「サトーよ、今日も妾は予定が空く。お兄様の捜査もちょっとかかるそうなのじゃ。もちろんルキアも一緒に行くぞ」
「おー! また薬草取り競争やろう!」

 薬草取り競争の次の日、朝食の場でビアンカ殿下が俺に言ってきた。
 薬草取りをしている間に王都からの追加の近衛部隊が来たらしく、今朝も朝早くから出かけていた。
 今は王都の騎士を含む容疑者の取り調べと、書類の分析。それに聞き込みを中心に行なっているそうだ。
 あと、ミケさんや。流石に二日連続で薬草取りは勘弁です。

「サトーお兄ちゃん。今日は教会で炊き出しを行うけど一緒に行かない?」
「炊き出し?」
「そう! あとね、怪我をした人や病気の人の治療も行うの!」

 と、ここでサリー様から声がかかった。
 今日はマリー様とサリー様とで教会の炊き出しと無料治療を行うそうだ。
 大体月一回くらいのペースで行なっているという。ノブレスオブリージュですね。
 普段はマリー様が回復魔法を使うらしいが、サリー様も聖魔法に目覚めたので今日は一緒に行うとの事。

「ふむ、主人とスラタロウ。良い機会だから教会の方に行くが良いぞ。回復魔法のいい訓練になるぞ」
「確かにそうだな、今日は教会の方に行って見るか」
「えー、お兄ちゃん一緒じゃないの?」
「今日はごめんな。今度一緒に依頼をしような」

 ということで、俺とスラタロウは一緒に教会に行くことになった。
 ただ、ミケは俺が一緒にいけない事に不満顔だ。

 教会へはギルドを経由していくとの事。
 マリー様とサリー様は護衛と一緒に馬車に乗っています。
 ビアンカ殿下とルキアさんとミケも一緒に馬車に乗っていて、ワイワイ話しています。
 俺はシルと一緒に馬車の外で歩いて行きます。

 そんなこんなでギルドに到着。
 マリー様とサリー様もギルド内を見てみたいとの事なので、一緒にギルド内に入ります。
 特にサリー様は初めてのギルドらしく、ワクワクしています。
 
 ガヤガヤガヤ。

「うわー!、ここが冒険者ギルドなんだね!」
「うん! そうだよ!」
「人がとっても一杯いるね!」
「うん! でもいつもよりも多いような気がするよ」

 サリー様は初めての冒険者ギルドに興奮しているけど、確かにミケの言う通り普段より人が多い。
 それも比較的小さいミケくらいの子が多いような……

「あ、サトー様。ちょうど良いところに」

 受付のお姉さんが助かったような目でこちらに声をかけた。
 どうもこの混雑と関係がありそうだ。

「どうしたんですか? この混雑は」
「どうやら昨日サトー様達が沢山の薬草を取ったことが広まったようです。特に今日は孤児院の子ども達が一杯来ています」

 なるほど、だからこんなに子どもが多いんだ。
 ざっと見ても五十人くらいはいそう。
 大人ならもっと稼げる依頼に行くけど、子どもは流石にそうはいかない。
 気をつければ安全な薬草取りに人気が集まるのは必然ということだ。

「普段ならそのまま行かせるのですが、あまりにも数が多く初めての薬草取りの子もいて……。もしサトー様がまた薬草取りに行かれるのなら、一緒に行ってほしいと思いまして」

 ギルドはあまり冒険者に加担しないが、今回は流石に相手が沢山の子どもだ。しかもあんな事件があった直後でもある。
 しかし今日は教会に行く予定なんだよなあ。

「サトー様、子ども達の引率はこちらで引き受けますよ」
「そうじゃ。妾も冒険者の端くれ、これ位は問題ないのじゃ。それにフランソワにタラもおるから採取する薬草もバッチリじゃ」

 悩んでいると、ルキアさんとビアンカ殿下が引率を引き受けると申し出てきた
 さらにその後ろにはリンさん達の姿もある。
 リンさんも昨日に引き続いて薬草取りをしようと思っていたら、ビアンカ殿下に声をかけられたようだ。 

「主人よ、我もいるから周辺の魔物の探査も大丈夫だ。心配はないぞ」

 シルもこう言っているからお願いしようかな?

「ミケ、今日は薬草取りに行く人が一杯いるんだって。ミケは薬草取りを教えながら、シルと一緒に護衛してくれるかな?」
「ミケ大丈夫だよ! それにタラちゃんもいるから薬草取りも教えられるよ!」
「そうだね。お願いね。」
「任せて!」

 ミケは仕事を任せられてやる気満々のようだ。
 さらにシルクスパイダーが三匹もいるから、薬草取りは問題なさそうだな。
 よく見ると、タラちゃんもフランソワもポチも両脚を上げていてやる気満々だ。

「という事なので、俺は別の用事があるので一緒にいけませんが引率は問題ないです。薬草の取り方も、シルクスパイダーが三匹もいるので大丈夫でしょう」
「いきなりのお願いで申し訳ありません」
「いや俺たちはあの事件の関係者ですから。色々心配する気持ちはよくわかります」

