「サトー様、門に行く前に魔道具屋のお婆様にご挨拶をしたいのですが」
「そうですね、行きましょう」
「ミケもお婆ちゃんの所に行く!」

 ちょうど近い所にもいたので、リンさんとも一緒に魔道具屋のお婆さんの所へ。

「お婆さんこんにちは!」
「お婆様、お久しぶりです」
「おやまあ、ミケちゃんかい。元気だったかい?」
「うん、元気だったよ! お婆ちゃんは?」
「お婆ちゃんも元気になったよ」
「よかった!」

 お婆さんは定期的に治療を受けられる様になったので、随分体調が良くなったようだ。

「お婆様、今度冒険者に戻りバスク領へ行く事になりました」
「おやまあ、お前さんが冒険者に? じゃが良いのかい?」
「はい、これは私がやらなければいけない事なのです」
「そうかい、なら何も言わないよ。うん、あの時と違って良い顔になったよ」
「お婆様……」

 ルキアさんはお婆さんに冒険者に戻る事と、バスク領に行くことを伝えてた。
 お婆さんは、ルキアさんが大怪我したこともそもそもなんで冒険者になったかも知っているので、ルキアさんが冒険者に戻る事を心配している様だ。
 でも、今のルキアさんは、冒険者へ戻る事に躊躇いはない。

「サトーさん、ルキアさん、みなさん。これを持って行っていきな」
「これは?」
「状態異常を防ぐ魔道具だよ。小さいから身に付けるだけで良い。きっと役に立つよ」
「お婆さん、ありがとうございます。おいくらですか?」
「代金はいらないよ。どうせ倉庫に眠っていたやつだし。餞別だよ」

 お婆さんが餞別と言って小さなアクセサリーの魔道具をくれた。
 正直これは助かる。この間のエリアスタンみたいな事が防げるし。

「それとね、サトーさんにルキアさん、ちょっとこっちへ」
「……え? お婆様、本当ですか?」
「うーん、でも納得する所もあるんですよ……」

 お婆さんが俺とルキアさんを呼び寄せて、とある情報を教えてくれた。
 ルキアさんは信じられない様子だったが、実は俺は引っかかる所があった。
 念の為にシルにも念話で聞いてみよう。

「シル、今の話聞こえた?」
「主人、聞こえたぞ。そういえばにおいが不自然だったぞ」
「におい?」
「そうだぞ、我は人の心がにおいでわかるぞ。しかしあやつからは特定のにおいしかしなかったぞ。人は様々なにおいがするのだが、今思えばそれが一つだけなのは明らかに不自然だったぞ」

 うん、要警戒だな。
 そうだ、門の所でちょっと予防線張っておこう。

「お兄ちゃん大丈夫?」
「大丈夫だよ、心配かけたね。さて、そろそろ時間だ」
「うん! お婆ちゃん、また来るね!」
「行ってらっしゃい、ミケちゃん」
「お婆様、また来ます」
「ああ、また元気な顔を見せておくれよ」

 さて、時間だ。
 ミケは元気に挨拶をし、ルキアさんはお婆さんをぎゅっと抱きしめて別れをしています。
 無事にお婆さんに元気な顔を見せてあげたい。

「お、やっときたな」
「お待たせしました、アルス王子」
「まあこちらも物資の準備があったから。そちらの準備は大丈夫か?」
「はい、問題ありません」

 門の近くに来ると沢山の人が待っていた。
 アルス王子の姿が見えたので、先ずは挨拶。
 バルガス様達にギルドの人々、教会のシスターと子ども達もいる。

「バルガス様、色々お世話になりました。これは餞別の品となります」
「おおわざわざありがとう。いや、世話になったのはこっちの方だ」
「奥様、こんな私を今までありがとうございます」
「ルキアさん、これからは貴女自身の足で歩んでいくのです。私たちはそのお手伝いをしただけですよ」
「サリーお姉ちゃんにプレゼント!」
「ミケちゃんありがとう。私からもミケちゃんにプレゼントだよ」

 お世話になったバルガス様に購入したものを渡した。
 ルキアさんはマリー様に涙しながらお礼を言っていた。
 ミケとサリー様はお互い抱き合って別れを惜しんでいる。

「サトーさん、短い間ですがお世話になりました」
「サトー、持っていって貰いたいものはこちらで纏めた。サトーなら余裕だろう」
「マリシャさん、ガンドフさん。こちらもお世話になりました。責任持って持って行きます」

 ギルドマスターと副ギルドマスターのマリシャさんとガンドフさんも挨拶に来てくれた。
 でもやっぱりどう見ても夫婦に見えない。

「ミケの嬢ちゃんも頑張れよ!」
「うん!」
「ルキアはまだ復帰したばかりだから気をつけろな」
「はい、ありがとうございます。ビルゴさん」

 屈強な冒険者たちが、次々にミケの頭を撫でていく。
 いつの間にか冒険者のアイドル的存在だな。
 ビルゴさんはルキアさんに気をつけるように言っている。
 一緒に活動もしたことあるので、気になっているのだろう。

「サトー様、この間の炊き出しはありがとうございました。それに子ども達も薬草取りが楽しい様で。またいつでもいらしてください」
「ビアンカのお姉ちゃんまたね!」

 シスターはこの間の炊き出しのお礼を言ってくれた。
 確かにあの炊き出しは大仕事だったしな。
 そして孤児院の子ども達はビアンカ殿下に次々と挨拶している。
 この前も思ったけど、子ども達に懐かれているなあ。

 さて、この荷物を一旦アイテムボックスに収納っと。

「「「おお!」」」

 大量の物資が一瞬で無くなったので、ギャラリーから驚きの声が上がる。
 手品みたいで、そりゃ驚くよね。

「サトー、ギルドの馬車を用意した。これに乗っていけ。バスクのギルドで返せば大丈夫だ」
「わざわざありがとうございます」
「わー! 馬車だ!」

 ギルドが馬車を用意してくれた。
 しかも二頭の馬がひく幌付きの立派な物だ。
 これで道中は楽に移動出来るな。
 初めて見た馬車に、ミケは興奮気味だ。

 馬車を門の外に誘導し、みんなで乗り込む。
 オリガさんが御者が出来るので任せる事に。

「行っていまーす!」
 
 ミケの元気な声を合図に、馬車はゆっくりと出発した。
 見送りに来ている人は、俺たちが見えなくなるまで手を振っていた。
 ミケも馬車から身を乗り出して手を振っている。

 これから一路バスク子爵領へ!