「わーい! たかーい! はやーい!」
「ミケよ、あまり馬車から体を乗り出すのではないぞ」
「はーい! ビアンカお姉ちゃん」
バルガスの街を出発して一時間。
馬車は順調に進んで行きます。
ミケは馬車からの風景が楽しいのか、身を乗り出してはビアンカ殿下に注意されています。
ビアンカ殿下は面倒見がいいなあ。こういう所が孤児院の子どもに好かれた訳かもしれない。
ちなみにシルを除いた魔物達は馬車の揺れが心地よいのか、シルに寄りかかって寝ています。
「さて、サトーよ。お主は考え事か? さっきからうんうん言っておるぞ」
「そうですわね、サトー様。何か思うことがあったら話してください」
「サトーさん、私たちも相談に乗りますわよ」
ビアンカ殿下、ルキアさん、リンさんが、さっきから独り言を言っている俺を心配してくれたようだ。
いかんいかん、みんなを心配させてしまったようだ。
ここはみんなの意見も聞いてみよう。
「バルガスの街での出来事を色々考えていましたよ」
「色々とはなんじゃ? サトーよ」
「色々です。とにかく色々な事がタイミング良く起きているのが不思議かなと」
「確かに、襲撃とか色々な事のタイミングが良いですよね」
「特にギルドでの件はタイミングが良すぎますね」
「この難民騒ぎも明らかにおかしいのじゃ」
「それに、あの騎士の容疑者が急に暴れた際に飲んだ何かの薬。あれは闇ギルドの中でもあまり流通しないものじゃないかなと」
「うむ、あの様な事象は初めて聞く。もしかしたらまだ実験段階の物かもしれんぞ」
やっぱりみんなバルガスの街の件は異常と考えていたんだ。
次々と起こる事件のタイミング、そして対象が俺たちに関わる人に限定されている。
どう考えてもこれは……
「サトーよ、考えている事を当てようかのう。妾達が関わった人の中に闇ギルドの関係者がおる。しかもおそらく大物じゃ」
「……流石はビアンカ殿下。ご明察です」
「どうせ皆同じ事を考えるのじゃ。それにどうせサトーの事じゃ。既に何か罠でも仕掛けておるのじゃろ?」
「参りました。その通りです」
「細かくは聞かんが、バスクに着いたら教えてくれるとありがたいのう」
「はい、街に着いたらみんなに話します」
うお、流石はビアンカ殿下。そこまで見抜かれているとは。
でも俺からの説明が省けて良かった。
ルキアさんもリンさんも俺を見てうなづいている。
あまり人を罠にはめるのは気がひけるが、こればっかりは仕方ない。
正直俺も死にかけた事があるし。
「それよりも目の前の危険を考えるとするか。シルよ、周辺に何かおるか?」
「ビアンカよ、今の所は何もないぞ。ただ、森が少し騒がしいぞ。警戒をしておいた方が良いぞ」
「ふむ、そうか。引き続き頼むぞ」
「うむ、我に任せるのだぞ」
「ビアンカ殿下、そうですわね。闇のギルドは私たちがバスク領に着くことを防ぎたいはずですね」
「妾達を足止めするか、その間にバスク領で何かを起こすのか。いずれにせよ妾達がバスク領に向かっているというのは、闇ギルドも把握しておるじゃろう。なら、妾たちはそれを打ち砕くのみじゃ」
ビアンカ殿下が言ってくれて良かった。こうやって自主的に周囲を警戒してくれるのはありがたいね。
ふとシルを見ると小さく頷いていた。もう暫くは大丈夫だろう。
「ふふ、人間は色々考えて大変ねー。もっと気楽に旅を楽しめばいいのにねー」
「ああ、全くだ」
「別の依頼の時はのんびり出来るかなー?」
「のんびりしたいよ。こんな物騒な事も考えずにな」
思わずリーフと顔を合わせて苦笑した。
今は周りの景色を楽しむ余裕もないけど、のほほーんとした旅もしたいなあ。
空がいつの間にか曇ってきて……、ポツポツ降ってきた。
この馬車は幌が付いているので濡れることはないが、あまり良い状況ではないな。
「あ、雨だ。お兄ちゃん雨が降ってきたよ!」
「本当だね。ちょっと雨脚も強くなりそうだ」
「サトーよ、ちょうど良い状況ではないかい?」
「ビアンカ殿下、それは闇ギルドにとってでしょう」
「ククク、まあそういうことだ。オリガよ、慎重に進むのだぞ」
「はい、お任せください殿下」
それから一時間。
「うーん、雨が降り止まないですね」
「こればっかりは仕方がないのう」
「道もだいぶぬかるんできました」
「足元を取られそうですね」
だいぶ雨も降った為か、道もぬかるんできている。
この世界は道路が舗装されているわけではないので、一度雨が降ると路面の状況は悪くなる。
「主人、ここから少し先で魔物の反応が複数現れたぞ。後十分ほどで遭遇するぞ」
「シル、ありがとう。みんな戦闘準備だ」
「「「はい!」」」
「ほほ、これで少しは退屈も凌げるかもじゃ」
ここで測った様に魔物が襲撃体制の様だ。
全く足場が悪い時に襲撃とは、闇ギルドも意地が悪い事だ。
みんな事前に警戒していたからか、直ぐに戦闘体制に入る。
「スラタロウも、他のも起きるのだぞ。戦闘になるぞ」
シルも立ち上がって戦闘の準備をしている。
そしてシルに寄りかかっていたスラタロウ達が転げ落ちて目を覚ます。
周囲の状況から戦闘になるというのは理解したみたいだ。
あれ? 若干スラタロウとかの目が座っているような気が……
「「「ブモー!」」」
「あれはオークの群れですわ」