 ということで、昨日の薬草大量採取組に子ども達の引率を任せて、予定通り俺は教会に行くことに。

「「「行ってきまーす!」」」
「気をつけてね」
「怪我しないでね」
「おう、頑張れよちびっ子達」
「どうせなら猫の嬢ちゃんの様に一杯とってきな」

 子ども達が受付のお姉さんに出発の挨拶をしたところ、お姉さん達だけでなくおっさんの冒険者も子ども達に声をかけていた。
 小さい子どもが頑張るということで、いかついおっさんの冒険者たちも顔がデレデレだ。

 さて、こちらも準備をして教会に向かわないと。
 マリー様にサリー様を待たせてしまっている。

「マリー様、サリー様。お待たせして申し訳ございません」
「いいえ、我が領の子ども達の面倒を見てくれていたのです。逆にこちらが感謝しなければなりません」
「大丈夫だよ! あの子達も一杯取れればいいね!」

 うん、マリー様もサリー様もいい人でよかった。

 俺も一緒に馬車に乗り教会へ。
 教会はギルドにも近いのですぐに到着です。

「おお、結構大きな教会だ」
「ええ。この街でも自慢の教会ですよ」
「さっきの孤児院の子ども達もここに住んでいるんだ」

 前世のヨーロッパとかにありそうな大聖堂だ。
 立派な外観に中はステンドグラスでとても綺麗だ。
 そこに子ども達の孤児院も併設されているという。
 
「マリー様、ようこそいらっしゃいました。サリー様もお元気でなりよりです」
「シスターもおかわりなくお元気そうで」
「シスターおはようございます。今日はお手伝いの人もいるんだ」
「その様ですね」

 教会の中に入るとすぐにシスターが出迎えてくれた。
 本当に映画とかで見たことのあるシスターだった。
 年配の方だけど、とっても優しそうな方だな。

「初めましてシスター。俺はサトーです。現在バルガス様の所にご厄介になっております」
「シスター。このスライムはスラタロウって言うんだよ。とってもすごい魔法使いなんだ!」
「初めましてサトー様、そしてスラタロウさん。今日は子ども達が少ないので男手があると助かります」
「はい。ここへ来る途中、冒険者ギルドにも寄りましたら沢山の子ども達がいました。今日はどこまで出来るかわかりませんが、頑張りますのでよろしくお願いします」

 俺がシスターに挨拶すると、続いてサリー様が抱えていたスラタロウを紹介していた。
 スラタロウも触手を上げて挨拶をしている。
 シスターは俺だけでなくスラタロウにも挨拶を返してくれた。
 本当にいい人だ。今日は頑張らないと!

「さて、この後の流れはいつも通りになります。炊き出し用の調理用具の設置をまず行います。その後は調理を行い準備が出来たら配膳を行います。また、炊き出しの横で無料診療所を開設して、街の皆さんの治療を行います」
「わかりました」
「鍋は大きいので気をつけてください」

 最初は調理用具の設置か。
 こういうのに使用する鍋は大きいので、頑張って運ばないと。
 教会の中にある倉庫に鍋はしまってあったが……
 うんデカい。それに鉄製だから重そうだ。
 台車に乗っているから運搬は楽だけど、台車に乗せたり降ろしたりが大変だ。
 何人かシスターが手伝いに来ているけど、これは大仕事だ。
 取りあえず台車を動かして教会の前の広場に持っていって、うーんこれは重そうだ。

「おや? スラタロウ魔法使うの?」

 サリー様に抱かれていたスラタロウが魔法を使いたいみたいだ。
 何の魔法を使うのかな? っと思っていたら……
 うおーい、あの巨大な鉄鍋が持ち上がって、火を起こす所にセットされたぞ!
 あの重い物も念動で動かせるのかよ。
 俺は頑張ってもまだ軽いものしかダメなんだぞ!

「スラタロウすごいすごい!」
「あらー、いつ見てもスラタロウはすごいわね」
「あの重い鍋をいとも簡単に……」
「やっぱりいつ見ても、物凄いスライムだ」

 サリー様は大はしゃぎで、マリー様も流石スラタロウって感じで見ている。
 このお二方は、お屋敷でスラタロウの魔法訓練の様子を見ているから納得だ。
 護衛の騎士さんもびっくりしているが、何とか大丈夫の様だ。
 ちなみにスラタロウはドヤ顔の様だ。

「「「……」」」

 ほら、シスターさん達がみんな唖然としているよ!
 固まっちゃっているよ!
 口開けて、ポカーンとしているよ!

