「久々にギルドにきましたが、やはり以前来た時と雰囲気が違いますね」

「少し荒々しい雰囲気が伝わってきますね」



 難民キャンプの対応が終わったので、今日の冒険者ギルドに移動。

 冒険者ギルドに久々に来たというガルフさんとマルクさんは、以前冒険者ギルドに来た時との違いを口にしていた。

 依頼の掲示板を見たが、今日も護衛の依頼が多めの様だ。



「悩んでも仕方はない。妾達はやるべき事をするのじゃ。マルクよ頼むぞ」

「ビアンカ殿下、承りました」

「そうだよ。ミケは薬草一杯取るんだよ」



 ビアンカ殿下はこの状況で出来る事をやると、既に幾つかの依頼を手に持っていた。

 マルクさんは早速依頼をビアンカ殿下より受け取り、受付に向かっている。流石執事だ。流れる様に処理をしている。

 ミケは単純に薬草取りが楽しみな様だが。



「リンさん、ガルフさん。街道沿いへの移動はどうしますか?」

「王都に向かう街道は歩きで大丈夫ですが、ブルーノ侯爵領とランドルフ伯爵領へは馬車があった方が良いです」

「リン様の言う通りですね。皆様が使用しております馬車はもう少しで修理が終わるそうです。それまでには王都へ向かう街道の調査が終わるはずでしょう」



 そういえば馬車の修理もあったなあ。行動範囲が広がる分、馬車は必要だ。

 先ずは徒歩で行動出来る分からだな。



「リン様、皆様。手続きが完了しました」

「有難うございますマルクさん。では皆さん行きましょう」

「おー! オリガお姉ちゃん、マリリお姉ちゃん。薬草取り楽しみだね!」



 マルクさんが依頼の手続きが完了したと報告したので、皆で移動を開始する。

 ミケはオリガさんとマリリさんと手を繋いで、色々話している。

 ちょうど良い機会だから、ガルフさんとマルクさんと話をしてみよう。



「ガルフさん、マルクさん。戦闘スキルとか色々教えて貰っても良いですか?あ、話せない事があったら無理しなくて良いですよ」

「いえいえ、その位なら大丈夫です。私は前衛のタンクタイプです。オリガと同じタイプです。魔法は強化型で火と土ですね」

「私は後衛の魔法使いで、水と土と闇です。私もマリリとほぼ同じタイプです。また、短刀や投げナイフも可能です」



 成程、ガルフさんは装備の通り戦士型か。しかもタンクタイプはオリガさんと一緒で貴重な存在だ。

 何せうちの前衛は戦士型(というか突撃型?)が多いからなあ。

 マルクさんは執事服でわからなかったが、魔法使いと投げナイフも出来るとなると、後衛として魔法と物理の両方可能なのはありがたい。



「ほほ、早速戦闘陣形の確認とは関心じゃな。妾は別の質問をするかのう」

「ビアンカ殿下、何を質問されるのですか?」



 ビアンカ殿下が横に来てガルフさんとマルクさんに質問しようとしている。そこにリンさんも混じってきた。

 一体何の話をするのだろうか。



「ガルフとマルクの婚約者はオリガとマリリじゃ。普段の二人はどんな感じじゃ?」

「オリガですか? うーん、普段も剣の事やリン様の事で頭が一杯ですね。あ、ああ見えて可愛い物が好きなんですよ」

「マリリは既にメイドとしても仕事をこなせますね。動物好きなのですがネーミングセンスが悪いと言うか、昔お屋敷で飼っていた犬にタマと名付けていました」



 成程、オリガさんは可愛い物好きか。

 従魔のサファイヤを可愛がっているし、今もホワイトを腕に抱いて頭を撫でている。

 そしてマリリさん。タマは猫の名前じゃないですか?

