「あれ? サトーさん、その子は朝救出した二人ですよね。お風呂には入れたのですか?」

「いや、どうも懐かれたようで、他の子とは別に俺と一緒に風呂に入りたいらしいです」

「サトーさんに助けられたのもあるのでしょうね」



 お屋敷の玄関で俺が二人の子どもに手を引かれているのを見て、リンさんが俺に話しかけてきた。

 リンさんも子どもをお風呂に入れるのを手伝っているようだ。

 なんせ三十人の子どもだから、人手はいっぱいあったほうがいいだろう。

 リンさんは腰をおとして、子どもたちと目線をあわせた。



「ねえ、お姉ちゃんと一緒にお風呂に入らない?」

「「お兄ちゃんと一緒に入る!」」

「あらら、ふられちゃった。残念」

「「お兄ちゃんと一緒に入るなら、お姉ちゃんも一緒でいいよ」」

「ふえ! そ、それは流石にだめですよ」



 子どもに改めて一緒にお風呂入らないかと誘ったリンさんだったが、思わぬ反撃にあい顔が真っ赤っ赤になってしまった。

 手をパタパタしてワタワタしている。



「ほらほら、二人ともリンさんをからかわないよ」

「「はーい」」

「リンさんすみません。部屋にいるので、順番になったら呼んでもらえますか?」

「は、はい。分かりました」



 二人のことをたしなめて、リンさんに順番になったら連絡するようにお願いした。

 リンさんはまだ若干顔が赤いが復活したようで、直ぐに返事をしてくれた。



 とたとたとたとた、てし。



 あれ、足音か聞こえたと思ったら、背中っていうかお尻に何かがくっついた。

 後ろを振り向くと、エルフっぽい子どもがお尻に抱きついている。

 その後ろから、メイド服姿のマリリさんが走ってきた。

 

