今日も早朝から特訓。
魔力循環に回避力アップの訓練にもだいぶ慣れてきた。
最初の頃はこんな訓練出来るかと絶望していたが、人間は慣れるもんだ。
今日からミケとエステル殿下は、回避力アップの訓練から組み手の訓練に。
エステル殿下も剣技以外の訓練が出来るとあって喜んでいた。流石は戦乙女の再来だ。
エステル殿下の従魔になったフクロウのショコラは、風魔法と闇魔法以外にちょっとした空間魔法が使えるとの事。リーフが嬉々としてショコラに魔法の使い方を教えていた。早めに探索魔法を覚えさせるらしい。
ついでに俺も探索魔法を習得しないといけないとリーフに言われてしまった。
「ふむ、この分なら新しい訓練に移っても大丈夫だぞ。明日から早速やってみるぞ」
「そだねー。魔法使い組も明日から新しい訓練だねー」
「「「えー!」」」
そりゃようやく特訓に慣れてきた所で更にキツイ特訓になるのは、普通の人ならブーイングするでしょう。
シルとリーフが一瞬鬼軍曹に見えた。
「おー、ミケ新しい訓練頑張るよ!」
「私を満足させる特訓かな?」
もちろん文句を言っている人からは、ミケとエステル殿下は除きます。
訓練も終わって朝食を食べ、冒険者ギルドへ。
今日から暫くは難民キャンプの運営をラルフ様が主体でやってみるとのこと。
何かあったら俺達に助けを求めるとの事だか、昨日の様子だと大丈夫だろう。
「お馬さん達、また暴走したら駄目ですよ」
「「ヒヒーン」」
壊れていた馬車の修理がようやく終わったので、今日から街道の森までは馬車で向かうことに。
バスク領に向かった時の様に馬が暴走したら困るので、ルキアさんが早速馬に注意をしていた。
馬は暴走してルキアさんから説教されていたので、今回は素直に従っている。説教していた時のルキアさんは怖かったからなあ……
ギルドでの受付処理をマルクさんが行い、そのままの足で馬車でブルーノ侯爵領に向かう街道に。
今日はマルクさんが御者をしてくれます。
実はメンバーが増えたので、修理とあわせて馬車を大きく改造してくれた。
まあ馬車をひくのが魔法使う馬なので、馬車が大きくなっても乗る人数が増えてもへっちゃらだ。
「お兄ちゃん、今日からはどんな依頼とかするの?」
「暫くは魔物退治だよ。旅人とか商人を襲う魔物がいるから、そういう魔物を退治するんだよ」
「薬草取りは?」
「薬草取りは暫くお休みかな。魔物退治が落ち着いたら、また薬草取りが出来るよ」
「分かった!」
ミケとそんな会話をしつつ、城門を抜けて街道へ進んでいく。
街道を暫らく進むと街道沿いの森から何やら気配を感じ、皆警戒し始めた。
「サトーよ、あの魔法回避訓練が役に立っておるのう」
「死なないように必死で避けてましたからね。感覚が鋭くなってます」
「訓練の成果が出ていて、我も一安心だぞ。そろそろ森に入って魔物退治だぞ」
あれだけ死にものぐるいで訓練をやって成果が出てなければ、それはそれで凹むけど、取り敢えずは順調に訓練の成果が出ているみたいだ。
街道沿いの少し開けた所に馬車をとめて、森に入る班と馬車周辺にいる班に分けることになった。
森に入る班は、俺とビアンカ殿下に、エステル殿下とミケにルキアさんにシルとリーフ。
従魔は、スラタロウとタラちゃんにホワイトとフランソワとヤキトリにショコラ。
馬車周り班は、リンさんにオリガさんにマリリさんとガルフさんにマルクさん。
従魔はポチにサファイアにタコヤキ。
あと、馬二頭も魔法使えるのでリンさんの班に参加することに。
普通馬がオークも楽に倒せるなんて思わないから、敵の方もある意味油断してくれるかも。
「エステル殿下、ビアンカ殿下。森の中は常に戦闘になるかと思うので、怪我だけは十分注意して下さい」
「大丈夫だよ。森からくる魔物からの熱い視線にこたえてあげないと」
「あまり個人で突っ込まずに、出来るだけ固まっての戦闘じゃな。エステルお姉様、暴走しないでくだされ」
「ビアンカちゃん心外だな。私は集団戦闘も得意なの!」
取り敢えずエステル殿下とビアンカ殿下は大丈夫そうだな。