「しかも上位種のオークジェネラルまで」
遭遇した魔物はオークの集団だ。
しかも上位種までいるということは、難易度が上がる。
馬車を降りて、馬車を守る様に陣形をとる。
俺達とオークの群れがお互いに出方を伺って睨み合う中……
スタスタスタ……
あれ? さっきまでシルに寄りかかって寝ていたスラタロウ達が、俺達の前に来た。
しかも怒りでメラメラと燃えている。
そこからは一方的な蹂躙だった。
「「「「「ブモー!」」」」」
まず、タコヤキとホワイトがエアーカッター、サファイアがウォーターカッターを乱舞し、オークを細切れにする。
切り刻まれなかった数頭のオークが突っ込んでくるが、ヤキトリのファイヤーボールで丸焼けに。
あっという間にオークが全滅。
確か三十頭以上いたはずだけど……
「ブ、ブモ?」
オークジェネラルは一瞬の出来事で、何が起こったか分かっていないみたい。
もちろん俺らもポカーンとしています。
そして、怒りの炎を更にメラメラと燃え上がらせてオークジェネラルに近づく、スラタロウにタラちゃんにポチにフランソワ。
圧倒的に大きいオークジェネラルが、小さいスライムとシルクスパイダーの気迫に飲まれて全く動けない。
タラちゃんとポチとフランソワが一気にオークジェネラルに襲い掛かる。
オークジェネラルがあっという間に糸でぐるぐる巻きに。
オークジェネラルは糸を切ろうともがくが、全く切れる気配がない。
そこに襲い掛かるスラタロウ。
触手には雷魔法を応用したサンダーソードが現れている。
首付近までジャンプするとあっという間に首を切断。
オークジェネラルは悲鳴をあげる暇もなく、大きな音を立てて倒れた。
俺達は皆唖然としていた。
かかった時間はわずか数分。
普通この数のオークの集団が現れたら、小さな村などは蹂躙されてしまうだろう。
それがあっという間に片付いてしまったのだ。
俺たちが戦っても問題なく勝てるが、流石に数分では無理だ。
「うむ、主人よもう大丈夫だぞ」
「ああ、ありがとうシル」
シルが周りを探索して、他に魔物はいないと言ってくれた。
ほっと一息したところ、スラタロウ達が次々に馬車の中に入って行って、荷物にかけてあった毛布にくるまって寝てしまった。
……なるほど、スラタロウ達は寝ている所を急に起こされたのであれだけ怒っていたのね。
でもあなた達は出発してから二時間以上ずっと寝ているよね……
「いやー、スラタロウ達は寝てるの邪魔されたから怒っていたんだねー」
「サトー様、とりあえず、オークを回収しましょう。ゴブリンと違って、オークは肉が食べられます」
「そうですわね。これだけあれば難民の人の食糧にも十分な量ですわ」
「思いかけずの大収穫と思えば良いのじゃ。闇ギルドの連中も、気の利いたプレゼントを寄越してくれた物じゃ」
「……そうですね。直ぐに回収します」
よし、気を切り替えて。
闇ギルドの連中はオークの大群で俺たちを蹂躙しようとした様だが、目論見が外れて唯の食糧追加にしかならなかった。
うん、そう思うことにしよう。
それにこれだけのオークがあれば、お肉としても十分な量だ。
鮮度が落ちなように急いで血抜きしてアイテムボックスの中へ。
雨が降っているから、後始末もしなくてよさそだ。
「では出発しますね!」
「はーい! お兄ちゃん、スラタロウ凄かったね!」
「ああ、そうだな」
「ミケもスラタロウの様に、雷の剣でしゅぱってやりたいなあ!」
「うむ、同じ雷属性を持つ妾もあれは羨ましいと思ったのじゃ」
「魔力の具現化はとても高度な技術です。流石スラタロウさんと言ったところでしょうか」
オリガさんの合図で馬車は再び発進。
オークを回収した後、馬車に戻った俺たちは生活魔法で雨に濡れたり泥跳ねした服を綺麗にし、髪の毛をタオルで拭いている。
幸にして気温が高いから、雨に濡れても体を冷やす事にはならなそうだ。
ミケはさっきのスラタロウのサンダーソードに興奮しているようだ。
俺もあれは凄いと思った。
魔力の具現化か、なかなかに難しい技術だ。
ビアンカ殿下もルキアさんも、スラタロウの魔法技術に感心している。
「あ、そういえば魔法具屋のお婆ちゃんがお土産くれたんだ」
「ミケよ、そう言う事はもっと早く言いなさい。何を貰ったんだ?」
「うーんとね、これ!」
「なんだこれは?」
ここでふと思い出したのか、ミケが魔法具屋のお婆さんから何かを貰ったらしい
今度あった時にお礼を言わないとなあ、と思いながらミケから渡されたのは、剣の柄見たいなのに宝石の様なものが付いているもの。いわば刃がない剣だ。
「これを使えば、魔法剣が使えるんだって!」
「「なんですって!」」
「私にも見せてー!」
ミケから聞こえた魔法剣というキーワードに、魔法使いでもあるルキアさんとマリリさんが反応した。
なんか二人の迫力が凄いんですけど……
リーフも魔法剣の柄に興味津々の様だ。
「いいよ、はい。お姉ちゃん」
「ありがとう。うーむ、これはなかなかすごい魔道具ですね」
「この宝石が魔法剣を生み出す要なんですね。自分の属性の魔法が使えそうです」
「うーん、人間も中々やるわねー。この魔道具の技術は難しいよー」
ルキアさんとマリリさんの解説にリーフも加わって、何か難しい話をしている。
結局結論はなんだろう?
