「ルキアさん。掃除道具を借りたいんですけど、どうすればいいですか?」
「御館様より伺っております。少々お待ち下さい」

 お婆さんのお店の清掃二日目。
 朝食を食べ終わった俺たちは、担当しているメイドさんのルキアさんに掃除道具を借りる件について聞いてみたら、既にバルガス様より話が入っていたらしく、直ぐに動いてくれた。
 流石バルガス様、仕事が早い。
 モップや雑巾などの掃除用具を受け取り、アイテムボックスに入れて出発かと思ったら、ルキアさんから声がかかった。

「サトー様、ミケ様。今回のご依頼では、どちらのお店に行かれるのでしょうか?」
「『ミルカ魔法具店』だよ!」
「そうですか……。少々お待ちいただけますでしょうか」

 ミケが行き先を告げると、ルキアさんがなんか考えてどこかへ行ってしまった。
 どこに行ったんだろう? と、ミケと顔を合わせていたら、すぐにルキアさんがきた。

「私も一緒に行っていいでしょうか?」
「え? いいですけど、お仕事とかは大丈夫でしょうか?」
「私は今はサトー様専属の様なものですので問題ありません。どうかお願いします。あとお金の心配はありません」
「わかりました、よろしくお願いします」
「無理言って申し訳ございません。よろしくお願いします」
「わーい、お姉ちゃんと一緒だ!」

 何故かルキアさんも一緒に掃除に行ってくれる事になった。しかも報酬は不要という。
 ミケは一緒に来てくれると言うことで喜んでいた。

 何故ルキアさんが掃除を手伝ってくれるかは、お店への道中で教えてくれた。

「私は元はこの街に拠点を置く冒険者だったんです。その時に『ミルカ魔法道具店』のお婆さんにはとてもお世話になりました。怪我をして冒険者を辞めないといけない時にも色々相談に乗ってもらいました。幸にして私は今の職にありつけましたが、言わばあのお婆さんは私の恩人なのです」
 
 人に歴史あり。
 今こうしてルキアさんがメイドとして働けるようになっているのも、きっとお婆さんが相談に乗ってくれたからだな。あのお婆さん、優しそうだったし。

 そうこうしているうちに、お婆さんのお店に到着。
 お婆さんの容体は良くなったかな?

「おばーちゃーん、お掃除にきたよ!」
「おや、おはようミケちゃん。今日も元気だね」
「うん、ミケは元気いっぱいだよ! お婆ちゃんは腰大丈夫?」
「ああ、だいぶ良くなったよ。ミケちゃんのおかげだよ」
「えへへ!」

 ミケはお婆さんに頭を撫でられていてご機嫌だが、確かにお婆さんの容体は昨日よりも明らかに良くなっているみたいだ。

「お婆様、お久しぶりです。ルキアです。以前はお世話になりました。お婆様の調子が悪いと聞いて居ても立っても居られなくて、一緒に来ました」
「おやまあ、懐かしい顔だよ。立派に働いていてわしも安心だよ」
「いえいえ、お婆様が相談に乗ってくれなければ、私はダメだったかもしれません。大怪我で自暴自棄になっていたと思います」
「そんな事ないぞい。このババアはちょっと話を聞いただけじゃ。立ち直ったのはお主の力じゃよ」
「お婆様……」

 ルキアさんもお婆さんの手を取って話しているけど、ルキアさんお婆さんに良くしてもらっていたから涙目だ。
 そんなルキアさんを優しそうな目で見つめるお婆さん。
 凄い人だな。このお婆さんに助けられたって人はいっぱい居そうだな。

「さて、今日は店舗の方も頑張ろう。ミケとシルは昨日と同じ拭き掃除とかお願いしてもいいかな? スラタロウは負担が大きいけど、色々なところを頼む」
「ミケにお任せだよ! ピッカピカにするよ」
「我にかかれば掃除など、造作もない事だぞ。任せるが良いぞ」

 ミケとシルは昨日に続いて力仕事を頼んだ。スラタロウはしつこい汚れの分解洗浄。本当にスライムの力は凄いよ。スラタロウもやる気満々のようだ。

「ルキアさん。申し訳ないですが、洗濯物とお婆さんの体を拭いてあげてくれませんか? 俺は食事と薬の用意をします」
「お任せ下さい、サトー様」

 分担も無事決まってお掃除開始です。

「ミケよ、ドアと窓を全て開けるのだ」
「シル、開けたよ」
「よくやったぞ、ミケ。さて、いくぞ『風のブレス』」
「おお! シルすごい! ホコリが全部吹き飛んだ!」
「我にかかれば、こんなもの簡単だぞ」