 流石スライムにタコヤキと名付けるだけあるな。フリーダムだ。



「お二人ともに小さい頃から一緒なので、ある意味家族みたいなんです。ガルフさんもマルクさんもラルフお兄様とは違ったお兄様って感じです」

「へえ、そういう関係は良いですね」

「羨ましいのう。妾はお兄様もお姉様も歳が離れているので、一方的に可愛がられるだけじゃ」



 そっか、ガルフさんもマルクさんもリンさんにとっては幼馴染みたいなものなんだ。それで仲良いのもあるんだな。

 ビアンカ殿下は……うん、アルス王子を見ればわかる。小さい妹が可愛くて仕方ない感じだ。



 そうこうしているうちに街道沿いの森に到着。

 ここからは薬草を取りつつ、魔物の調査も開始だ。

 と、ここでガルフさんから薬草採取について質問があった



「ビアンカ殿下、薬草はいつもどの様に採取されておりますか?」

「妾達にはシルクスパイダーがおる。それにフォレストラットも。見てみるがよい」

「……成程、あの様にしているんですね」



 ビアンカ殿下が答え、指差した先を見るとガルフさんは納得した。

 そこには従魔と一緒に薬草採取に励むミケとリンさんとマリリさんにルキアさん。

 既にそこそこの量を取ったらしく、カゴに薬草が溜まり始めていた。

 周囲をオリガさんとハミングバードのヤキトリとサファイヤ。

 時々出没するヘビみたいな魔物を討伐している。



「では妾も薬草取りをするかのう。サトーはどうする?」

「今日はシルもいないので、周囲の警戒を行います」

「では我々も警戒にあたります」



 ビアンカ殿下も薬草採取に加わる。

 俺とガルフさんとマルクさんはオリガさんと周囲の警戒に合流。

 たまに出てくる魔物を討伐するが、ヘビ系にキラーマンティスなどの虫系にたまにゴブリンが出るくらい。ウルフ系は離れたところからこちらを警戒しているが、特に襲ってくる気配もないので放置。むやみに生態系を崩す必要もないだろう。

 バルガスの森に比較して明らかに魔物のレベルは上がっているが、そこまでの難易度でもない。

 これでゴブリンやオークが群れでいたり、大熊系の魔物が複数いたら明らかに生態系がおかしくなっているのだろうが、今日の様子では王都に向かう街道沿いは大丈夫の様だ。

 

 周囲を警戒しつつ、場所を何箇所か移動して薬草採取を行う。今回は魔物の調査もあるので、ある程度場所を移動する事も大事だ。



「お兄ちゃん、次のカゴちょうだい」

「あ、サトーさん。私にも頂けますか」

「はいはい、お待ちくださいな」



 どんどん薬草が溜まっていくので、満杯になったカゴを受け取りつつ新しいカゴを手渡ししていく。

 時々、周囲の警戒のついでにヤキトリやサファイアも木の実を取ってくる。

 たまにタラちゃんとかホワイトが薬草を食べているが、全体の量からするとわずかなので全く影響はない。



「この短時間でこれだけの量を収穫出来るとは。やはり従魔との連携は凄いですね」

「リンお嬢様やマリリから話は聞いておりましたが、改めて見ますと驚く物があります」



 次々にカゴ一杯になる薬草の収穫量を見て、ガルフさんとマルクさんは驚いている。

 まあ、ギルドの職員も驚くくらいだから、普通の人はもっと驚くよね。

 でもそろそろ空いているカゴが無くなりそうだから、今日はもうお終いだな。



「ビアンカ殿下、リンさん。カゴが無くなりそうなので、そろそろ終わりにしませんか?」

「おお、もうそんなに薬草を取ったのか。少し早いが今日はこの辺にしておくかのう」

「そうですね。後でリーフさんのお土産を買う際に、追加でカゴも購入しておきましょう」



 周囲の探索をしていたオリガさん、ガルフさん、マルクさんにも声をかけ、討伐した魔物を回収していく。

 と、そこにミケがタラちゃんを連れて声をかけてきた。



「お兄ちゃん、余りのカゴある?」

「あるけど、どうした?」

「タラちゃんが進化しそうなんだって。多分ポチもフランソワもだって」



 進化というキーワードを聞いてみんなびっくり。

 取り急ぎタラちゃんをカゴの中に入れると、糸で繭を作る様に自分を包み始めた。

 成程、タラちゃんは繭みたいになるからカゴが欲しかったんだ。

 ポチとフランソワもカゴに入ると、タラちゃんの様に糸で繭を作り始めた。



「成程、安全に脱皮するために繭を作るのか。妾のフランソワがどう進化するか楽しみじゃ」

「そうですわね。ポチがどの様に進化してもポチに変わりはないですし」

「タラちゃんカッコよくなるかな?」



 ビアンカ殿下、リンさん、ミケはそれぞれのシルクスパイダーがどう進化するか楽しみで仕方ない様子だ。

 

「よし、収納も終わったのでギルドへ向かいましょう。ミケ、カゴは絶対に落とすなよ」

「はーい」



 今日の成果の収納が終わったのでギルドに向かうが、さっきから浮かれ気分のミケが少し危うい。念の為に注意したけど大丈夫かな?