「ミケちゃん、ありがとう。返すね」
「うん、ルキアお姉ちゃん」
「それでルキアにマリリにリーフよ。この魔道具は一体どんなものじゃ?」
「ビアンカ殿下、これは自身の魔力を刃に出来る魔道具になります」
「訓練は必要ですが、これを使えば誰でも魔法剣が使えます。しかも放出系に身体強化系も関係ありません」
「ただし、かなりの魔法制御技術が必要なのー。ぶっちゃけこの魔法具は人間で言うと国宝クラスなのー」
おお、ビアンカ殿下の質問に、リーフがぶっちゃけたぞ。
しかしこの性能だったら、国宝級っていうのも納得だ。
あのお婆さんの魔道具製作技術は本当にすごいんだなあ……
「ふむ、中々の性能じゃな。これは確かに国宝クラスじゃのう。ミケよ、貰ったのはこの一つか?」
「違うよ。うーんとねー、一杯貰ったよ!」
「一杯とな? 実際の数字はわかるのか?」
「えーと、少なくとも三十本はあったよ!」
「「「!」」」
「そ、そうか。ちなみにミケよ。他に貰ったものはあるのか?」
「うん! お婆ちゃんがこれもあれもって一杯くれたよ!」
「「「……」」」
「な、なるほどじゃ。ミケよ、後で一緒に何を貰ったのか確認しないとな。あのご老人にお礼をしないといけないのじゃ」
「そうだね、ビアンカお姉ちゃん。お婆ちゃんにお礼しないとね。何がいいかな?」
ビアンカ殿下、ナイスフォロー。
魔法剣の柄だけで三十本以上に、その他にも色々貰ったって……
流石にルキアさんもマリリさんも唖然としているよ。
でもこれはもしかして……
「サトー様、これはもしかして……」
「うん、多分お婆さんはミケに重要な魔道具を一式託したんだ」
「と言うことはお婆様自身も危険な目に……」
「その可能性は高い。ビアンカ殿下、アルス王子にお婆さんの保護を頼めますか?」
「もちろんじゃ。此度の魔道具の件もある。この後直ぐに連絡しよう」
ルキアさんも気がついた様だ。
あれだけの魔道具の作成技術があるんだ。
闇ギルドにお婆さんが襲われる可能性もありそう。
早めに保護してもらわないと。
「お、お兄様からの連絡じゃ。ふむふむ、これはなんと言う事じゃ!」
と、ここでアルス王子からビアンカ殿下に連絡が。
何やら嫌な予感がしてならない。
「どうも妾達が出立した後直ぐに、バルガスの街で何箇所か襲撃があったようだ。今日妾達が寄ったお店もじゃ。もちろん魔法具屋も含まれておる」
「え? お婆ちゃん大丈夫?」
「幸にして命は取り留めたそうじゃ。他の場所も死者はおらん。警備を強化しておった効果で、直ぐに騎士が駆けつけた様だ」
「お婆ちゃん怪我しちゃったんだ……」
「ミケよ、ご老人は近衛騎士団で保護されているから大丈夫じゃ。それにお店の中も荒らされたが、どこでも売っている物しか置いてなかったそうじゃ。ミケに預けたのがどうも重要なものらしいのじゃな」
「あからさまに俺達の寄った所を襲撃となると、闇ギルドの奴らも俺達の情報を得ようと必死なのでしょうね」
「恐らくそうじゃろう。だが、襲撃された方は溜まったもんじゃないぞ」
「全くそうですね。ほら、ミケ。お婆ちゃんは大丈夫だからね」
「うん……」
ミケがしょんぼりするのも無理はない。お婆ちゃんの話をしていたら、まさに襲撃されて怪我をしたって言う話を聞いたのだから。
みんながミケを慰めるが、流石にミケは落ち込んでいる。
「主人、この先に魔物が現れたぞ」
ええーい、シルの報告はありがたいが、なんとも空気を読まない闇ギルドだ。
こんな時に限って襲撃を仕掛けるなんて!