ミケには、今回はバトルハンマーではなくガントレットを装備させよう。
「リンさん。もしかしたら盗賊も襲ってくるかもしれません。生け捕り出来れば有り難いですが、難しい場合は判断お任せします」
「大丈夫ですわ。こちらもこれだけの戦力がありますから」
リンさんにも色々お願いしておこう。魔物だけが相手じゃないと思うし。
「サトー、リンちゃんとの別れの抱擁は?」
エステル殿下が何か言っているが無視しよう。
リンさんもアイコンタクトで理解して貰った。
「では森に入ります。お昼ごろに一旦戻ります」
「分かりましたわ。サトーさんもお気をつけて」
リンさん達と別れて森の中に入っていく。
森に入ると直ぐに魔物がお出迎えだ。
「あっ、オオカミだ」
「主、ダークウルフの群れだぞ」
「こんなところにはいないよー。この辺はウルフ系だとフォレストウルフ位しかいないしー」
「やはり生態系がおかしいのですね」
「ほほ、早速妾達を歓迎してくれたのじゃろう」
「ビアンカちゃん。分かっていたけどあまり嬉しくない歓迎だね」
皆武器を手にし、そして戦闘が始まった。
一方、馬車の警護にあたっていたリンさんの方でも戦闘が始まっていた。
「いきなりゴブリンの群れですか。馬車の荷物を狙っているか、あるいは……」
「これだけ美女がいるから狙っているか」
「マリリさん。わざわざ口に出さなくても」
「リン、相手はゴブリン。女の敵だよ。ゴブリンを見て」
「……ゴブリンの視線を見るに、やはり馬車の荷物よりも私達が目的ですね。皆さん、いきますわよ」
「「「はい!」」」
リンさん達もゴブリンとの戦闘が始まった。
「ウルフに始まり、ヘビに虫に蜘蛛に怪鳥と。色々な魔物がオンパレードだな」
「うむ。王都への街道沿いと明らかに魔物のレベルが違うのじゃ」
「数もだいぶ多いわね。訓練にもなるけど、これじゃきりがないわ」
森の中に入って約二時間。今もヘビ型の魔物を討伐したところだった。全長が十メートルをこえる、巨大なアナコンダだった。
エステル殿下の戦闘力は流石で、シルが魔物を検知する前に倒していることもあった。
俺達も特訓の成果で大きな怪我をすることもなく魔物を倒しているけど、如何せん魔物の数が多過ぎる。
「エステル殿下、普通の森でここまで魔物が多いってことありますか?」
「いや、辺境や魔の森と言われる所以外はこんなに魔物は現れない」
「ですよね。王都に向かう街道とあまりにも違いすぎます」
エステル殿下も余裕がないのか、いつものキャラが消えている。
やはりこの森の生態系は何かがおかしい。
「サトー、考えるのもよいが来客の相手をせんと嫌われるぞ」
「あちゃー、今度は熊さんが団体でお目見えですか」
「お兄ちゃん、ちょっと疲れたよ……」
「仕方ない。予定よりも早いが、熊を倒したら一度馬車に戻りましょう」
これ以上戦闘を続けたら、疲労から大怪我をしかねない。
今の戦闘を終わらせたら、馬車に戻って休憩しよう。
「いやはや、まさかここまで魔物が多いとは」
「これでは街道に魔物が溢れるのも納得じゃ」
「リンちゃんの所も大変なことに……なっているわね」
「そうですね、まさか本当に盗賊もいるとは」
森から抜けて馬車の所に戻ると、ゴブリンやウルフの死骸が沢山あり、盗賊らしき人も十人程拘束されていた。
街道にいても、想像以上に危険があるな。そりゃ護衛依頼が多い訳だ。
「あれ? サトーさんどうしたのですか? 戻るのだいぶ早いですね」
「いや、森の中は魔物だらけで。疲労から怪我する危険があったので、早目に戻ってきました」
「それ程森の中は魔物が溢れていたんですね。こちらも次から次へと魔物が森から出てきて、倒し終わったら今度は盗賊でしたよ」
「恐らく魔物の対応で疲れている所を狙ったのでしょうね。いずれにせよリンさん達が無事で良かった」
取り急ぎリンさん達が討伐した魔物をアイテムボックスに回収する。
血の臭いに誘われて、また魔物が来たらたまらない。
後はこの盗賊をどうするかだ。
「リンさん、盗賊は騎士に引き渡せばいいですよね」
