「ふむ、こんなもんじゃろう。今日は奴らも消耗しておる。妾達も明日に向けて備えんとな」
「そうですわね、流石に今日はゆっくりしたいものですわ」
「夕食を食べて早く寝たいですね」

 アルス王子とのやりとりが終わったので、一息つけそうだ。
 女性の部屋に長くいるのは失礼なので、俺としては早めに出たい。

「マリリさん、こちらは終わりましたよ。監視ありがとうございましたわ」
「思ったより早かったね。もしかしてサトーさんは、そうろ……」
「マリリさん、成人前の女性が何言っているんですか!」
「サトーさん、マリリさんは何を言ったんですか?」
「リンさん、世の中には知らなくて良いことが沢山あるんですよ」
「はあ……」

 リンさんは外で監視をしていたマリリさんに終わった事を報告していたが、マリリさんはとんでもない事を言ってきた。
 リンさんは理解出来ていないが、それでいい。それよりも何故マリリさんは知っているのか。
 マリリさんもある意味要注意人物だな。

「リン様、終わりましたか?」
「ええ、無事終わりましたわ。後ほど皆さんにもご報告しますね」
「かしこまりました、特に周辺は誰もいませんでした」
「分かりましたわ。監視ありがとうございます」

 リンさんがドアの外で監視していたオリガさんにも、終わった事を伝えていた。
 うん、オリガさんは余計なことを何も聞いてこない。護衛や監視としてはこちらが正解でしょう。
 まあ、マリリさんも会議の中身は聞いてこなかったから、その辺の分別はある……と思いたい。

「お嬢様、お風呂の準備が完了しました」
「ありがとう。サトーさん、お風呂の準備が出来ましたのでお先にどうぞ」
「ありがとうございます、リンさん。お言葉に甘えさせていただきます」
「何も無い我が家ですが、このお風呂は自慢なんです。お父様がお風呂好きで」
「へー、そうなんですね。俺もお風呂は好きなので楽しみです」

 テリー様の執務室にもいたメイドさんから、お風呂が出来たと報告があったので、お風呂を先に頂く事にした。
 早く体についたこの臭いからおさらばしたい。
 リンさんも自慢するお風呂という事なので、とっても楽しみだ。

「ふむ、妾も楽しみじゃ。のうリンよ、サトーと一緒に入らないか?」
「ビアンカ殿下! 何をおっしゃって……」

 俺の横では、ビアンカ殿下がニヤリと笑いながらリンさんに爆弾を投入している。
 ビアンカ殿下はたまにおじさん思考が入るよなあ……
 当然の如く、リンさんは顔を真っ赤にして俯いている。 

「おお! 確かにこれ凄いお風呂だ」

 メイドさんの案内でお風呂に到着し服を脱いで湯船に向かうと、そこには露天風呂みたいな光景が広がっていた。
 ちなみにメイドさんが「お背中をお流しします」と言ってきたので、丁重にお断りした。
 勿体無いという事は決して無いはずだ。

「ふー、これは気持ちいい。リラックスできる」

 体を洗ってから湯船に浸かる。
 大きい湯船を独り占めは、とっても気持ちい。
 湯船は軽く泳げる位大きいので、大人数でも問題ないさそうだ。
 熱すぎずぬるすぎず、ちょうどいい温度で疲れも取れそうだ。

「さて、今後の事はどうしようかな……」

 こんなゆっくり出来そうな時に今後の事を考えるなんて、本当に日本人の悪い癖だな。
 でも長年染み付いた癖は、そう簡単には抜けないだろう。

「とりあえずは状況の整理だな。難民の件もあるし闇ギルドの件もある。他の貴族が裏を引いている可能性もありそうだ」

 色々な事が絡み合っているから、一度きちんと整理した方がいいよな。
 出来ればアルス王子も一緒の時がベストだけど、中々そう思い通りにはならないな。
 そうだ、整理といえば……