「「フシュー!」」
またもや魔物が現れたので、再度馬車を守るように急いで準備をする。
今度は予めスラタロウを起こしておいたので、さっきの様に怒り心頭ではない。
流石にミケはお婆さんの事でショックを受けているので、馬車の中に入っている。
「デビルシープが二体だぞ。こやつらは魔法で身体強化をする厄介な魔物だぞ。しかも頭も硬く、体毛は魔法も吸収してしまうのだぞ」
シルが厄介というほどの魔物だ。
どう見ても象よりも大きい、巨大な羊だ。
頭には巨大なツノもあり、これが身体強化して突っ込んできたらひとたまりもなさそうだ。
しかも魔法も吸収するという、これどうやって倒せばいいんだ?
「サトーさん、中々に厄介な魔物ですわね」
「そうですね、どう攻略すれば良いか迷います」
「うむ、我もあれだけの大きさのデビルシープは初めて見たぞ」
「魔法も効かないなら、私たち魔法使いは役に立たなそうですね……」
「なんとまあ、闇ギルドの奴らもこんなものを寄越すとは。それだけ妾達が脅威なのじゃろう」
みんなもどうやって攻撃すればいいのか迷っている。それだけ今回は厄介な魔物だ。
そんな事はお構いなしに、デビルシープは身体強化をして代わる代わる突っ込んでくる。
なんとかデビルシープの攻撃をアースウォールなどで凌いでいるが、こちらからの攻撃が全く届かない。
試しに魔法を撃っても全く効かないし、飛び込んで切り付けても効果がない。
防戦一方でちょっとまずい状態だ。
「……」
そんな膠着状態の中、ふとミケが馬車の中から出てきた。
バトルハンマーを引きずっている。
「ミケ! 馬車の中に入っていろ!」
「……」
俺が叫んでもミケは聞こえていないのか、反応がない。
「あれ? ミケ様の中で魔力が集まって……」
ルキアさんが何かを話した瞬間、ミケの姿が突然消えた。
「グゴア!」
ドシーン。
ミケは一瞬にして飛び上がり、バトルハンマーで一匹のデビルシープを頭から叩きつけた。
デビルシープの固いはずの頭が割れ、その巨体が崩れ大きな音を立てる。
「ブフォア!」
ドシーン。
今度はミケはジャンプしてデビルシープの顔を下から思いっきり叩き上げた。
よく見るとミケのバトルハンマーは炎を纏っている。
顎から一気に脳まで砕かれ、デビルシープは一瞬で絶命し倒れる。
「ミケは身体強化の魔法が今まで出来なかったはずじゃ。なぜ今出来たのじゃ?」
ビアンカ殿下も急にミケが魔法を使った事が驚きの様だ。
ミケは魔力操作はよく出来るのだが、自身の魔法発動が全く上手くできてなかった。
それがこのタイミングで何故発動したのか?
よく見るとミケはお婆さんから貰った魔法剣の柄の魔道具も持っている。
「恐らくですが、あの魔道具がミケ様の魔法発動の手助けをしたと」
「そうじゃな。あの魔道具は魔力を具現化する。ミケは魔法制御まではかなりのものじゃった。魔法発動が出来なかったミケの助けになったのじゃろう。何にせよ助かったのじゃ」
ルキアさんとビアンカ殿下が何故ミケの魔法発動したかを話していた。
確かにあの魔道具が発動の一因だったのだろう。
しかし、今はミケのフォローが必要だ。
「お兄ちゃん……」
ミケは涙目で俺に抱きついてきた。
俺はミケの頭を撫でながら抱きしめてやる。
「ミケ、大丈夫か?」
「みんな魔物に攻撃されていてね」
「うん」
「何人か怪我していてね」
「うん」
「お婆ちゃんみたいに大怪我しちゃうと思って……」
「そっか。ミケは俺たちが怪我しちゃうと思っちゃったんだね」
「うん……」
ミケはこくんと頷いた。
まだまだ子どものミケだ。
お婆さんが大怪我をしたと聞いて動揺している所に俺達もあんな化け物に襲われたもんだから、俺達も大怪我すると思ってきっと無意識の内に体が動いちゃったのだな。
「ミケ、俺たちは大丈夫だよ。心配するな」
「うん、うん……」
ミケをあやすように優しく声をかけて抱きしめてあげる。
ミケもぎゅーっと離れない様に抱きついてくる。
「サトーさん、後始末はお任せください」
「うむ、ミケの方が心配じゃ。よく見てやるが良いぞ」
「主人、周りに魔物の気配はないぞ。こっちは大丈夫だぞ」
「サトー様、スラタロウさんがアイテムボックス使えるみたいなので、デビルシープはスラタロウさんに収納してもらいますね」
「ミケちゃんをよろしくねー」
スラタロウ、いつの間にアイテムボックスまで使える様になったのか……
戦闘後の後始末はみんなに任せて、今はミケをあやすことに専念しよう。
ミケが落ち着くまで、俺はミケの頭を撫で続けていた。
「ミケよ、あまり馬車から体を乗り出すのではないぞ」
「はーい! ビアンカお姉ちゃん」
バルガスの街を出発して一時間。
馬車は順調に進んで行きます。
ミケは馬車からの風景が楽しいのか、身を乗り出してはビアンカ殿下に注意されています。
ビアンカ殿下は面倒見がいいなあ。こういう所が孤児院の子どもに好かれた訳かもしれない。
ちなみにシルを除いた魔物達は馬車の揺れが心地よいのか、シルに寄りかかって寝ています。