「はい、ギルドから盗賊の照会もあるかと思いますが、先ずは騎士に引き渡せば良いです」
「ビアンカ殿下、車輪が付いた土牢みたいなの出来ますか? 馬車に連結させて、街に盗賊を運びたいです」
「ふむ、やってみよう。スラタロウも来るがよいぞ」
取り敢えず盗賊の件はこれでオッケーだ。
後は今後の事を考えないと。
「エステル殿下、リンさん。盗賊を街に連行しつつ、一旦戻りましょう。これでは埒が明かないです」
「サトーの意見に賛成だわ。現状が分かったから対策を考えないと」
「盗賊の件もあるのでお父様にも相談が必要ですわ」
意見がまとまったので、街に戻ることにする。
うーん、今日は三時間も活動してないけど仕方ない。作戦を練り直さないと。
「サトー、土牢が出来たぞ。スラタロウと妾の会心の作品じゃ」
「流石ビアンカ殿下、完璧です」
ビアンカ殿下に呼ばれて振り向くと、そこには護送車と化した土牢が出来ていた。
早速盗賊を乗せて馬車に連結する。
後は馬が馬車に土牢を引けるかどうかだが……
「お馬さんがこのくらいなら平気だって」
ミケが馬に確認してもらい、実際に動いても問題なかったので、このまま街に向かうことに。
土牢は騎士に引き渡すまで持てば良いわけだから、今回は土牢のカタチとかは気にしない。
門に着くと流石に土牢は目立つのか、周囲から好奇の目で見られていた。
リンさんは、守備兵に盗賊の引き渡し手続きを行なっていた。
「リン様、土牢に入っているこの者はどうしたのですか?」
「魔物を討伐している最中に襲ってきた盗賊です」
「は、こちらで引き取ります」
「この土牢ごとお願いします。後は尋問した結果の共有もお願いします」
守備兵にドナドナされていく盗賊を傍目に、俺達はギルドに向かっていく。
討伐した魔物の数も凄いので、ギルドに出さないと。
「皆様、ギルドカードが更新されたので確認してください」
「あれ? マルクさん何か問題でもありましたか?」
「いえ、この度の魔物討伐と盗賊の捕縛を持ってランクが上がるそうです」
「おお、ミケもランクアップしている!」
ギルドの受付で色々対応していたマルクさんから、皆に声がかかった。
ここ暫く依頼をこなしていたので、それぞれランクが上がったらしい。
まあ、これだけ薬草取りに魔物討伐すればランクは上がるだろうな。
俺もランクがFからEランクになった。
採取した薬草の品質の評価もいいので、もう少し頑張ればDランクに上がると窓口のお姉さんが言っていた。
何とか頑張って、バスク領にいる間にDランクに上がりたい。
まだ昼食を食べていないので、近くの料理屋で食べる事に。
そういえば市場で買ったもので昼食を済ませた事はあったけど、お店で食べるのはこの世界に来て初めてだ。
メニューは肉料理が多かったので、ステーキを頼む事に。ハンバーグもあり、ミケは美味しそうに食べていた。
この世界は料理の技術が発達しているので、異世界からきた身としては非常にありがたい。
「リンさん。この辺りに大八車かリアカーを売っている所はありますか?」
「確か市場の先にある商会で取り扱っていますよ。我が家のお抱え商人をご紹介しますわ」
「ありがとうございます。盗賊とかを引っ張ってくるにも、今はわざわざビアンカ殿下に土牢作ってもらう必要があるので」
食事後にリンさんに商会の情報を聞いてみた。
リアカーとかもいくつか購入すれば、複数の盗賊団が現れても運べるだろう。
あの馬ならパワーもあるし、土牢も実際に運んだから大丈夫だろう。
「リンよ。出来れば会頭に会いたい。取次は出来るか?」
「ビアンカ殿下、商会にいましたら可能です」
「妾もようやく動ける余裕が出来た。騎士も調査を行なっているが、我々も動ける所は動かんと」
ビアンカ殿下は会頭とあって、色々聞きたいみたいだ。
ここで色々疑惑の多い商会の情報が掴めれば、この先の対応もやり易くなるだろう。流石はビアンカ殿下だ。
しかし俺達が色々喋っていても、エステル殿下が大人しい。何をやっているのだろう?
