り出来ましたね。予想以上に変わっていてビックリしてますよ」
「うむ、たまにはこういう衣装も良いな」
「なんか新鮮な感じだね」
「執事服なら、普段使いでも大丈夫ですね」
予想以上に変装出来ていたので、みんな満足だ。
エーファ様もサーシャさんも頷いて納得している。
子ども達もはしゃいで喜んでいるな。
「パパは変装しないの?」
と、ふと口にしたレイアの一言から、今夜の俺の悲劇が始まった。
「俺は適当にやるから大丈夫だよ」
「えー、ミケはお兄ちゃんの変装が見たい!」
「「ララとリリも見たい!」」
「パパの変装みたいな」
適当に切り抜けようとしたが、子ども達が俺の変装を見たいと騒ぎ出した。
かつらでもかぶって切り抜けようかな?
と思った所で、両腕をエーファ様とサーシャさんにがっしりつかまれた。
「サトー様は、今日のメインディッシュですわ」
「ミケちゃんたち。これからサトーさんが綺麗に変身しますよ」
「「「「やったー!」」」」
あれ? 俺は単なる変装じゃないの?
変装じゃなく変身ってどういう事だ?
ミケ達は喜んでいるが、俺はパニックだ。
「ほう、妾も興味がある。手伝うのじゃ」
「わたしも興味があるよ」
「せっかくですから皆で手伝いましょうか」
「そうですわね」
「サトーさん、諦めて下さい」
「……ご愁傷様です」
「ちょっとー!」
女性陣に引きずられ、服を脱がされてパンツいっちょに。
強引に鏡台の前に座らされて、お化粧タイムが始まった。
肩をつかまれていて、全く動けない。
そしてサーシャさんから残酷な一言。
「さあ、サトーさん。新しい世界が開けますわよ」
「そんな世界開きたくなーい!」
俺の叫びも虚しく、色々イジられることに。
「ヒゲがすくないですよね」
「眉毛はそろえますわよ」
「肌が綺麗ですね」
「ナチュラルメイクでも十分ですわ」
「ウイッグは、これなんかどうでしょうか?」
段々と周りのテンションが上がっていき、俺の顔がどんどん改造されていく。
改造人間になっていく気分だ。
「着るのは、このドレスでどうでしょうか?」
「もう少しフリフリのでもいいのでは?」
「ストッキングも履いて下さいね」
「サトーさんは思ったよりも筋肉質ではないので、こういうときには助かりますわ」
「ウエストも結構細いのじゃ」
嗚呼、我が心は空なり。
もうどうにでもして下さい。
「よし、出来た!」
「うん、今までの中でも一番の出来だわ」
「「「「おー、お兄ちゃんがかわいい!」」」」
出来たよ、出来ちゃったよ。
俺の変装が……女装が……
「これは普通に女の子ですね」
「遠目からだと全く分かりませんわ」
「これなら、絶対にサトーさんとバレないですね」
性別からして変わったぞ。
俺の変装は貴族令嬢らしい。
髪は茶髪のふわふわロングヘアーで、服はヒラヒラが沢山ついたドレス。
スカートなんてはかないから、股がスースーして落ち着きがない。
「ぐぬぬ、予想以上に可愛いのじゃ」
「もじもじしている姿が、破壊力抜群ですね」
ビアンカ殿下とマリリさんが、何故か悔しがっている。
どうせ、俺の女装をからかって笑おうとしたのだろう。
「おお、お兄ちゃんがお姉ちゃんになったよ!」
「「サトーお姉ちゃん可愛い!」」
「パパがママになった」
子ども達も俺の姿をみて大はしゃぎしている。
わかっているさ、鏡台に映った顔が美人だった事を。
その顔が俺の思い通りに動くものだから、すっごい不思議な感じだ。
コンコン、カチャ。
「おーい、明日朝早く出発するのだから、もうそろそろ終わり……あれ? サトー殿はどこだ? それにそこのご令嬢はどなただ?」
ドアを開けて入ってきたのはテリー様にラルフ様とアルス王子。
ガルフさんとマルクさんもいるぞ。
テリー様は俺の変装が分かってないみたいで、俺を探してキョロキョロしている。
あれ? 何だかラルフ様とガルフさんの顔が赤いぞ。
あっ、アルス王子とマルクさんは気がついたようだ。かなり驚いている。