「さて、サトーよ。お主は考え事か? さっきからうんうん言っておるぞ」
「そうですわね、サトー様。何か思うことがあったら話してください」
「サトーさん、私たちも相談に乗りますわよ」
ビアンカ殿下、ルキアさん、リンさんが、さっきから独り言を言っている俺を心配してくれたようだ。
いかんいかん、みんなを心配させてしまったようだ。
ここはみんなの意見も聞いてみよう。
「バルガスの街での出来事を色々考えていましたよ」
「色々とはなんじゃ? サトーよ」
「色々です。とにかく色々な事がタイミング良く起きているのが不思議かなと」
「確かに、襲撃とか色々な事のタイミングが良いですよね」
「特にギルドでの件はタイミングが良すぎますね」
「この難民騒ぎも明らかにおかしいのじゃ」
「それに、あの騎士の容疑者が急に暴れた際に飲んだ何かの薬。あれは闇ギルドの中でもあまり流通しないものじゃないかなと」
「うむ、あの様な事象は初めて聞く。もしかしたらまだ実験段階の物かもしれんぞ」
やっぱりみんなバルガスの街の件は異常と考えていたんだ。
次々と起こる事件のタイミング、そして対象が俺たちに関わる人に限定されている。
どう考えてもこれは……
「サトーよ、考えている事を当てようかのう。妾達が関わった人の中に闇ギルドの関係者がおる。しかもおそらく大物じゃ」
「……流石はビアンカ殿下。ご明察です」
「どうせ皆同じ事を考えるのじゃ。それにどうせサトーの事じゃ。既に何か罠でも仕掛けておるのじゃろ?」
「参りました。その通りです」
「細かくは聞かんが、バスクに着いたら教えてくれるとありがたいのう」
「はい、街に着いたらみんなに話します」
うお、流石はビアンカ殿下。そこまで見抜かれているとは。
でも俺からの説明が省けて良かった。
ルキアさんもリンさんも俺を見てうなづいている。
あまり人を罠にはめるのは気がひけるが、こればっかりは仕方ない。
正直俺も死にかけた事があるし。
「それよりも目の前の危険を考えるとするか。シルよ、周辺に何かおるか?」
「ビアンカよ、今の所は何もないぞ。ただ、森が少し騒がしいぞ。警戒をしておいた方が良いぞ」
「ふむ、そうか。引き続き頼むぞ」
「うむ、我に任せるのだぞ」
「ビアンカ殿下、そうですわね。闇のギルドは私たちがバスク領に着くことを防ぎたいはずですね」
「妾達を足止めするか、その間にバスク領で何かを起こすのか。いずれにせよ妾達がバスク領に向かっているというのは、闇ギルドも把握しておるじゃろう。なら、妾たちはそれを打ち砕くのみじゃ」
ビアンカ殿下が言ってくれて良かった。こうやって自主的に周囲を警戒してくれるのはありがたいね。
ふとシルを見ると小さく頷いていた。もう暫くは大丈夫だろう。
「ふふ、人間は色々考えて大変ねー。もっと気楽に旅を楽しめばいいのにねー」
「ああ、全くだ」
「別の依頼の時はのんびり出来るかなー?」
「のんびりしたいよ。こんな物騒な事も考えずにな」
思わずリーフと顔を合わせて苦笑した。
今は周りの景色を楽しむ余裕もないけど、のほほーんとした旅もしたいなあ。
空がいつの間にか曇ってきて……、ポツポツ降ってきた。
この馬車は幌が付いているので濡れることはないが、あまり良い状況ではないな。
「あ、雨だ。お兄ちゃん雨が降ってきたよ!」
「本当だね。ちょっと雨脚も強くなりそうだ」
「サトーよ、ちょうど良い状況ではないかい?」
「ビアンカ殿下、それは闇ギルドにとってでしょう」
「ククク、まあそういうことだ。オリガよ、慎重に進むのだぞ」
「はい、お任せください殿下」
それから一時間。
「うーん、雨が降り止まないですね」
「こればっかりは仕方がないのう」
「道もだいぶぬかるんできました」
「足元を取られそうですね」
だいぶ雨も降った為か、道もぬかるんできている。
この世界は道路が舗装されているわけではないので、一度雨が降ると路面の状況は悪くなる。
「主人、ここから少し先で魔物の反応が複数現れたぞ。後十分ほどで遭遇するぞ」
「シル、ありがとう。みんな戦闘準備だ」
「「「はい!」」」
「ほほ、これで少しは退屈も凌げるかもじゃ」
ここで測った様に魔物が襲撃体制の様だ。
全く足場が悪い時に襲撃とは、闇ギルドも意地が悪い事だ。
みんな事前に警戒していたからか、直ぐに戦闘体制に入る。
「スラタロウも、他のも起きるのだぞ。戦闘になるぞ」
シルも立ち上がって戦闘の準備をしている。
そしてシルに寄りかかっていたスラタロウ達が転げ落ちて目を覚ます。
周囲の状況から戦闘になるというのは理解したみたいだ。
あれ? 若干スラタロウとかの目が座っているような気が……
「「「ブモー!」」」
「あれはオークの群れですわ」
「しかも上位種のオークジェネラルまで」
遭遇した魔物はオークの集団だ。
しかも上位種までいるということは、難易度が上がる。
馬車を降りて、馬車を守る様に陣形をとる。
俺達とオークの群れがお互いに出方を伺って睨み合う中……