「ミケ様は私も見ておくので大丈夫ですよ」

「そうそう、私も進化は楽しみだし」



 ルキアさん、マリリさんがミケを見てくれそうなのでお願いする。

 マリリさんは進化後の姿に興味津々の様だが。



 ギルドについたので今日の分の納品を行う。ついでに受付のお姉さんに噂の集計を聞いてみたけど、まだまだ時間がかかる様だ。

 ギルドを出て市場で追加のカゴとお土産を購入。

 こうして急いでいるのは、ミケが急かしているからだ。



「お兄ちゃん早く。早くしないとタラちゃん進化しちゃうよ」

「分かったから、手を引っ張らなくて大丈夫だよ」



 どうもミケは早くしないとタラちゃんが進化しちゃうと思っているらしい。

 後ろで皆苦笑している。



「お帰りー。あれ? タラちゃんは?」

「タラちゃん進化するの!」

「えー、サトー本当?」

「本当だよ。ミケ先ずは屋敷の中に入ろう」



 お屋敷に入るとリーフが玄関にいた。

 いつもいるタラちゃんの姿が見えないからミケに確認したのだが、ミケは興奮していてそれどこじゃなさそう。



「リーフ、シルはどこにいる?」

「確か応接室でテリーとラルフと何か話していたような……」

「じゃあ、そこに行こう!」



 ミケはシルにも一緒に進化を見てもらいたいのが、俺の手を引っ張っている。

 だが、ミケよ。お前は応接室がわかるのか?