「あなた、サトー様は目の前にいますわよ」
「だからどこにいるのだ?」
エーファ様がテリー様に目の前に俺がいると言っても気がついていないようだ。
それを見ている女性陣がクスクス笑い始めたので、余計にテリー様は混乱してきたようだ。
じー。
ふと視線が気になったのでドアの方をみたら、王都に行く子どもがドアの隙間から何人か俺を見ている。
「「「あー、昼間のお兄ちゃんがお姉ちゃんになっている!」」」
こういうときの子どもは凄いよね。違和感があると直ぐに分かっちゃう。
視線を戻すと、口を開けてあんぐりとしているテリー様とラルフ様とガルフ様。
アルス王子とラルフさんは、やれやれといった表情だった。
「確かにこれならサトーとはバレないな。さしずめはサトー令嬢を護る女性護衛団だな」
「はい、皆様をあざむく出来でございます。まずバレないかと。」
淡々と語っているアルス王子とラルフさんの横で、テリー様達はまだ固まっていた。
そんな中、不機嫌になっていたのはオリガさん。
婚約者が女装した俺に赤くなっているのに気がついて、女性として複雑な気分になったみたいだ。
ビアンカ殿下とマリリさんはその様子に気が付き、必死に笑いをこらえてピクピクしていた。
「ほら、明日も早いのですからもう着替えて解散ですよ」
「うむ、分かっているがその姿でサトー殿の声だと非常に違和感があるな」
「うう、穴があったら入りたい」
俺は声を大にして言いたい。
女装癖なんてないですよ!
ああ、ある意味ショックな体験だった……
「リリはこっちのぬいぐるみ」
「パパ、レイアはこれ」
「はいはい、これでお金払っちゃうよ」
只今、ブルーノ侯爵領への遠征に向けて買い出し中。
大体の物は買えたので、今は子ども達と人形やぬいぐるみの買い物中。
王都に行く子ども達の分も買っていきます。
ちなみにリンさん達とエステル殿下達は別行動。
皆で遠征で着る服を選んでいるとのこと。
何時間かかるか分からないので、俺は子ども達の方を選んだわけだ。
ちなみにシルは、女性陣の買い物があると分かると部屋にひきこもった。
どうも過去二回の女性陣の買い物を長時間待つのが、相当なトラウマになったらしい。
「お兄ちゃん、ミケはこれ!」
「どれだって……何だこれ?」
「「「大っきいクマさん!」」」
ミケが持ってきたのは、ミケと同じ位大きいクマのぬいぐるみ。
デフォルメされているけど、だいぶいかつい顔をしているぞ。
しかも他のぬいぐるみの合計金額よりも高い。
まあ買えなくもないが、これどうするんだ?
「ミケ、このクマのぬいぐるみどうするの?」
「お兄ちゃんの部屋に置いておくの。ミケたちがお仕事している間のお兄ちゃんのかわりなの」
「「「おー!」」」
……その理由なら断れない。
三人も喜んでいるし、これはこれで良いか。
しかしミケもよく考えたな。
後は食料品も買っていこう。
ブルーノ侯爵領で食料が買えない可能性も考慮して、多めに買ってアイテムボックスに入れておけばいいだろう。
せっかくだから、たこ焼きにお好み焼きとかも買っていく。
飲み物とかも買っていこう。水とかはあってもいいから、樽とかも用意しよう。
うーん、俺の荷物はこれくらいだな。
ミケの荷物も揃っているから、後は女性陣の買い物だけだ。
「買い物も終わったから、リンさんの所に合流するか」
「リンお姉ちゃんはまだ買い物しているのかな?」
「間違いなくまだ買い物しているはずだ」
四人を連れて女性陣が買い物しているお店へ。
「リンちゃんにはこっちが似合うよ」
「こちらの方が良いと思いますよ」
うん、中から試着のあれこれの会話が聞こえてくる。
こりゃ当分終わりそうもないな。
「ミケたちも、リンさんの試着を見に行くか?」
「「「「うん!」」」」
ミケたちも手持ち無沙汰だったので、服屋に入っていった。
「リンお姉ちゃん、こっちの買い物は終わったよ!」
「ちょうど良かった。ミケちゃん達の服も買おうと思っていたのよ。一緒に試着しない?」