スタスタスタ……
あれ? さっきまでシルに寄りかかって寝ていたスラタロウ達が、俺達の前に来た。
しかも怒りでメラメラと燃えている。
そこからは一方的な蹂躙だった。
「「「「「ブモー!」」」」」
まず、タコヤキとホワイトがエアーカッター、サファイアがウォーターカッターを乱舞し、オークを細切れにする。
切り刻まれなかった数頭のオークが突っ込んでくるが、ヤキトリのファイヤーボールで丸焼けに。
あっという間にオークが全滅。
確か三十頭以上いたはずだけど……
「ブ、ブモ?」
オークジェネラルは一瞬の出来事で、何が起こったか分かっていないみたい。
もちろん俺らもポカーンとしています。
そして、怒りの炎を更にメラメラと燃え上がらせてオークジェネラルに近づく、スラタロウにタラちゃんにポチにフランソワ。
圧倒的に大きいオークジェネラルが、小さいスライムとシルクスパイダーの気迫に飲まれて全く動けない。
タラちゃんとポチとフランソワが一気にオークジェネラルに襲い掛かる。
オークジェネラルがあっという間に糸でぐるぐる巻きに。
オークジェネラルは糸を切ろうともがくが、全く切れる気配がない。
そこに襲い掛かるスラタロウ。
触手には雷魔法を応用したサンダーソードが現れている。
首付近までジャンプするとあっという間に首を切断。
オークジェネラルは悲鳴をあげる暇もなく、大きな音を立てて倒れた。
俺達は皆唖然としていた。
かかった時間はわずか数分。
普通この数のオークの集団が現れたら、小さな村などは蹂躙されてしまうだろう。
それがあっという間に片付いてしまったのだ。
俺たちが戦っても問題なく勝てるが、流石に数分では無理だ。
「うむ、主人よもう大丈夫だぞ」
「ああ、ありがとうシル」
シルが周りを探索して、他に魔物はいないと言ってくれた。
ほっと一息したところ、スラタロウ達が次々に馬車の中に入って行って、荷物にかけてあった毛布にくるまって寝てしまった。
……なるほど、スラタロウ達は寝ている所を急に起こされたのであれだけ怒っていたのね。
でもあなた達は出発してから二時間以上ずっと寝ているよね……
「いやー、スラタロウ達は寝てるの邪魔されたから怒っていたんだねー」
「サトー様、とりあえず、オークを回収しましょう。ゴブリンと違って、オークは肉が食べられます」
「そうですわね。これだけあれば難民の人の食糧にも十分な量ですわ」
「思いかけずの大収穫と思えば良いのじゃ。闇ギルドの連中も、気の利いたプレゼントを寄越してくれた物じゃ」
「……そうですね。直ぐに回収します」
よし、気を切り替えて。
闇ギルドの連中はオークの大群で俺たちを蹂躙しようとした様だが、目論見が外れて唯の食糧追加にしかならなかった。
うん、そう思うことにしよう。
それにこれだけのオークがあれば、お肉としても十分な量だ。
鮮度が落ちなように急いで血抜きしてアイテムボックスの中へ。
雨が降っているから、後始末もしなくてよさそだ。
「では出発しますね!」
「はーい! お兄ちゃん、スラタロウ凄かったね!」
「ああ、そうだな」
「ミケもスラタロウの様に、雷の剣でしゅぱってやりたいなあ!」
「うむ、同じ雷属性を持つ妾もあれは羨ましいと思ったのじゃ」
「魔力の具現化はとても高度な技術です。流石スラタロウさんと言ったところでしょうか」
オリガさんの合図で馬車は再び発進。
オークを回収した後、馬車に戻った俺たちは生活魔法で雨に濡れたり泥跳ねした服を綺麗にし、髪の毛をタオルで拭いている。
幸にして気温が高いから、雨に濡れても体を冷やす事にはならなそうだ。
ミケはさっきのスラタロウのサンダーソードに興奮しているようだ。
俺もあれは凄いと思った。
魔力の具現化か、なかなかに難しい技術だ。
ビアンカ殿下もルキアさんも、スラタロウの魔法技術に感心している。
「あ、そういえば魔法具屋のお婆ちゃんがお土産くれたんだ」
「ミケよ、そう言う事はもっと早く言いなさい。何を貰ったんだ?」
「うーんとね、これ!」
「なんだこれは?」
ここでふと思い出したのか、ミケが魔法具屋のお婆さんから何かを貰ったらしい
今度あった時にお礼を言わないとなあ、と思いながらミケから渡されたのは、剣の柄見たいなのに宝石の様なものが付いているもの。いわば刃がない剣だ。
「これを使えば、魔法剣が使えるんだって!」
「「なんですって!」」
「私にも見せてー!」
ミケから聞こえた魔法剣というキーワードに、魔法使いでもあるルキアさんとマリリさんが反応した。
なんか二人の迫力が凄いんですけど……
リーフも魔法剣の柄に興味津々の様だ。
「いいよ、はい。お姉ちゃん」
「ありがとう。うーむ、これはなかなかすごい魔道具ですね」
「この宝石が魔法剣を生み出す要なんですね。自分の属性の魔法が使えそうです」
「うーん、人間も中々やるわねー。この魔道具の技術は難しいよー」
ルキアさんとマリリさんの解説にリーフも加わって、何か難しい話をしている。
結局結論はなんだろう?