「皆様、こちらになります」



 見かねてマルクさんが先頭に立って案内してくれた。

 その後を先陣を切ってついていくのがミケ。



「御領主様、お嬢様がご帰宅されました」

「そうか、入ってくれ」



 応接室に入ると、シルとテリー様とラルフ様の他にエーファ様とサーシャさんもいた。

 サーシャさんはメイド姿でみんなにお茶を配っていた。

 テリー様に促されて、みんなソファーに座る。

 あ、マリリさんはサーシャさんのお手伝いで、オリガさんとガルフさんにマルクさんは立っているけど。



「お父様。本日の依頼は完了しました。今日は王都の街道沿いに行きましたが、特に変わった事はありませんでした」

「普通の森といった感じじゃのう。多少魔物の数は多いが、特になんて事はない。普通の冒険者で対応出来るレベルじゃのう」

「うむ。今日だけでは判断はつかんが、王都に向かう街道はそこまで危険ではない様だな」

「では、ブルーノ侯爵領とランドルフ伯爵領への街道が鍵になりそうですね」



 リンさんとビアンカ殿下がテリー様とラルフ様に今日の報告をしているが、俺からの補足は特になさそうだ。

 まあ、補足をするほどのイベントもなかったし。



「明日明後日は当初の予定通りに王都への街道沿いを探索します。その後にブルーノ侯爵領とランドルフ伯爵領への探索を行う予定です」

「ビアンカ殿下とリンには負担となってしまう。我々も巡回を強化出来るまで落ち着いてきたので、我々も調査を強化しよう」

「ありがとうございます。お父様」



 俺達は明日以降も予定の変更はないが、騎士の方は余裕が出てきたので巡回が強化されるという。これは闇ギルドに睨みを効かせる面でもありがたい。



「ところでビアンカ殿下やリンが連れているシルクスパイダーが見当たらないが、何かあったのか?」

「お父様。どうも進化をするというので、今ミケちゃんが持っているカゴの中に入っております」

「何、進化するのか。魔物の進化する瞬間は中々見ることは出来ないぞ」



 と、ここでテリー様がシルクスパイダーが見当たらないと声をかけてきた。

 娘の従魔に何かあったのかと心配したがそうではない事にほっとしつつ、珍しい進化の瞬間に興味津々だ。



「あ、繭が動き始めた。もうそろそろかな?」



 と、ここでミケから繭に動きが見られたと俺に知らせてきた。

 テーブルの上にタオルを敷いて繭を乗せると、確かに繭がカタカタと動き始めている。

 その内に繭に穴が開き始め、中から何か出てきた。

 奥様方も含めてみんな固唾を飲んで見守っている。

 段々と穴が大きくなり、ついに中からタラちゃんが出てきた。

 続いてポチとフランソワも繭から出てきた。



「うわー!」

「うむ、これにはびっくりじゃ」

「私も初めて見ましたわ。でも可愛いです」



 みんな進化した姿にびっくりだけど、従魔の主人達は特に驚いていた。



「うむ、アルケニーの幼生体だぞ。シルクスパイダーから別種に進化したんだぞ」

「これがあの厄災クラスのアラクネの進化前の姿か」

「これがリンの従魔とは、将来はかなりの過剰戦力になりそうだ」



 タラちゃん達はシルクスパイダーからアルケニーの幼生体に進化した。

 大きさは若干大きくなったが、それでも片手に乗るくらいのサイズだ。

 何より大きく変わったのが、人間の上半身がクモから生えていることだ。

 どう見ても三匹? 三体? 共に女の子みたい。

 それぞれ肌は白く目は赤いけど、髪型に特徴がある。

 タラちゃんは肩くらいの長さで、毛先だけ少しウェーブしている銀髪だ。

 ポチはショートボブの癖があるふわふわの茶髪だ。

 フランソワは金髪ストレートのおかっぱ。

 どうも髪の色は、それぞれの魔法属性の様だな。

 三体ともそれぞれ体を軽く動かすと、主人の方にてけてけと歩いて行った。



「サトーお兄ちゃん、ミケお姉ちゃん。タラは無事進化したよ!」

「リン様。これからもよろしくお願いしますわ」

「マスター、今後ともよろしくお願いします」

「おー、タラちゃんがおしゃべりしている!」



 アルケニーに進化したおかげか、三体共に会話が出来る様だ。

 主人に近い性格なのか、タラちゃんは元気いっぱい、ポチはなんだかメイド風でフランソワは執事風だ。

 ミケはタラちゃんとおしゃべり出来るのが嬉しいのか、色々話をしている。

 ビアンカ殿下もリンさんも、それぞれ嬉しそうに話をしている。



「奥様、いくら小さな魔物とはいえ女の子が裸ではいけませんよね?」

「勿論です。あの子達に似合う可愛い服を用意しませんと」

「タラちゃんはシスター服とか似合いそうですわね」

「ええ、ポチにはメイド服が似合いそうですわ」

「フランソワにはあえて執事服はどうでしょうか?」

「良いわね、男装執事。ああ、イメージがどんどん湧いてくるわ」



 そして、可愛い物好きはオリガさんだけでなくここにもいた。

 エーファ様とサーシャさんがきらりと目を光らせて、タラちゃん達に着せる服装について話をしている。しかも凄い熱の入れようだ。



「サトー殿、その、妻達は服飾が好きでのう。リンの時もその上の姉の時も色々作ったのだ」

「ああ、確かにそうですね。リンの小さい時を思い出します」



 テリー様曰く、エーファ様とサーシャさんは可愛いの好きで服飾大好きらしくこうなると止まらないらしい。

 ラルフさんもリンさんの小さい頃の様子を思い出していた。



「サーシャさん。タラちゃんは怪盗にもなるんだよ」

「ミケちゃん、良い助言です」

「アルケニーで女スパイはピッタリだわ。ああ、作りたい服が一杯ありすぎるわ……」

「ミケちゃんの服も今作っているの。楽しみにしていてね」

「わーい!」



 エーファさんとサーシャの服飾に対する意欲が止まらない。

 そして実はミケの分の服も作っているという。



「最近私も専門の服飾店の物を着る機会が殆どでしたので、お母様達の服飾に対する意欲が止められないですわ」

「成程、最近服を作れなかった反動がここにきているのですね」



 リンさんも母親の姿に唖然としているが、女性は幾つになっても可愛い物好きだからしょうがないのかな。

 いつの間にかタラちゃん達の採寸を開始しているエーファさんとサーシャさんは、笑顔がとっても素敵だった。



「そういえばサトー、お土産はー?」

「我もお腹が空いたのだぞ」



 リーフとシルが暇になったのでお土産を要求してきた。

 あなた達は相変わらずマイペースですね。