ギルドを出ると既に空は夕焼け色だった。

 帰り路を急ぐ多くの人で、街は賑わっていた。

 所々、冒険者向けの食堂から賑やかな声が聞こえてくる。

 ちなみにギルドマスターとの話が長かったのか、スラタロウはミケの腕の中、タコヤキもマリリさんの腕の中で、シルクスパイダー達もシルにくっついて、ホワイトもミケの頭の上で眠りこけている。

 

 リーフはというと……



「サトー、あそこのお店で売っている果物が美味しそー」



 と言う事で、俺の肩にとまって露天で売っていたイチゴをもぐもぐ食べている。



「サトーよ、明日以降はどうするのじゃ?」

「明日は朝は難民キャンプに行きますが、もう炊き出しだけで良いと思います。その後は薬草採取をメインに、魔物の調査と討伐を行う予定です。リンさん、この辺で薬草が取れる森はありますか?」

「街道沿いの森はどこでも大丈夫です。王都に向かう街道、ブルーノ侯爵領に向かう街道、ランドルフ伯爵領に向かう街道、バスガス公爵領に向かう街道と、四方に向かう街道があります。先ずは王都に向かう街道が良いと思いますわ」

「うむ、現時点ではブルーノ侯爵領、ランドルフ伯爵領に向かう街道はリスクがある。なら最初は確実な方から行う方が良いじゃろう」

「となると、最初は王都に向かう街道ですね。ルキアさんにミケ、オリガさんにマリリさんもそれで良いですか?」

「はい、問題ないですよ」

「大丈夫!」

「サトー様に従います」

「私も大丈夫です」



 先ずは明日の仮予定として、朝は難民キャンプでその後は薬草取りと魔物調査に退治。最初は王都に向かう街道沿いにある森に決定となった

 ビアンカ殿下の言う通り、この闇ギルド関係の本命である、ブルーノ侯爵領やランドルフ伯爵領に向かう街道はリスクがある。もう少し現地の情報を集めてからになりそうだ。

 皆も特に異論がないので、先ずはこの方向で行く事に。

 後は念の為の事を考えて、出来るか聞いてみよう。



「ルキアさん、オリガさん。何か異常を見つけた時にハミングバードをメッセンジャーとして飛ばす事は出来そうですか?」

「うーん、どうなんでしょうか? ヤキトリ、お手紙を届けるのは出来そう?」

「もし出来たら素晴らしいですね。 サファイア、出来るかな?」



 ハミングバードをメッセンジャーとして使う事が出来たら非常時は連絡が出来る、って感じで軽く思ったので、ルキアさんとオリガさんがそれぞれのハミングバードに聞いてみた。



「「ピィ!」」

「おお、任せろって言っているよ!」

「すげー。軽い気持ちで考えたけど、本当に出来ちゃうんだ……」



 ミケが通訳してくれたが、ヤキトリとサファイヤは任せろと鳴き羽を上げている。

 ルキアさんとオリガさんも、これにはびっくりしている。

 緊急時の連絡として使わない事を祈りつつ、こういう手段があるのは助かる。



「主人、朝の特訓もあるのだぞ」



 シルよ、今あえて頭の片隅に置いておいたんだ。思い出させないでくれ……



「リンお嬢様、お帰りなさいませ」

「マルクさん、ただいま戻りました。お父様かお兄様はおりますか?」

「テリー様が執務室においでです。ご案内致します」

「分かりましたわ。ビアンカ殿下、サトーさん、同席いただけますか?」

「俺は大丈夫です」

「妾も問題ないのじゃ」



 お屋敷に到着すると、マルクさんが出迎えてくれた。

 リンさんは今日の報告をするために、テリー様かラルフ様がいるかを尋ねた所テリー様がいると言うことなので、このままテリー様の執務室にビアンカ殿下と共に向かう。



「お嬢様、おかえりなさいませ。お風呂の準備が出来ております」

「お母様、有難うございます。ルキアお姉様、オリガさん、マリリさん、お先にどうぞ入ってください。私はいつ終わるか分かりませんので」

「ミケはお兄ちゃんと一緒に入る!」

「では、今日こそサトー様のお背中をお流ししますね」

「サーシャさん、流石にご勘弁を。ミケ、ルキアさんと一緒にお風呂に入っちゃいなさい!」

「えー」



 執務室に向かう途中で、安定のメイド服を着ているサーシャさんがお風呂が出来たと連絡してくれたので、リンさんとビアンカ殿下と俺以外でお風呂に入るように進めたら、ミケが駄々をこねている。