「魔道具屋のお婆さんがミケに渡したものも整理しないと。物によっては危険な物もありそうだ」

 今後の冒険の役に立てばいいものから、敵に渡ると危ないから封印指定になる物もあるだろう。
 あの魔力測定の魔道具を作ったお婆さんだ、魔法剣の柄以外にも何かとんでもないものが出てきそうだ。
 今夜みんなを集めて確認しよう。

「さて、そろそろお風呂から出ようかな」

 結構考えていたのでのぼせない様にそろそろ出ようとしたら、服を脱ぐ所がドタバタとしてきた。
 誰か入ってくるのかな?
 さっさとお風呂から出ないで、そう悠長に考えていたのが大失敗だった。

「お兄ちゃん、一緒に入ろう!」

 難民キャンプの対応が終わったのか、ミケが湯船に突入してきた。
 ミケはいい。未だ子どもだし妹みたいな感じだ。
 現にバルガスのお屋敷では一緒に入っている。

「ふむ、サトーよ、もう上がりか?」

 何故にビアンカ殿下が入ってくるの!
 しかも後ろには俺の背中を流すと言ったメイドさんまでいるよ。
 あ、今メイドさんが俺を見てニヤリとしたよ。
 よく見るとビアンカ殿下までニヤリとしているよ。

「あの……、何故にビアンカ殿下がここに?」
「ビアンカお姉ちゃんは、ミケと一緒にお風呂に入りにきたんだよ」
「ちょうどミケが帰ってきたのでな、一緒にお風呂にというわけじゃ」
「そうではなくて、俺が未だお風呂に入っているのに」
「ふむ、妾は王城の時は父上や兄上達とも入る事がある、何も問題はないのじゃ」
「でなくて、未婚の貴族の女子が男性と一緒にお風呂はダメでしょうが」
「二人っきりならともかく、ミケも一緒じゃ。それともサトーは妾に欲情するのか」
「子どもに欲情はしません」
「なら問題はないのじゃ」

 くそ、ああいえばこういう。悪知恵が働くお子様だ。
 リンさんと俺が入るシュチュエーションがなくなったので、今度はミケをひきずりこみやがった。
 子ども同士なら問題ないし、王家の一員だからメイドさんがいても問題ないと思ったのだろう。
 ここはさっさと退散するのが良さそうだ。

「どっちにしても上がる所でしたので、ビアンカ殿下もミケもゆっくり入ってくださいね」
「えー、お兄ちゃん行っちゃうの?」
「ほれ、ミケもこう言っておる。もう少し付き合わないか」
「流石にこれ以上入ったらのぼせそうですので、これで失礼します」
「ふむ、残念じゃったな。では次の機会を狙うとしよう」

 ビアンカ殿下……、せめてお風呂では平穏にさせてください。
 ただでさえ最近大変な事が連続で続いているので。

「あら、サトーさん。我が家のお風呂は如何でした? 何やらお疲れのお顔をしていますが……」
「リンさん、お風呂はとても楽しめました。ありがとうございます。お風呂出る時に乱入者がおりましたので」
「あはは、ビアンカ殿下が何やら話していましたから……」

 お風呂出たところでリンさんに遭遇したが……
 くそう、ビアンカ殿下とあのメイドさんは共犯だったのか。
 きっとまたお風呂に突入してくるぞ。

「さて、ビアンカ殿下とミケちゃんが出てきたら夕食になります。今日はビアンカ殿下も来られていますし、皆様の歓迎を込めて精一杯のおもてなしをしますわ」
「ありがとうございます。バスク領が大変な中、申し訳無い気持ちもあります」
「今日の皆さんのお陰もありますから、ここは遠慮は不要ですわ」
「リンさん。ではありがたく頂きます」

 ビアンカ殿下の歓迎もあるので、今夜の夕食はおもてなしになるようだ。
 領内の食糧事情が大変な時にありがたいものだ。

「お嬢様、お客様を客室へ案内してもよろしいでしょうか」
「ええ、お願いね」
「かしこまりました。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」