「うーん、このステーキ美味しい。お姉ちゃんお代わりするね」
「我もこのステーキはお代わりしたいぞ」
「ミケもハンバーグお代わり!」
「「「……」」」
食いしん坊陣のお代わりが食べ終わるのを待ってから商会に向かうことに、一同無言で目を合わせて同意した。
魔力循環に回避力アップの訓練にもだいぶ慣れてきた。
最初の頃はこんな訓練出来るかと絶望していたが、人間は慣れるもんだ。
今日からミケとエステル殿下は、回避力アップの訓練から組み手の訓練に。
エステル殿下も剣技以外の訓練が出来るとあって喜んでいた。流石は戦乙女の再来だ。
エステル殿下の従魔になったフクロウのショコラは、風魔法と闇魔法以外にちょっとした空間魔法が使えるとの事。リーフが嬉々としてショコラに魔法の使い方を教えていた。早めに探索魔法を覚えさせるらしい。
ついでに俺も探索魔法を習得しないといけないとリーフに言われてしまった。
「ふむ、この分なら新しい訓練に移っても大丈夫だぞ。明日から早速やってみるぞ」
「そだねー。魔法使い組も明日から新しい訓練だねー」
「「「えー!」」」
そりゃようやく特訓に慣れてきた所で更にキツイ特訓になるのは、普通の人ならブーイングするでしょう。
シルとリーフが一瞬鬼軍曹に見えた。
「おー、ミケ新しい訓練頑張るよ!」
「私を満足させる特訓かな?」
もちろん文句を言っている人からは、ミケとエステル殿下は除きます。
訓練も終わって朝食を食べ、冒険者ギルドへ。
今日から暫くは難民キャンプの運営をラルフ様が主体でやってみるとのこと。
何かあったら俺達に助けを求めるとの事だか、昨日の様子だと大丈夫だろう。
「お馬さん達、また暴走したら駄目ですよ」
「「ヒヒーン」」
壊れていた馬車の修理がようやく終わったので、今日から街道の森までは馬車で向かうことに。
バスク領に向かった時の様に馬が暴走したら困るので、ルキアさんが早速馬に注意をしていた。
馬は暴走してルキアさんから説教されていたので、今回は素直に従っている。説教していた時のルキアさんは怖かったからなあ……
ギルドでの受付処理をマルクさんが行い、そのままの足で馬車でブルーノ侯爵領に向かう街道に。
今日はマルクさんが御者をしてくれます。
実はメンバーが増えたので、修理とあわせて馬車を大きく改造してくれた。
まあ馬車をひくのが魔法使う馬なので、馬車が大きくなっても乗る人数が増えてもへっちゃらだ。
「お兄ちゃん、今日からはどんな依頼とかするの?」
「暫くは魔物退治だよ。旅人とか商人を襲う魔物がいるから、そういう魔物を退治するんだよ」
「薬草取りは?」
「薬草取りは暫くお休みかな。魔物退治が落ち着いたら、また薬草取りが出来るよ」
「分かった!」
ミケとそんな会話をしつつ、城門を抜けて街道へ進んでいく。
街道を暫らく進むと街道沿いの森から何やら気配を感じ、皆警戒し始めた。
「サトーよ、あの魔法回避訓練が役に立っておるのう」
「死なないように必死で避けてましたからね。感覚が鋭くなってます」
「訓練の成果が出ていて、我も一安心だぞ。そろそろ森に入って魔物退治だぞ」
あれだけ死にものぐるいで訓練をやって成果が出てなければ、それはそれで凹むけど、取り敢えずは順調に訓練の成果が出ているみたいだ。
街道沿いの少し開けた所に馬車をとめて、森に入る班と馬車周辺にいる班に分けることになった。
森に入る班は、俺とビアンカ殿下に、エステル殿下とミケにルキアさんにシルとリーフ。
従魔は、スラタロウとタラちゃんにホワイトとフランソワとヤキトリにショコラ。
馬車周り班は、リンさんにオリガさんにマリリさんとガルフさんにマルクさん。
従魔はポチにサファイアにタコヤキ。
あと、馬二頭も魔法使えるのでリンさんの班に参加することに。
普通馬がオークも楽に倒せるなんて思わないから、敵の方もある意味油断してくれるかも。
「エステル殿下、ビアンカ殿下。森の中は常に戦闘になるかと思うので、怪我だけは十分注意して下さい」
「大丈夫だよ。森からくる魔物からの熱い視線にこたえてあげないと」
「あまり個人で突っ込まずに、出来るだけ固まっての戦闘じゃな。エステルお姉様、暴走しないでくだされ」
「ビアンカちゃん心外だな。私は集団戦闘も得意なの!」