「「「「うん!」」」」
失敗した。ミケたちを向かわせた事で、試着にもっと時間がかかりそうだ。
子どもといえども女の子だ、オシャレが嫌いなわけがない。
どうやって待ち時間を潰すか。
ふと服屋の隣のお店を見たところ、色々な小道具が売られていた。
リボンとか髪留めとかもあるな。
ぬいぐるみとは別に、王都に行く子ども達の分も買ってあげよう。
後はアクセサリーか。
うーん、指輪とかもおいてあるけど、リンさんとかエステル殿下の結婚が決まったらちゃんとした指輪を贈りたいな。
この辺はまだ子ども達には早いので、今回はパスで。
「サトーさん、お待たせしました」
「何を見ているんですか?」
ここに、思ったよりも早く買い物が終わったリンさんとエステル殿下が、俺の両サイドに来ていた。
「王都に向かう子ども達のおみやげですよ。女の子が殆どなので、髪飾りとかリボンとかがいいかなと」
「サトーさんはやっぱり優しいですね。でも、わたしもプレゼント欲しいな。なんて」
「あ、それはわたしも欲しい!」
「事件が解決したら、ゆっくり見てまわりましょう」
「「えー」」
今はまだ色々隠している関係ですよ。
贈り物はもう少し落ち着かないとダメです。
ただでさえ今も周りからの視線が痛いんですから。
「多めにリボンとか髪留めを購入しましたので、後で好きなものを選んで下さい」
「うー、それで我慢します」
「まあサトーだし、仕方ないや」
今回はこれで許して下さい。
「さてサトーよ、取り敢えず必要な物は揃ったでよいか?」
「はい、あとは変装する道具とかの完成待ちです」
「それはサーシャ達が張り切っておったな。先ほど服屋にも屋敷のメイドが買い物に来ておった」
「となると、変装道具もかなりの力の入れ具合ですね」
「エーファもサーシャも、服飾への熱意は凄いものがあるからのう」
ビアンカ殿下の話を聞いて、どんな変装衣装になるかちょっと心配になってきた。
あくまでも常識の範疇で収まってくれないと、ブルーノ侯爵領の城門ではじかれてしまう。
一体どんなものが出来るのやら。
買い物を終えてお屋敷に到着。
さっそく王都に向かう子ども達に、色々なプレゼントを渡す。
みんな笑顔になって、あれこれ悩んで欲しいものを決めていた。
服とかは荷物になるので、後で商人経由で王都に送るらしい。
ちなみにバスク領に残る子どもは、ララとリリとレイア以外は三人。
トラ獣人の男の子の赤ちゃんと、ウサギ獣人の双子の姉妹。
どちらもまだ小さいので、王都に向かうのは難しいと判断された。
次に小さいのがレイアなので、その他の子どもは王都に向かうのは問題ないとの事。
まあ早ければ出発したその日のうちに王都に着くらしいので、子ども達の負担も少ない。
無事に王都についてもらいたい。
夕食も子ども達と一緒に食べることに。
お屋敷のホールがパーティーができるように大きく作ってあるので、子ども達が三十人いても全く問題ない。
「王城では百人や二百人のパーティーをやることがあるのじゃ」
「うーん、その規模のパーティーは年一回位だけど、挨拶回りとか本当に面倒くさいんだよ」
「うむ、ゴマをする貴族の相手は懲り懲りじゃ。このような可愛らしい子の相手をしたいのじゃ」
「本当にビアンカちゃんの意見に同感だね」
ビアンカ殿下とエステル殿下の話を聞いて、王族はパーティー一つとっても中々大変だなと思ってしまう。
パーティーは一種の出会いと顔を売る場なので、相手の貴族としても必死なのだろう。
今日はそんな事とは全く無縁なので、みんなにこやかに楽しんでいる。
子ども達も美味しいと言って、沢山料理を食べていた。
うん、朝に比べるとだいぶ笑顔になってきたな。
「サトーよ、出立の準備は出来ているのか?」
「アルス王子、準備は大丈夫です。変装に関しては、この後皆で試す予定です」
「そうか、なら心配はいらんな」
「ところで、アルス王子は子どもに大人気ですね」