 今までついてくれたメイドさんではなく、若いメイドさんの案内となるようだ。
 メイドさんについて行って、客室に案内される。

「こちらになります、お食事のご用意が出来ましたらお呼びいたします」
「ありがとうございます」

 メイドさんに案内されて客室に案内された。
 客室の中には既にシル達が床の上でのんびりしていた。

「主人、お帰りだぞ。ミケは一緒じゃなかったのか?」
「お帰りシル。ミケと一緒にビアンカ殿下も乱入してきたから上がってきたよ」
「ははは、それは災難だったぞ。それで、アルスとはどうだったのか?」
「ああ、連絡が取れた。実はバルガスのギルドに収容されていた関係者も殺害されていた」
「ふむ、情報漏洩をなくそうとしたのか。しかし、逆に怪しまれたということだぞ」
「ああ、ビルゴは指名手配となった。ギルドの方も抹消となったよ」

 シルと情報交換をするが、シルもギルドに収容されていた関係者の殺害は予想していたようだ。
 シルは続けてビルゴについての件を話してくれた。

「奴はバルガスの門の時も臭いがしなかったぞ。魔道具で臭いを消していたか、あるいは……」
「あるいは?」
「魔力を持っていないかだぞ」
「魔力を持っていない? どういうことだ、シル」
「我はその人の魔力を臭いで判断することができる。ビルゴは何も臭いがしなかったぞ」
「なんだろう……、そこまでして魔力を隠す意味はあるのかな?」
「流石にそれはわからないぞ。だが、他の二人は普通に魔力の臭いがした。だから余計に怪しいのだぞ」
「うーん、奴らの企みがわからない。なんだろうなあ……」

 魔力を隠蔽する、もしくは魔力を持たないという意味はなんだろう?
 この世界の生き物は、殆どは魔力を持っている。
 家畜である馬でさえ魔力を持っていたし、ビルゴの仲間は魔力を隠してもいなかった。
 本人だけ魔力を隠すメリットはないんじゃないかな。
 うーん、なんだろう。何かが気にかかる。

「まあ、あまり深く考えすぎても良くないぞ。ここはご飯を食べてスッキリするのだぞ」
「そうだね。ああ、夕食後にみんなでミケが貰った魔道具を確認したいけどいいかな?」
「勿論だぞ。確認は早めにした方が良いぞ」
「じゃあ、食事の際にでもみんなに声をかけよう。場所はここでいいか?」
「うむ、問題はないのだぞ」

 ミケの貰った魔道具の件も大丈夫だ。この辺はシルにルキアさんやマリリさんの出番だろうな。
 一体何が出てくるのやら。
 せめて今夜安心して寝れる物であってほしい。

「お兄ちゃん、ご飯できたって!」
「こらミケ、いきなりドアは開けないの」
「ごめんなさい。でも、ご飯楽しみ」

 ちょうど話が終わった所で、ミケが勢いよく扉を開けて入ってきた。
 注意はしたが、ミケの頭の中は食事の事で一杯だ。直ぐに忘れるだろう。
 ミケに手を引かれながら食堂に向かっていく。
 ちなみにスラタロウとタラちゃんはまた寝ていた。
 どうも炊き出しの時にちゃっかり食べていた様で、お腹一杯だそうだ。
 あれ? そういえば……

「ミケ、リーフはどうした?」
「ルキアお姉ちゃんのお部屋に行っているよ。なんか今日の治療の件で相談があるんだって」

 あれ? 何か問題でも起きたのかな?
 治療の件は任せっきりになっちゃったので、後で聞いてみよう。

「サトー、やっときたー」
「リーフごめんごめん、お待たせしました皆さん。テリー様もラルフ様も申し訳ありません」
「いや、我々も着替えてきた所だ、気にすることは無い」
「そうですね、サトー殿は今日の功労者なのだから」
「そう言っていただき、恐縮です」

 食堂に着いたら、既に他の方は揃っていた。
 遅れた非礼を詫びつつ、席に座る。
 ……あの、なんで俺の席がリンさんの隣なのでしょうか。
 ふと周りを見ると、テリー様とビアンカ殿下がニヤリとしている。
 くそう、あなた達の差金ですか!
 そんな事はつゆ知らず、リンさんはこっちを見てニコニコしている。