取り敢えずエステル殿下とビアンカ殿下は大丈夫そうだな。
ミケには、今回はバトルハンマーではなくガントレットを装備させよう。
「リンさん。もしかしたら盗賊も襲ってくるかもしれません。生け捕り出来れば有り難いですが、難しい場合は判断お任せします」
「大丈夫ですわ。こちらもこれだけの戦力がありますから」
リンさんにも色々お願いしておこう。魔物だけが相手じゃないと思うし。
「サトー、リンちゃんとの別れの抱擁は?」
エステル殿下が何か言っているが無視しよう。
リンさんもアイコンタクトで理解して貰った。
「では森に入ります。お昼ごろに一旦戻ります」
「分かりましたわ。サトーさんもお気をつけて」
リンさん達と別れて森の中に入っていく。
森に入ると直ぐに魔物がお出迎えだ。
「あっ、オオカミだ」
「主、ダークウルフの群れだぞ」
「こんなところにはいないよー。この辺はウルフ系だとフォレストウルフ位しかいないしー」
「やはり生態系がおかしいのですね」
「ほほ、早速妾達を歓迎してくれたのじゃろう」
「ビアンカちゃん。分かっていたけどあまり嬉しくない歓迎だね」
皆武器を手にし、そして戦闘が始まった。
一方、馬車の警護にあたっていたリンさんの方でも戦闘が始まっていた。
「いきなりゴブリンの群れですか。馬車の荷物を狙っているか、あるいは……」
「これだけ美女がいるから狙っているか」
「マリリさん。わざわざ口に出さなくても」
「リン、相手はゴブリン。女の敵だよ。ゴブリンを見て」
「……ゴブリンの視線を見るに、やはり馬車の荷物よりも私達が目的ですね。皆さん、いきますわよ」
「「「はい!」」」
リンさん達もゴブリンとの戦闘が始まった。
「ウルフに始まり、ヘビに虫に蜘蛛に怪鳥と。色々な魔物がオンパレードだな」
「うむ。王都への街道沿いと明らかに魔物のレベルが違うのじゃ」
「数もだいぶ多いわね。訓練にもなるけど、これじゃきりがないわ」
森の中に入って約二時間。今もヘビ型の魔物を討伐したところだった。全長が十メートルをこえる、巨大なアナコンダだった。
エステル殿下の戦闘力は流石で、シルが魔物を検知する前に倒していることもあった。
俺達も特訓の成果で大きな怪我をすることもなく魔物を倒しているけど、如何せん魔物の数が多過ぎる。
「エステル殿下、普通の森でここまで魔物が多いってことありますか?」
「いや、辺境や魔の森と言われる所以外はこんなに魔物は現れない」
「ですよね。王都に向かう街道とあまりにも違いすぎます」
エステル殿下も余裕がないのか、いつものキャラが消えている。
やはりこの森の生態系は何かがおかしい。
「サトー、考えるのもよいが来客の相手をせんと嫌われるぞ」
「あちゃー、今度は熊さんが団体でお目見えですか」
「お兄ちゃん、ちょっと疲れたよ……」
「仕方ない。予定よりも早いが、熊を倒したら一度馬車に戻りましょう」
これ以上戦闘を続けたら、疲労から大怪我をしかねない。
今の戦闘を終わらせたら、馬車に戻って休憩しよう。
「いやはや、まさかここまで魔物が多いとは」
「これでは街道に魔物が溢れるのも納得じゃ」
「リンちゃんの所も大変なことに……なっているわね」
「そうですね、まさか本当に盗賊もいるとは」
森から抜けて馬車の所に戻ると、ゴブリンやウルフの死骸が沢山あり、盗賊らしき人も十人程拘束されていた。
街道にいても、想像以上に危険があるな。そりゃ護衛依頼が多い訳だ。
「あれ? サトーさんどうしたのですか? 戻るのだいぶ早いですね」
「いや、森の中は魔物だらけで。疲労から怪我する危険があったので、早目に戻ってきました」
「それ程森の中は魔物が溢れていたんですね。こちらも次から次へと魔物が森から出てきて、倒し終わったら今度は盗賊でしたよ」
「恐らく魔物の対応で疲れている所を狙ったのでしょうね。いずれにせよリンさん達が無事で良かった」
取り急ぎリンさん達が討伐した魔物をアイテムボックスに回収する。
血の臭いに誘われて、また魔物が来たらたまらない。
後はこの盗賊をどうするかだ。
「リンさん、盗賊は騎士に引き渡せばいいですよね」
「はい、ギルドから盗賊の照会もあるかと思いますが、先ずは騎士に引き渡せば良いです」