「ミケちゃん、ありがとう。返すね」
「うん、ルキアお姉ちゃん」
「それでルキアにマリリにリーフよ。この魔道具は一体どんなものじゃ?」
「ビアンカ殿下、これは自身の魔力を刃に出来る魔道具になります」
「訓練は必要ですが、これを使えば誰でも魔法剣が使えます。しかも放出系に身体強化系も関係ありません」
「ただし、かなりの魔法制御技術が必要なのー。ぶっちゃけこの魔法具は人間で言うと国宝クラスなのー」
おお、ビアンカ殿下の質問に、リーフがぶっちゃけたぞ。
しかしこの性能だったら、国宝級っていうのも納得だ。
あのお婆さんの魔道具製作技術は本当にすごいんだなあ……
「ふむ、中々の性能じゃな。これは確かに国宝クラスじゃのう。ミケよ、貰ったのはこの一つか?」
「違うよ。うーんとねー、一杯貰ったよ!」
「一杯とな? 実際の数字はわかるのか?」
「えーと、少なくとも三十本はあったよ!」
「「「!」」」
「そ、そうか。ちなみにミケよ。他に貰ったものはあるのか?」
「うん! お婆ちゃんがこれもあれもって一杯くれたよ!」
「「「……」」」
「な、なるほどじゃ。ミケよ、後で一緒に何を貰ったのか確認しないとな。あのご老人にお礼をしないといけないのじゃ」
「そうだね、ビアンカお姉ちゃん。お婆ちゃんにお礼しないとね。何がいいかな?」
ビアンカ殿下、ナイスフォロー。
魔法剣の柄だけで三十本以上に、その他にも色々貰ったって……
流石にルキアさんもマリリさんも唖然としているよ。
でもこれはもしかして……
「サトー様、これはもしかして……」
「うん、多分お婆さんはミケに重要な魔道具を一式託したんだ」
「と言うことはお婆様自身も危険な目に……」
「その可能性は高い。ビアンカ殿下、アルス王子にお婆さんの保護を頼めますか?」
「もちろんじゃ。此度の魔道具の件もある。この後直ぐに連絡しよう」
ルキアさんも気がついた様だ。
あれだけの魔道具の作成技術があるんだ。
闇ギルドにお婆さんが襲われる可能性もありそう。
早めに保護してもらわないと。
「お、お兄様からの連絡じゃ。ふむふむ、これはなんと言う事じゃ!」
と、ここでアルス王子からビアンカ殿下に連絡が。
何やら嫌な予感がしてならない。
「どうも妾達が出立した後直ぐに、バルガスの街で何箇所か襲撃があったようだ。今日妾達が寄ったお店もじゃ。もちろん魔法具屋も含まれておる」
「え? お婆ちゃん大丈夫?」
「幸にして命は取り留めたそうじゃ。他の場所も死者はおらん。警備を強化しておった効果で、直ぐに騎士が駆けつけた様だ」
「お婆ちゃん怪我しちゃったんだ……」
「ミケよ、ご老人は近衛騎士団で保護されているから大丈夫じゃ。それにお店の中も荒らされたが、どこでも売っている物しか置いてなかったそうじゃ。ミケに預けたのがどうも重要なものらしいのじゃな」
「あからさまに俺達の寄った所を襲撃となると、闇ギルドの奴らも俺達の情報を得ようと必死なのでしょうね」
「恐らくそうじゃろう。だが、襲撃された方は溜まったもんじゃないぞ」
「全くそうですね。ほら、ミケ。お婆ちゃんは大丈夫だからね」
「うん……」
ミケがしょんぼりするのも無理はない。お婆ちゃんの話をしていたら、まさに襲撃されて怪我をしたって言う話を聞いたのだから。
みんながミケを慰めるが、流石にミケは落ち込んでいる。
「主人、この先に魔物が現れたぞ」
ええーい、シルの報告はありがたいが、なんとも空気を読まない闇ギルドだ。
こんな時に限って襲撃を仕掛けるなんて!