「さて、食事の前に家族を紹介しよう、先ずは正妻のエーファだ」
「初めまして皆様、ラルフの母のエーファでございます。あと、ここにはおりませんが他領に嫁に行きました娘がおりますわ」

 テリーさんが食事の前に家族を紹介してくれる。
 奥さんはテリーさんの執務室にいたので、大体は覚えている。
 でもリンさんは妾腹って言っていたけど、誰なんだろう?
 そう思っていたら、執務室にいたり背中を流そうと言ってきたメイドさんが出ていた。
 まさか……

「そして、メイドの格好をしているが側室のサーシャだ。これでも貴族の出なんだがな」
「初めまして皆様、リンの母のサーシャでございます。現在はメイド長をしておりますわ」
「サーシャは小さい頃からメイドに憧れていたそうでな……、まあ助かっているから何も言わんけどな」

 あの厳つい見た目のテリー様が苦笑しているよ。
 そりゃメイドさんが貴族でリンさんのお母さんなんて思わない。
 ルキアさんの件はあくまで特殊例だと思いたい。
 ……あれ? リンさんのお母さんがメイドさんでびっくりしているの俺だけ?
 ミケやルキアさんも普通にしているぞ。
 え? 他はみんな知っていた?
 俺だけドッキリ仕掛けられたみたいだけど……
 周りを見ると、ビアンカ殿下がうつむいて笑いを堪えていた。
 お前かい犯人は!

 多少のトラブルもあったが、こちら側の紹介も終わり夕食が開始された。
 他の領と接していて色々なものが手に入るらしく、食卓は鮮やかだった。
 大きな湖もあるらしく、魚介類も取れていた。

「この魚は臭みもなく美味しいですね」
「ええ、我が領で取れる特産品ですわ」

 食事が美味しいというと、リンさんがニコニコしながら補足してくれる。
 出来るだけ無難な答えを返しておこう。
 それを温かい眼差しで見ているバスク家の皆様。
 あのー、恋人ではないので。
 ラルフさんもこちらの様子を見て、「ほう、あのリンがねぇ……」なんて言わないで下さい。
 あと、ビアンカ殿下にサーシャさん。こちらに向けるそれは笑顔ではなくニヤニヤですよ。
 実母がニヤニヤしていていいのですかい!
 なんだか食事の味が段々とわからなくなってきた。

「お兄ちゃん、このお魚美味しいね!」
「ああ、たんとお食べ」
「うん!」

 ビアンカ殿下にサーシャさん、ミケが見せるこの顔が笑顔なんです!

「サトーよ、疲れておるのう」
「ビアンカ殿下、分かっていて言っていますね」
「ほほ、なんの事かえ」

 場所は変わって俺が滞在する事になった客室。
 ビアンカ殿下にルキアさん、リンさんにオリガさんとマリリさんが集まった。
 ビアンカ殿下のニヤニヤから始まったけど、リンさんとミケ以外もニヤニヤしていた。
 オリガさんは苦笑って言った感じだ。
 当のリンさんは何がなんだか分かっていなく、同じくミケも分かっていないようだ。

「全く、皆さん疲れているのですから、さっさと始めてさっさと終わらせますよ」
「これだけの女性を相手にさっさと始めてさっさと終わらす。やはりサトーさんはそうろ……」
「だまらっしゃい、この駄メイド!」

 お屋敷内という事でメイド服姿のマリリさんが余計な事を言ってきた。
 思わず叫んでしまったよ。
 ルキアさんと……オリガさんも顔を真っ赤にしているぞ。

「主人、三文芝居は良いからさっさと始めるのだぞ」

 シルさん、あなたはどこ行っても通常運転ですね。

「はあ、もう疲れた……。ミケ、お婆さんから貰ったもの全てテーブルに出して」
「うん、お兄ちゃん」

 途方もない疲労感に襲われながらも、ミケにお婆さんに貰った物をテーブルの上に出し始めた。
 うわあ、ものすごい数が出てきたぞ。
 例の魔法剣の柄みたいなのに、指輪に腕輪にペンダントにネックレス。
 後は、これは俺宛の手紙みたいだぞ。