「昔から子どもには何故か好かれてな。まあ悪い気はせんよ」
出発の準備の進捗を聞きに来たアルス王子だったが、周りには目をキラキラさせた子どもが何人もいる。
絵本で見るような王子様が実際に目の前にいるし、アルス王子も子どもに優しい。好かれて当然だ。
ちなみにもう一人というかもう一匹人気なのがスラタロウ。
子ども達の救出後に魔法を駆使して料理を作ったのが凄いと、特に小さい子どもに大人気だ。
炊き出しの時も子どもに人気だったし、見ていて楽しいのだろうな。
夕食の後は、エーファ様とサーシャさんお待ちかねの変装衣装のチェックタイム。
今日も男性は俺だけだ。
くそ、仕事があるとみんな逃げられたぞ。
ララとリリとレイアは変装が見たいと参加している。
シルとリーフはさっさと部屋に戻って寝てしまった。
テーブルの上には、衣装の他にもウイッグやかつらも色々並んでいるぞ。
「貴族とは見栄を張る生き物じゃ。髪も一種のステータスなので、こういうものはいくらでもあるのじゃ」
「たまに、髪の毛のボリュームが凄いことになっているおばさんとかいるよね」
これも貴族の舞踏会あるあるだな。
男性も、ハゲ面で参加するのは恥ずかしいと思うのだろう。
女性陣は髪を編み込んで、ウイッグがつけやすいように準備中。
普段髪が長いリンさんやオリガさんは、髪を編み込みするだけで随分と印象が変わったぞ。
ミケは、猫耳の上からウイッグとかをつけて猫耳を隠すという。
みんな思い思いに変装を始めた。
「お兄ちゃん出来たよ!」
「一度は妾もこういう衣装してみたかったのじゃ」
「上手く変装している。うん、これなら判別つかないだろう」
一番手はミケとビアンカ殿下。
二人とも黒髪のショートヘアにメイド服という組み合わせ。
おお、これだと言われないと全くわからないぞ。
いつもと違った魅力が出ている。
スカート丈も長いから、ミケの尻尾も問題なく隠せている。
「サトー様、わたしはどうでしょうか?」
「こういう衣装のルキアさんも新鮮ですね」
ルキアさんは茶髪の編み上げに、騎士服に近いパンツスタイルだ。
男装令嬢って感じだかタイトな服なので、お胸の素敵なボリューム感がより一層際立ってます。
「私も無難なものにしました」
「お揃いです。あんまりバラバラの服装も良くないので」
「いや、よくお似合いですよ」
オリガさんとマリリさんは執事服だ。
オリガさんは銀髪のショートヘアで、マリリさんは金髪のロングヘア。
マリリさんも印象が違うが、オリガさんは身長も高いので男装執事って感じでハマっている。
「私達はこんな感じです」
「サトー、どうですか?」
「二人とも普段と違うから、とっても新鮮です」
リンさんとエステル殿下は魔法使いだ。
リンさんは青色のロングヘアーで、エステル殿下は赤髪のショートボブ。
騎士服で見慣れたせいか、この魔法使いの姿はいいなあ。
「これでみんなの衣装は一通り出来ましたね。予想以上に変わっていてビックリしてますよ」
「うむ、たまにはこういう衣装も良いな」
「なんか新鮮な感じだね」
「執事服なら、普段使いでも大丈夫ですね」
予想以上に変装出来ていたので、みんな満足だ。
エーファ様もサーシャさんも頷いて納得している。
子ども達もはしゃいで喜んでいるな。
「パパは変装しないの?」
と、ふと口にしたレイアの一言から、今夜の俺の悲劇が始まった。
「俺は適当にやるから大丈夫だよ」
「えー、ミケはお兄ちゃんの変装が見たい!」
「「ララとリリも見たい!」」
「パパの変装みたいな」
適当に切り抜けようとしたが、子ども達が俺の変装を見たいと騒ぎ出した。
かつらでもかぶって切り抜けようかな?
と思った所で、両腕をエーファ様とサーシャさんにがっしりつかまれた。
「サトー様は、今日のメインディッシュですわ」
「ミケちゃんたち。これからサトーさんが綺麗に変身しますよ」
「「「「やったー!」」」」
あれ? 俺は単なる変装じゃないの?
変装じゃなく変身ってどういう事だ?