「ほらほらシスター、お次の指示をお願いします」
「こほん、失礼しました。調理の準備をして、食材を調理しましょう。今日は塩味の鍋になります」

 マリー様がシスターに次の指示をお願いしていた。
 若干マリー様もドヤ顔だよ。ニマニマだよ。

 教会の倉庫から机と調理道具を持ってきて、ついでに無料診療所用のテントも持ってくる。
 スラタロウはまた念動を使って次々に荷物を運んでくる。
 もうシスターさん達も何も言わなくなったよ……

 流石に救護用テントはスラタロウには組み立てられないので、護衛の騎士さんと一緒に男手で組み立てた。
 せっかく来たのに、このままではスラタロウに美味しい所全部持っていかれる。
 俺と騎士さんの意見が合致した瞬間だった。そうだ、俺たちは同志なんだ。

 さて、こう見えて俺は料理は得意だ。だてにソロキャンパーじゃないぜ!
 包丁さばきもお手の物だ!
 次々に食材を切っていく。

「わー、すごい包丁さばき!」

 おお、シスターの熱い声援が。
 俺ももっと頑張るぜ!

「見て! あのスライム何でも出来るんだね!」
「すごいすごい!」
「かっこいい!」

 あれ? シスター達の声援がスラタロウに?
 何やっているんだ?
 ふとスラタロウの方を見ると、シスター達だけでなく街の人もスラタロウの事を囲んでいるぞ。
 一旦区切りがいいので、スラタロウの方に行くと……
 そこには様々な魔法を駆使して料理を行うスラタロウがいた。

 野菜を空中に念動で浮かばせ、エアカッターを固定して野菜を動かして皮を剥く。
 ピーラーみたいだな……
 野菜の皮を剥き終わったら、エアカッターで次から次へと野菜を切っていく。
 まるで野菜が踊っているようだ……
 切った野菜を、鉄鍋に念動で入れていく。
 俺が切った分まで入れてくれるのね、ありがとう……
 わざわざ井戸の水を汲むまでもなく、ウォーターボールを使って鍋に水を入れる。
 ちゃっかりシスターさんの負担も減らしている……
 調味料を入れ、鍋の火おこしをファイヤーボールで行った。
 火加減もばっちりね……
 火加減の管理と同時並行で、生活魔法で調理の後を綺麗にしているよ。
 衛生面もばっちりだね……
 念動で中身を少し取り出して味見をしている。
 どうやらばっちりの様だ……

「うおー! すげー!」
「あんなスライムいるんだ!」
「おお、これぞ神の奇跡じゃ」

 スライムが様々な魔法を使って調理する様は、特に街の人に大ウケだった。
 野菜が宙を舞う様子は、さながらサーカスだ。
 中にはスラタロウを神の使いと勘違いして拝んでいる人もいるよ。

 ふと護衛の騎士の人と目があった。
 そうだ、せっかくの男手だから頑張ろうとした。
 でも、結局スラタロウに全部美味しいところを持っていかれた。
 表面上は涙を流さない。
 でも俺と護衛の騎士は、心の中で盛大に涙を流していた……

 色々あったが何とか炊き出しの準備は出来たようだ。
 気を取り直して診療所で治療の準備だ。
 サリー様の聖魔法の発動で、俺も回復魔法の感覚を覚えて使えるようになった。
 魔法量は結構あるみたいだから頑張らないと!

 診療所も準備が出来たので早めに治療を開始。
 治療を行うのはサリー様とスラタロウと俺。
 重傷者をサリー様、中程度をスラタロウ、軽傷を俺が分担して対応。
 サリー様も初めてだから、普段治療を行っているマリー様がサポートに入ります。
 騎士さんが患者の振り分けをおこなっている。
 俺も騎士さんも炊き出しの分を取り返そうと思い、やる気十分だ。

 治療始めて一時間。
 一向に治療の列が途切れない。
 どうも噂で良い治療が受けられるとの情報が広がって、周辺の街からも患者が集まっているそうだ。

「領主様の娘さんが、重傷者も治してくれるそうだ」
「小さいのに大したもんだ」
「可愛いのに頑張っているのはいいな」

 サリー様の噂は大きいようだ。
 今までは領主の奥様がやっていたものが、今度は小さい娘さんが治療をおこなっているとあって、評判もいいようだ。
 だが……

「とんでもないスライムがいるそうだ」
「スライムでも、魔法を自在に操る賢者様だ」
「炊き出しの料理もあっという間に行ったという。まさに神業だ」
「あのスライムは、まさに神様のお使いだ」

 サリー様以上に、スラタロウの噂が物凄い事になっているようだ。
 魔法を自在に使うスライムが、教会で無料で治癒をおこなっている。
 もうそれだけで奇跡だというのだ。
 中には神の使いと崇める人もいる。

 ちなみに俺の噂は特になかった……

 治療始めて二時間。
 サリー様も流石に疲れてきているみたいだ。
 治療を受けた人から頭を撫でられたり、甘いお菓子を貰ったりしている。
 スラタロウはまだまだ余裕。平然と魔法を使っている。
 どうもたまに聖魔法を使って、サリー様の分を受け持っているようだ。
 てか、いつの間にか聖魔法を覚えたんだ?
 そしてスラタロウの前には、何故かお供え物が多数置いてある。
 これだけあると、本当に神の使いと勘違いしそう。
 俺もひたすら回復魔法を使う。
 回復魔法使うには慣れてきたけど、流石に疲れてきた。
 ちなみに俺の前には何もない。もう期待もしていないよ。

 しかし全く治療希望者の行列が途切れない。
 ……もしかしてデスマーチ突入?