「ミケ、この手紙を読ませてもらうぞ」
「はーい」
「えーっと、何々? 『サトーさん、この前は依頼を受けて頂いてありがとうございます。サトーさんならルキアさんも信頼しているので大丈夫だと思い、この婆の色々作ったものをミケちゃんに託します。勝手なお願いで申し訳ないですが、どうぞよろしくお願いします。ここにあるものはオリジナルの魔道具ですが、一部は闇ギルドに流れてしまい複製されています。しかしオリジナルの魔道具は複製品に比べて高性能です。恐らくこの魔道具を奪いに闇ギルドは襲ってくると思いましたので、ミケちゃんに託す事にしました』」
「うむ、あのご老人は魔道具を奪いに闇ギルドが襲ってくるのを見越してミケに託したのじゃな」
「そうですね。複製品では出せない高出力品は、闇ギルドとしても是が非でも手に入れたいのでしょう」

 あのお婆さんはビルゴが顔を見せた段階で、ある程度こうなる事を予想していたのかもしれない。
 それで色々準備をして、ミケにこれを託したんだ。

「お兄ちゃん、魔道具の説明の手紙もあったよ」
「どれどれ。お、これは助かるな。シルも一緒に見てくれ」
「分かったぞ、主人」
「あ、私も見たいー」
「私も気になります」
「どんな魔道具なのか……。ワクワク、じゅるり」

 ミケが魔道具の説明の手紙を見せてくれたので、シルとリーフと一緒に確認する事になった。
 出来れば心休まる内容であってほしい。
 やはりルキアさんとマリリさんも魔道具には興味津々だが、マリリさんは色々なものが漏れ出ていますよ。

「さて、先ずは例の魔法剣の柄だ。よく見ると色々な種類があるぞ」
「うーんと、様々な剣の形にあわせて作ったんだってー」
「しかも、魔法の剣を生み出すだけでなく、実際の刃も付ける事が出来るとは」
「刃の材質にもよるが、これは前衛にとってはとんでもない武器だぞ」
「うーん、これはミスリルにオリハルコンやドラゴンの鱗とかが手に入ったら、無双の剣になる」

 おお、いきなりのぶっ壊れ性能だぞ。
 分析陣も絶賛の魔道具だ。
 柄だけでも凄いのに、材質を合わせた刃を合わせる事でとんでもない剣の出来上がりだ。
 使いこなすのは大変だけど、使いこなしたら強敵にも太刀打ち出来るかも。

「だが、刃の材質によっては半減する。今は主人の刀ぐらいだな」
「ビアンカ殿下の小太刀だったり、リンさんの両手剣やオリガさんの片手剣は?」
「材質がダメだぞ。これを換装する位なら材料集めて一から作った方が良いぞ」
「うーん、少しは期待しておったのじゃが残念だ」

 ビアンカ殿下がちょっと落ち込んでいる。
 よく見るとリンさんとオリガさんも残念がっている。
 なかなかそううまくはいかないもんだ。

「さて、次は指輪だね。大きさは全部一緒だな」
「魔力を蓄積出来る指輪だそうです。指輪のサイズも使用者にあわせて自由に変わるそうですね」
「魔力変換の効率が素晴らしいよー。私一人分の魔力を蓄えられそうー」
「魔法使い垂涎の品ですね。後方支援としても前衛としても役に立つ」
「主人、これは早速全員装備させるのだぞ。満タンになった指輪を複数作っておく必要があるぞ」

 次の指輪は蓄積型の様だ。使い様によっては一撃必殺の大規模な魔法が打てたり、戦闘時間が延ばせたりも出来る。
 確かにこれはシルのいう通り、直ぐに装備して魔力蓄積を開始した方が良さそうだ。
 しかし、段々とリーフとルキアさんとマリリさんの目が爛々としてきた。
 普段と違って、なんだかちょっと怖い。