ミケ達は喜んでいるが、俺はパニックだ。
「ほう、妾も興味がある。手伝うのじゃ」
「わたしも興味があるよ」
「せっかくですから皆で手伝いましょうか」
「そうですわね」
「サトーさん、諦めて下さい」
「……ご愁傷様です」
「ちょっとー!」
女性陣に引きずられ、服を脱がされてパンツいっちょに。
強引に鏡台の前に座らされて、お化粧タイムが始まった。
肩をつかまれていて、全く動けない。
そしてサーシャさんから残酷な一言。
「さあ、サトーさん。新しい世界が開けますわよ」
「そんな世界開きたくなーい!」
俺の叫びも虚しく、色々イジられることに。
「ヒゲがすくないですよね」
「眉毛はそろえますわよ」
「肌が綺麗ですね」
「ナチュラルメイクでも十分ですわ」
「ウイッグは、これなんかどうでしょうか?」
段々と周りのテンションが上がっていき、俺の顔がどんどん改造されていく。
改造人間になっていく気分だ。
「着るのは、このドレスでどうでしょうか?」
「もう少しフリフリのでもいいのでは?」
「ストッキングも履いて下さいね」
「サトーさんは思ったよりも筋肉質ではないので、こういうときには助かりますわ」
「ウエストも結構細いのじゃ」
嗚呼、我が心は空なり。
もうどうにでもして下さい。
「よし、出来た!」
「うん、今までの中でも一番の出来だわ」
「「「「おー、お兄ちゃんがかわいい!」」」」
出来たよ、出来ちゃったよ。
俺の変装が……女装が……
「これは普通に女の子ですね」
「遠目からだと全く分かりませんわ」
「これなら、絶対にサトーさんとバレないですね」
性別からして変わったぞ。
俺の変装は貴族令嬢らしい。
髪は茶髪のふわふわロングヘアーで、服はヒラヒラが沢山ついたドレス。
スカートなんてはかないから、股がスースーして落ち着きがない。
「ぐぬぬ、予想以上に可愛いのじゃ」
「もじもじしている姿が、破壊力抜群ですね」
ビアンカ殿下とマリリさんが、何故か悔しがっている。
どうせ、俺の女装をからかって笑おうとしたのだろう。
「おお、お兄ちゃんがお姉ちゃんになったよ!」
「「サトーお姉ちゃん可愛い!」」
「パパがママになった」
子ども達も俺の姿をみて大はしゃぎしている。
わかっているさ、鏡台に映った顔が美人だった事を。
その顔が俺の思い通りに動くものだから、すっごい不思議な感じだ。
コンコン、カチャ。
「おーい、明日朝早く出発するのだから、もうそろそろ終わり……あれ? サトー殿はどこだ? それにそこのご令嬢はどなただ?」
ドアを開けて入ってきたのはテリー様にラルフ様とアルス王子。
ガルフさんとマルクさんもいるぞ。
テリー様は俺の変装が分かってないみたいで、俺を探してキョロキョロしている。
あれ? 何だかラルフ様とガルフさんの顔が赤いぞ。
あっ、アルス王子とマルクさんは気がついたようだ。かなり驚いている。
「あなた、サトー様は目の前にいますわよ」
「だからどこにいるのだ?」
エーファ様がテリー様に目の前に俺がいると言っても気がついていないようだ。
それを見ている女性陣がクスクス笑い始めたので、余計にテリー様は混乱してきたようだ。
じー。
ふと視線が気になったのでドアの方をみたら、王都に行く子どもがドアの隙間から何人か俺を見ている。
「「「あー、昼間のお兄ちゃんがお姉ちゃんになっている!」」」
こういうときの子どもは凄いよね。違和感があると直ぐに分かっちゃう。
視線を戻すと、口を開けてあんぐりとしているテリー様とラルフ様とガルフ様。
アルス王子とラルフさんは、やれやれといった表情だった。
「確かにこれならサトーとはバレないな。さしずめはサトー令嬢を護る女性護衛団だな」
「はい、皆様をあざむく出来でございます。まずバレないかと。」
淡々と語っているアルス王子とラルフさんの横で、テリー様達はまだ固まっていた。
そんな中、不機嫌になっていたのはオリガさん。
婚約者が女装した俺に赤くなっているのに気がついて、女性として複雑な気分になったみたいだ。
ビアンカ殿下とマリリさんはその様子に気が付き、必死に笑いをこらえてピクピクしていた。
「ほら、明日も早いのですからもう着替えて解散ですよ」
「うむ、分かっているがその姿でサトー殿の声だと非常に違和感があるな」
「うう、穴があったら入りたい」
俺は声を大にして言いたい。
女装癖なんてないですよ!
ああ、ある意味ショックな体験だった……