 うおーい、シルさんや。ブレスで商品が落ちないようにホコリだけ吹き飛ばすとは……
 あんたやっぱり物凄いオオカミだね。
 俺の後ろのルキアさんとお婆さんもびっくりしているぞ。
 まあ、掃除が捗る分にはいいんだけどね。

 お昼も近くなり、だいぶ店舗の方の清掃も済んできた。色々な所がピカピカになってきた。
 ルキアさんにお願いしていた洗濯なども終わって、今はまとめて干している所。
 今日は天気も良いし、よく乾くでしょう。
 そして一番凄いのがスラタロウ。なんと錆汚れなども溶かしてそこら中綺麗にしていた。
 スライム恐るべし……

 お昼ご飯を近くの屋台でとり、午後の作業を始める時に来客があった。

「おう、婆さん、入るぞ」
「え?」

 突然入ってきたのは冒険者と思われる男性三人組。
 お婆さんの知り合いなのかな?
 その答えはルキアさんが知っていた。

「ビルゴさん! どうしてここに?」
「ルキアか。今は領主様の所にいるんだろ。お前こそどうしてここにいるんだ?」
「私は、お婆さんのお手伝いに来ています」
「俺は婆さんに関する噂を聞いてな。それでここに来たんだ」

 なんでも昨日俺らが依頼でお婆さんの家に入っていくのを近所の人が見て、お婆さんに何かあったのでは? という噂が流れたらしい。
 このビルゴさんたちは、その噂を聞いてこの店にやってきたという事の様だ。

「ビルゴさんは私が冒険者の駆け出しの時に、色々面倒を見てくれました。顔に似合わず優しいんですよ」
「顔に似合わずは余計だい。と言うことで、俺らもここの婆さんに世話になったから、確認に来たんだ」
「そうなんですね。あ、俺はサトーです。この子がミケで、オオカミがシル。スライムがスラタロウです。昨日冒険者登録したばっかりの駆け出しです」
「ビルゴだ、婆さんが色々世話になった様だな」
 
 見た目はいかついけど、お婆さんが心配で様子を見にくるあたり、ビルゴさんは優しい人なんだな。

「おやまあ、今日は懐かしい顔が揃っているねえ。お前さんも元気でやっているみたいだね」
「婆さんは、あまり元気じゃないみたいだな。医者や神官には見てもらったのか?」
「なかなか動くのも手間でね」
「よっしゃ。なら俺が背負って神官の所に行ってやる。お金は気にするな、それぐらい稼いでいるぞ」
「でも悪いよ」
「大丈夫だ、サトーよ、ちょっくら婆さんを借りていくぞ」
「待って、ミケも行くー!」
「お、嬢ちゃんもくるのか? 遅れるなよ」
「うん!」
 
 お婆さんを背負ったビルゴさんとミケは、あっという間に見えなくなってしまった。
 これには残った人も苦笑です。

「えーっと、続きをやりますか」
「そうですね、帰ってくるまでには終わらせたいですね」
「「あっしらも手伝います」」

 ビルゴさんと一緒に来た人も手伝ってくれた。駆け出しの頃は掃除ばっかりだったと、笑いながら言っていた。
 この街でお婆さんに世話になった人は多いらしいが、初心者向けの依頼が多いため、ある程度稼げるようになると別の街に行ってしまうらしい。
 
「帰ったぞ」
「お兄ちゃん、ただいま!」

 二時間もしない内に、ビルゴさんとミケとお婆さんが帰ってきた。
 神官に回復魔法をかけてもらったらしく、だいぶ顔色が良くなっている。
 こっちも掃除や洗濯も終了で、最初にきた時と比べると全く別の場所の様にピカピカになっている。

「みんな、こんなババアの為に色々ありがと。まだ長生きしないといけないねえ」
「「「ははは!」」」

 みんな笑っていい感じに終了です。
 色々あったけど、最初の依頼はこれで完了。
 最初だったけど、いい経験になったなあ。

「サトー、俺らはしばらくこの街にいるから。またあったらよろしくな」
「はい、今日はありがとうございます」
「おう!」

 ビルゴさんは別に行くところがあるらしく、お婆さんのお店の前で別れた。
 また会えたらいいなあ。

「さてサトー様、ギルドに完了の報告をしませんと」
「そうだよお兄ちゃん、早く行こう!」

 ミケに引っ張られて、ギルドに行き完了報告。
 依頼金は、ミケのギルドカードに入れて貰った。
 ミケが見つけた依頼だもんね。
 ルキアさんとみんなと一緒にお屋敷への帰り道、ルキアさんのスッキリした表情が印象的だった。
 
 その夜、ミケはご飯の時にどれだけ頑張ったかをみんなに一生懸命説明していて、ビアンカ殿下やバルガス家の人が、ミケの事を微笑ましく見ていた。