「皆さん、ここが我が家の御用商会のオース商会ですわ」

「とても大きい商会ですね」



 おかわり組の昼食が終わった後、リンさんの案内でバスク家の御用商会に案内してもらった。

 とても大きな商会で品揃えも充実している。

 目当てのリヤカーも店頭で販売していたので、直ぐに買えそうだ。



「リン様、会頭への面会の手続きを行なってきます」

「マルクさん。お願いしますね」



 執事のマルクさんがすぐさま会頭への面会手続きに動いてくれた。

 流石出来る執事マルクさん。

 だが、それよりも気になる事が。



「お兄ちゃん。あそこのお店、人が一杯出入りしているよ」

「何だか荒くれ者が多そうじゃのう」

「馬車も沢山止まっていますね」

「護衛につく冒険者の数も多いですわ」



 皆が口々に言うのは、オース商会の道路を挟んで向かい側の商会。

 次から次へと馬車が発車していく。

 それに護衛に集まる冒険者も多い。

 ビアンカ殿下が言う通りに、荒々しい雰囲気が商会から伝わってくる。



「あれはワース商会ですね。元は細々とした商会でしたが、ここ最近急成長していまして」

「成程、怪しいのう」

「怪しい」

「怪しいですわ」



 もう名前からして怪しい商会だ。

 皆、口々に怪しいと言っている。

 それに余程の事がない限り急成長は出来ないはず。

 何か秘密がありそうだな。



「皆様、会頭が是非お会いしたいとの事です。中へどうぞ」



 と、マルクさんが中から声をかけてくれた。

 色々聞きたい事が増えてきたぞ。



 会頭に会うのは、俺とリンさんにビアンカ殿下とエステル殿下。

 他の人に色々お買い物をお願いしておきました。

 マルクさんがいるから大丈夫でしょう。



「皆様お待たせしました。会頭のオースです。リン様、お久しぶりにございます」

「会頭さん、お久しぶりです。今日は色々伺いたい事があって来ました」

「私で分かることでしたら何なりとお申し付け下さい」



 会頭さんは、頭が剥げて小太りだけどとても感じの良い人の様だ。

 にこやかに話してくれる。

 と、こちらも自己紹介。

 あくまでも冒険者として来ているので、ビアンカ殿下もエステル殿下も普通に挨拶していた。



「リン様、王族の方に同じ名前の方がおりました。しかもエステル様の鎧は近衛の物とお見受けします。もしかして……」

「妾達は冒険者として来ている。詮索は不要じゃ」

「そうだね。リンちゃんとはクラスメイトでお友達だし」

「……承りました」



 会頭さんは直ぐにビアンカ殿下とエステル殿下が王族だと見抜いたみたいだが、余計なことは言わなかった。

 この辺が御用商人として活動出来る証だろう。



「会頭さん。私達は昨今のバスク領の混乱を調査しております。何か些細な事でも良いので、最近の事をお話頂けますか?」

「一番影響が大きいのが食料不足ですね。ブルーノ侯爵領はこの辺一体の領地にとって最大の食料供給源ですが、ブルーノ侯爵領からの購入がかなり少なくなっています。他の領地から何とかかき集めておりますが、この難民問題もあって食料品が高騰しております」

「ふむ、先ほど市場を見たが、確かに価格が高めじゃのう」

「はい、街道の魔物や盗賊も増えております。しかし一番の問題は商人にあります」



 食料問題はあるかと思ったら、会頭さんは魔物や盗賊の問題ではないと言う。

 

「魔物や盗賊はどうしても出てきます。確かに被害は増えておりますが、商人にとってはそれは織り込み済みです。実はバスク子爵領とブルーノ侯爵領の商品の配送を担う商会が変わってしまいました」

「もしかしてワース商会ですか?」

「普通小さな商会は急に大量の荷を任される事はありません。ワース商会が一手に担うのは有り得ない事です」

「何か考えられる理由はありますか?」

「我が商会もワース商会を調査しておりますが、中々尻尾を掴めません。ただ、あれだけの荷や冒険者を雇う事は急には出来ません。恐らく何かが背後についているとしか考えられません」



 やはりあのワース商会が絡んでいた。見るからに怪しい商会だもんな。

 そして荒くれ者の冒険者の扱いにも慣れている様な気がした。

 これはもしかして……



「サトーよ、考えている事を当ててやろうかのう。背後についているのは闇ギルド、もしくはブルーノ侯爵やランドルフ伯爵じゃろう」

「ビアンカちゃんの言う通りね。私もお父さんやお兄ちゃんに色々聞いたけど、二つの貴族はとっても怪しいしね」

「リンさん、ビアンカ殿下、エステル殿下。出来ればワース商会に監視をつけたいと思います。タラちゃん達アルケニーと、エステル殿下のショコラなら夜間の監視も可能かと思います」

「オリガさんとルキアさんのハミングバードも偵察にあたらせましょう。従魔とはいえ、単独行動は危険ですから」

「お屋敷に帰ってから詳細を詰めましょう。テリー様とも話を詰めないといけませんね」



 皆の意見が一致したので、夜にでも色々調整して監視を開始しよう。

 何かきっかけでも掴めれば、そこから切り込んでいけそうだな。



「リン様、サトー様は洞察力に優れた方ですね」

「はい、我々の指揮官みたいな感じですわ」

「もしかして貴族の方でしょうか?」

「いえ、一般市民の方だと聞いております」

「私が見る限り、サトー様はとても一般市民とは思えない雰囲気を持っております」



 何だろう。また俺の評価がされているような。



「サトーよ諦めよ。妾達とこうして同席しているだけで、何者かと評価されるものじゃ。既に王族の間でも、サトーの能力は認められているのじゃ」

「そうだね。サトーとあってまだ日が浅いけど、サトーの能力なら直ぐに近衛中隊位なら指揮出来そうだよ」



 二人の王女からの評価が高すぎる。

 せめて善良な一般市民でありたいよ。