「「フシュー!」」
またもや魔物が現れたので、再度馬車を守るように急いで準備をする。
今度は予めスラタロウを起こしておいたので、さっきの様に怒り心頭ではない。
流石にミケはお婆さんの事でショックを受けているので、馬車の中に入っている。
「デビルシープが二体だぞ。こやつらは魔法で身体強化をする厄介な魔物だぞ。しかも頭も硬く、体毛は魔法も吸収してしまうのだぞ」
シルが厄介というほどの魔物だ。
どう見ても象よりも大きい、巨大な羊だ。
頭には巨大なツノもあり、これが身体強化して突っ込んできたらひとたまりもなさそうだ。
しかも魔法も吸収するという、これどうやって倒せばいいんだ?
「サトーさん、中々に厄介な魔物ですわね」
「そうですね、どう攻略すれば良いか迷います」
「うむ、我もあれだけの大きさのデビルシープは初めて見たぞ」
「魔法も効かないなら、私たち魔法使いは役に立たなそうですね……」
「なんとまあ、闇ギルドの奴らもこんなものを寄越すとは。それだけ妾達が脅威なのじゃろう」
みんなもどうやって攻撃すればいいのか迷っている。それだけ今回は厄介な魔物だ。
そんな事はお構いなしに、デビルシープは身体強化をして代わる代わる突っ込んでくる。
なんとかデビルシープの攻撃をアースウォールなどで凌いでいるが、こちらからの攻撃が全く届かない。
試しに魔法を撃っても全く効かないし、飛び込んで切り付けても効果がない。
防戦一方でちょっとまずい状態だ。
「……」
そんな膠着状態の中、ふとミケが馬車の中から出てきた。
バトルハンマーを引きずっている。
「ミケ! 馬車の中に入っていろ!」
「……」
俺が叫んでもミケは聞こえていないのか、反応がない。
「あれ? ミケ様の中で魔力が集まって……」
ルキアさんが何かを話した瞬間、ミケの姿が突然消えた。
「グゴア!」
ドシーン。
ミケは一瞬にして飛び上がり、バトルハンマーで一匹のデビルシープを頭から叩きつけた。
デビルシープの固いはずの頭が割れ、その巨体が崩れ大きな音を立てる。
「ブフォア!」
ドシーン。
今度はミケはジャンプしてデビルシープの顔を下から思いっきり叩き上げた。
よく見るとミケのバトルハンマーは炎を纏っている。
顎から一気に脳まで砕かれ、デビルシープは一瞬で絶命し倒れる。
「ミケは身体強化の魔法が今まで出来なかったはずじゃ。なぜ今出来たのじゃ?」
ビアンカ殿下も急にミケが魔法を使った事が驚きの様だ。
ミケは魔力操作はよく出来るのだが、自身の魔法発動が全く上手くできてなかった。
それがこのタイミングで何故発動したのか?
よく見るとミケはお婆さんから貰った魔法剣の柄の魔道具も持っている。
「恐らくですが、あの魔道具がミケ様の魔法発動の手助けをしたと」
「そうじゃな。あの魔道具は魔力を具現化する。ミケは魔法制御まではかなりのものじゃった。魔法発動が出来なかったミケの助けになったのじゃろう。何にせよ助かったのじゃ」
ルキアさんとビアンカ殿下が何故ミケの魔法発動したかを話していた。
確かにあの魔道具が発動の一因だったのだろう。
しかし、今はミケのフォローが必要だ。
「お兄ちゃん……」
ミケは涙目で俺に抱きついてきた。
俺はミケの頭を撫でながら抱きしめてやる。
「ミケ、大丈夫か?」
「みんな魔物に攻撃されていてね」
「うん」
「何人か怪我していてね」
「うん」
「お婆ちゃんみたいに大怪我しちゃうと思って……」
「そっか。ミケは俺たちが怪我しちゃうと思っちゃったんだね」
「うん……」
ミケはこくんと頷いた。
まだまだ子どものミケだ。
お婆さんが大怪我をしたと聞いて動揺している所に俺達もあんな化け物に襲われたもんだから、俺達も大怪我すると思ってきっと無意識の内に体が動いちゃったのだな。
「ミケ、俺たちは大丈夫だよ。心配するな」
「うん、うん……」
ミケをあやすように優しく声をかけて抱きしめてあげる。
ミケもぎゅーっと離れない様に抱きついてくる。
「サトーさん、後始末はお任せください」
「うむ、ミケの方が心配じゃ。よく見てやるが良いぞ」
「主人、周りに魔物の気配はないぞ。こっちは大丈夫だぞ」
「サトー様、スラタロウさんがアイテムボックス使えるみたいなので、デビルシープはスラタロウさんに収納してもらいますね」
「ミケちゃんをよろしくねー」
スラタロウ、いつの間にアイテムボックスまで使える様になったのか……
戦闘後の後始末はみんなに任せて、今はミケをあやすことに専念しよう。
ミケが落ち着くまで、俺はミケの頭を撫で続けていた。