「さてさて、次は腕輪か。何々? 魔力と体力制限の腕輪? なんじゃこりゃ?」
「うーん、これは訓練用のものだねー。魔力と体力が制限される事によって、身につけるだけで訓練が出来るんだー」
「なるほど、制御する事によって逆に訓練になるとは」
「長く付けるほど効果がありそう」
「うむ主人よ、これは一種の大○ーグ○ール養成ギブスだぞ」

 この魔道具は特殊タイプで、魔力体力がいっぺんに鍛えられるギブスだ。
 魔力などを制御する事によって鍛えられる魔道具という事で、ルキアさんもマリリさんも興味を惹かれるみたい。
 しかしシルよ、何故巨○の星を知っている。
 
「最後にペンダントか、護りのペンダントと」
「これもどちらかというと特殊タイプだねー。しかも前衛のタンク型専用だー」
「装備している盾を強化する事によって、様々な攻撃を防ぐ事が出来る。魔法使いだとちょっときびしいなあ」
「オリガ専用装備だ。後はミケが使えるかどうか……うーん残念」
「この装備は少し検証が必要だぞ」

 ペンダントもどうやら特殊タイプらしい。
 どうも効果が曖昧だから、シルが言う通り検証が必要だ。
 オリガさんだけでなくミケと俺も使えるのかな……
 魔法使い陣には使えそうにないので、ルキアさんとマリリさんがガッカリしている。

「まあ物凄い魔道具ばっかりじゃな。使い様によってはこのメンバーが一個師団に匹敵する力を持つ事になるぞ」
「しかしながらあの魔道士の力を考えると、この魔道具を装備しただけでは敵わない可能性があります」
「うむ、上手く使いこなさないといかんじゃろう」
「主人にビアンカそれに皆も、訓練案は考えているのだぞ。明日朝食前に裏庭に集合だぞ」
「おお、特訓してミケはスーパーミケになっちゃうよ!」

 魔道具を使いこなすためにも訓練は必要だし、それに自身の強化も必要だ。
 明日からのシルの訓練次第で、今後の闇ギルドへの対応も変わるだろう。
 ミケは訓練出来る事に喜んでいるみたいだ。
 今日はとりあえずここまでにして、後は明日からだな。

「あれー、サトーもう一つ指輪があるよー」

 と、ここでリーフがもう一つ指輪がある事に気がついた。
 これは何の指輪だろう?

「えーっと、夜の帝王の指輪だって。これをつければ副作用もなく貴方も絶倫に……。お兄ちゃん、絶倫ってなあに?」
「これは……、ミケには未だ早い話かな……」
「えー、なんでー?」
「あちゃー、これはミケちゃんには早い話だねー。あのお婆さんも凄いのを作ったのねー」

 最後にとんでもない爆弾が落ちていた。
 何だよその夜の帝王というネーミングは!
 ミケは何だか分かっていないがそれでいい。
 リーフはあちゃーって感じで苦笑いしている。
 リンさんとオリガさん、それにルキアさんは顔が真っ赤っかになってうつむいている。
 ビアンカ殿下とマリリさんは……、大爆笑して腹を抱えているぞ。

「ブハハハハ! 確かに物凄い魔道具じゃ。その指輪はサトー専用じゃな、間違っても悪用せん様に。アハハハハ!」
「イーヒヒヒヒ、お腹痛い! 確かにこれはサトーさん以外使えない魔道具です。フハハハハ!」
「もうあのお婆さんは、最後の最後にとんでもない物を持ってきたもんだよ。はい解散! もう今日は解散です」

 他の人を客室から追い出して、やっと一息だ。
 馬の暴走に始まり、魔道士の襲撃もあって色々大変な一日だったのに、最後の最後にとんでもない爆弾を投入されたよ。
 本当に明日以降が平穏であってほしいよ。