「あっ、ここにいた。サトーさんにくっついてますね」

「……パパ?」

「パパ? えっ、サトーさん。パパってどういうことですか?」

「おやおや。サトーさん、もうこんな大きなお子さんが?」

「「えー、お兄ちゃんがこの子のパパ?」」



 おい、お尻にくっついたエルフの子がいきなり俺のことをパパと呼んだぞ。

 リンさんは俺の事を信じられないって顔で見ているし、マリリさんは分かっていてニヤニヤしてるし、二人の子どももはてなって顔をしている。



「マリリさん、分かっていてニヤニヤしないでください。リンさん、俺は独身で子どもはいませんよ。きっと大人の男性だから、パパって言っているはずです」

「そ、そうですよね。サトーさんに子どもはいないですよね」

「えー、そんなに早く否定しなくてもいいじゃないですか」



 俺がすぐさま否定すると、マリリさんがつまんないってぶーたれているけど、リンさんは胸に手をあててほっとしていた。

 マリリさんは、未だに俺のお尻にくっついているエルフの子どもに話しかけてきた。



「ほら、お姉ちゃんと一緒にお風呂に入りましょうね」

「……パパと一緒に入る」

「あら、パパと入るの?」

「……うん」



 どうしてもこのエルフの子は、俺とお風呂に入りたいようだ。

 そのまま俺のお尻にさらに抱きついてきた。



「パパ、この子も一緒に入れてね」

「マリリさん楽しんでますね。大丈夫ですよ、どうせこの二人も一緒にお風呂にいれますから。この子も部屋に連れていきますね。リンさん、すみませんがお願いします」

「あははは、じゃあ後で呼びに来ますね」



 ということで、エルフの子もついでにお風呂に入れるので部屋に連れていく。

 マリリさんだと、ハプニングありそうなタイミングで呼びそうなので、お風呂のタイミングはやはりリンさんにお願いした。



「お兄ちゃんおかえり」

「ただいま」

「サトー、何かくっついているよー」

「主よ、モテモテだな」



 部屋に入るとみんながゴロゴロしていた。

 どうもミケたちもお風呂の順番待ちのようだ。

 あとシルよ、子どもにモテても嬉しくはないぞ。俺は大人の女性にモテたいんだ。



「ほら、みんなベッドに座って待っててね。お兄ちゃん着替えるから」

「「「はーい」」」

「ミケとリーフ。ちょっと子ども達の相手をしてくれ」

「「わかったよー」」



 ミケとリーフが子ども達の相手をしているうちに、着替えとお風呂の準備。

 あの子達の着替えはどうしよう。

 取り敢えずミケの予備を出しておくか。



「シル、お前はお風呂入るか?」

「主よ、我は入らんぞ」



 うーん、シルのお風呂嫌いもどうにかしないとな。

 いつも生活魔法かけているだけだし。

 取り敢えず、お風呂の準備はこんなもんでいいか。



「おまたせ。ミケ、何を話していたんだ?」

「うーん、お風呂のこととかかな?」

「何で疑問系なんだよ……」



 ミケのことはさておき、この子達のことを確認しよう。



「そういえば名前聞いてなかったな、何て名前だ?」

「リリです」

「ララだよ」

「……レイア」

「えっと、天使の方がララで悪魔の方がリリ、エルフがレイアか。リリとララは双子か?」

「「そうだよ、双子だよ!」」

「だよな。息ぴったりだし、何よりも顔がそっくりだ」



 天使と悪魔の双子って普通いないよなあ。そりゃレア度高くて闇ギルドに狙われる訳だ。

 ララは天使で、髪は銀髪のロングヘアで背中の白い羽根が特徴。

 リリは悪魔で、黒いショートボブで小さな角とコウモリの羽がある。

 ララは活発な感じで、おとなしいリリを引っぱっている。

 レイアも幼いけど美形のエルフだし、こういう希少種は高値で売買されそうだ。

 物静かで、薄い緑のショートヘアに尖った耳が特徴的。



「俺はサトーだよ、こっちの猫獣人はミケで、妖精がリーフね」

「ミケだよ! よろしくね!」

「わたしがリーフだよー」

「「えっと、サトーお兄ちゃんにミケちゃんにリーフちゃん」」

「……パパとミケとリーフ」

「あれ? レイアちゃんは何でお兄ちゃんの事をパパって呼ぶの?」

「レイアのパパになってほしいから」

「そうなんだー」



 やっぱりこの年だから、まだ親に甘えたい年頃なんだろう。

 レイアが俺の事をパパって呼ぶのはそういう事だろうね。



「「あのスライムは?」」

「スライムはスラタロウって言うんだよ!」

「……白いネズミは?」

「ホワイトだよー」

「「カゴの中で寝ているクモさんは?」」

「タラちゃんだよ。疲れちゃったのかな?」

「お腹丸出しで寝ている白いオオカミと小さなオオカミは?」

「大きいのはシルで、小さいのはベリルだよー。あちゃー、ものすごい寝相だねー」



 ミケとリーフが三人に仲間を紹介しているが、カゴに入って寝ているタラちゃんはともかくとして、いつの間にか床でへそ天で寝ているシルとベリルの姿はいただけないなあ。

 完全に野生をどこかに忘れてきた寝相だよ。

 

「取り敢えずお風呂に入ってゆっくりしよう。ミケもお風呂入るだろ?」

「うん、お兄ちゃんとお風呂久しぶり!」

「わたしは遠慮しておくね。あんまり汚れてないし、明日入るよ」

「じゃあリーフはお留守番だな。タラちゃんも寝ているから、そのままにしておこう」



 ミケにララとリリとレイアなら、俺一人でもお風呂は大丈夫だろう。

 そう思っていたらドアの向こうから声が聞こえた。



「サトーさん、お風呂大丈夫ですよ」

「リンさんありがとうございます。よし、みんな行こうか」

「「「「おー」」」」



 思ったよりも早かったけど、メイドさんも総出で風呂に入れていたしこんなもんか。

 四人を引き連れてお風呂に向かっていく。