 昨日も一緒じゃなかったけど、サーシャさん付きは流石に勘弁。

 しかし、ここで余計な事を言うおませな八歳児が一人。



「ほほう。それでは会談後に妾とリンでサトーと一緒に風呂に入るとするかのう」

「え?」

「えー、ビアンカお姉ちゃんとリンお姉ちゃんずるい! ミケも一緒に入る!」

「では、私も皆様のお世話の為に一緒に入らないといけませんね」



 ニヤリと笑いながらとんでもない爆弾をぶち込むビアンカ殿下。

 リンさんはびっくりして俺の顔をチラリとみた後、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

 ミケはビアンカ殿下とリンさんが俺と一緒に入ると思ってさらに駄々をこねるし、サーシャさんはそれに便乗して一緒についてこようとしている。

 ルキアさんとオリガさんは信じられないという目で俺を見るし、マリリさんはニヤニヤしながら俺を見ている。

 俺以外で唯一の男性であるマルクさんは、なんとも言えない表情をしていた。



「今日は内風呂に入るので、誰とも入りませんよ」

「あら、それでは疲れが取れませんよ。今朝の訓練はハードみたいでしたので」

「そうですね。でしたら、みなさんと時間をずらして入るようにします」

「あら、残念。リンの親としては別に構わないのですが」

「嫁入り前の貴族の娘と一緒に、独身の男性がお風呂に入る事を勧める親がどこにいますか! ほら、もう執務室の前ですよ」



 なおもサーシャさんが粘るので、ここは適当に切り上げないと泥沼にハマりそうだ。

 実際に執務室前についたので、強引に会話を切り上げる。



「御領主様、リン様がお戻りになられました」

「おお、そうか。入ってくれ」



 マルクさんが中にいるテリー様にコンタクトをとり、執務室の中に入る。

 リンさん、ビアンカ殿下に加えて、ちゃっかりサーシャさんも一緒に入ってきた。

 まあ、お茶を入れてくれたりと色々動いてくれるのでありがたくもある。



「何やら廊下が賑やかだったが……おや? リンよ顔が赤いがどうした?」

「お父様、何でもありませんわ」

「そうか、なら良いが」



 リンさんの顔がまだ若干赤い事に気がついたテリー様だったが、リンさんが誤魔化したのでそれ以上は追求はしなかった。



「お父様。難民の方が少し落ち着きましたので、明日からは炊き出し後に冒険者として依頼をこなしたいと思っております」

「うむ。難民の件はリンの頑張りもそうだが、ビアンカ殿下にサトー殿のお力添えも非常に大きい。この領を預かるものとしてお礼を言わせてくれ」

「妾としては王家として当然の事をしたまでじゃ。礼には及ばぬのじゃ」

「そうですね。俺も冒険者として依頼を受けてますし」

「いや、暫く見ておりましたが、特にサトー殿の働きが大きい。ただ有能な冒険者や魔法使いならいくらでもいる。しかしながらうまく指揮してこそ力を発揮するのだ。その辺の能力がサトー殿には備わっておる」

「恐縮です」



 なんか俺の評価が色んな所で高いので、少々恥ずかしい。

 だけど難民の問題は俺は口を出していただけで、直接の戦力にはなれてない。

 俺としては、個人の戦力をもう少し上げたい。



「さてバスク卿よ。妾達は暫く依頼をこなしながらこの度の件の情報を収集する。何か事態が動く事があれば、協力を依頼したいのじゃ」

「ビアンカ殿下、勿論でございます。我が領の事ですので、逆に申し訳ないです」

「妾はこの度の流通の件は裏があると考えておる。じゃが捜査権はバスク卿にあるのでな」



 いくら俺達が証拠を集めたとしても、バスク領の事なので捜査権はテリー様にある。

 バルガス領の時は、直接近衛部隊の調査が入っただけであれは特殊例だろう。

 ここでテリー様から我々に依頼があった。



「分かりました。ビアンカ殿下とサトー殿、実は私からも依頼がございます」

「ほう、何かのう」

「今朝行っておりました特訓を、我が騎士や兵に学ばせたいのです。いかがでしょうか」

「ふむ、全てを見せるわけにはいかぬが一部なら良いじゃろう。のう、サトーよ」

「ええ、特に我々前衛陣が魔法を避けるのはいい訓練かと。朝、シルに相談してみましょう」

「うむ、それで良いじゃろう。と言うことでバスク卿よ、我々は大丈夫じゃ」

「有難うございます。明日兵を準備させます」



 うーん、魔導具関連は流石に公開出来ないが、訓練内容自体は問題ないだろう。

 動きを制限するのにはアンクルウエイトとかでも代用可能。

 この辺はみんなにも相談しよう。



 テリー様との話し合いはこれで完了。

 今日は訓練もあったので早めに休むようにする。

 お風呂は時間をずらして一人でのんびりと入った。



「うー、お兄ちゃん一緒に入ってくれなかった」

「また今度な」



 ミケは俺と一緒にお風呂に入れなかった事にまだ不満のようだが……