「ビアンカ殿下、車輪が付いた土牢みたいなの出来ますか? 馬車に連結させて、街に盗賊を運びたいです」
「ふむ、やってみよう。スラタロウも来るがよいぞ」
取り敢えず盗賊の件はこれでオッケーだ。
後は今後の事を考えないと。
「エステル殿下、リンさん。盗賊を街に連行しつつ、一旦戻りましょう。これでは埒が明かないです」
「サトーの意見に賛成だわ。現状が分かったから対策を考えないと」
「盗賊の件もあるのでお父様にも相談が必要ですわ」
意見がまとまったので、街に戻ることにする。
うーん、今日は三時間も活動してないけど仕方ない。作戦を練り直さないと。
「サトー、土牢が出来たぞ。スラタロウと妾の会心の作品じゃ」
「流石ビアンカ殿下、完璧です」
ビアンカ殿下に呼ばれて振り向くと、そこには護送車と化した土牢が出来ていた。
早速盗賊を乗せて馬車に連結する。
後は馬が馬車に土牢を引けるかどうかだが……
「お馬さんがこのくらいなら平気だって」
ミケが馬に確認してもらい、実際に動いても問題なかったので、このまま街に向かうことに。
土牢は騎士に引き渡すまで持てば良いわけだから、今回は土牢のカタチとかは気にしない。
門に着くと流石に土牢は目立つのか、周囲から好奇の目で見られていた。
リンさんは、守備兵に盗賊の引き渡し手続きを行なっていた。
「リン様、土牢に入っているこの者はどうしたのですか?」
「魔物を討伐している最中に襲ってきた盗賊です」
「は、こちらで引き取ります」
「この土牢ごとお願いします。後は尋問した結果の共有もお願いします」
守備兵にドナドナされていく盗賊を傍目に、俺達はギルドに向かっていく。
討伐した魔物の数も凄いので、ギルドに出さないと。
「皆様、ギルドカードが更新されたので確認してください」
「あれ? マルクさん何か問題でもありましたか?」
「いえ、この度の魔物討伐と盗賊の捕縛を持ってランクが上がるそうです」
「おお、ミケもランクアップしている!」
ギルドの受付で色々対応していたマルクさんから、皆に声がかかった。
ここ暫く依頼をこなしていたので、それぞれランクが上がったらしい。
まあ、これだけ薬草取りに魔物討伐すればランクは上がるだろうな。
俺もランクがFからEランクになった。
採取した薬草の品質の評価もいいので、もう少し頑張ればDランクに上がると窓口のお姉さんが言っていた。
何とか頑張って、バスク領にいる間にDランクに上がりたい。
まだ昼食を食べていないので、近くの料理屋で食べる事に。
そういえば市場で買ったもので昼食を済ませた事はあったけど、お店で食べるのはこの世界に来て初めてだ。
メニューは肉料理が多かったので、ステーキを頼む事に。ハンバーグもあり、ミケは美味しそうに食べていた。
この世界は料理の技術が発達しているので、異世界からきた身としては非常にありがたい。
「リンさん。この辺りに大八車かリアカーを売っている所はありますか?」
「確か市場の先にある商会で取り扱っていますよ。我が家のお抱え商人をご紹介しますわ」
「ありがとうございます。盗賊とかを引っ張ってくるにも、今はわざわざビアンカ殿下に土牢作ってもらう必要があるので」
食事後にリンさんに商会の情報を聞いてみた。
リアカーとかもいくつか購入すれば、複数の盗賊団が現れても運べるだろう。
あの馬ならパワーもあるし、土牢も実際に運んだから大丈夫だろう。
「リンよ。出来れば会頭に会いたい。取次は出来るか?」
「ビアンカ殿下、商会にいましたら可能です」
「妾もようやく動ける余裕が出来た。騎士も調査を行なっているが、我々も動ける所は動かんと」
ビアンカ殿下は会頭とあって、色々聞きたいみたいだ。
ここで色々疑惑の多い商会の情報が掴めれば、この先の対応もやり易くなるだろう。流石はビアンカ殿下だ。
しかし俺達が色々喋っていても、エステル殿下が大人しい。何をやっているのだろう?
「うーん、このステーキ美味しい。お姉ちゃんお代わりするね」
「我もこのステーキはお代わりしたいぞ」
「ミケもハンバーグお代わり!」
「「「……」」」
食いしん坊陣のお代わりが食べ終わるのを待ってから商会に向かうことに、一同無言で目を合わせて同意した。