ちゅんちゅん。

 風が木々を揺らす音と、日差しの温もり。
 心地よい感覚の中、サトーは目覚めた。

「うーん、ここが新しい世界か」

 街道と思わしき整理された道。
 道の端にある木によりかかった状態で目覚めた。
 服装は普段着ていたスーツではなくカジュアルな感じの服装。
 右脇には、例の眷属という白い大きなオオカミが寝そべっていた。

「……うーん……」

 ふと、誰かが俺の足で膝枕している感触……
 視線を下げると、そこには何故か三毛の六歳位の猫耳幼女がすやすやと……
 
「えへへ、サトーさん……お兄ちゃん……」

 わーお、何かキケンなことをしゃべっているぞ、この猫耳幼女。

 普段なら猫耳に目がいって頭を撫でたくなる俺だが、今は汗が止めどなくダラダラ流れている。
 ……異世界に来て早々、何かやってしまったのか? 俺は……
 いや、何も記憶はない。多分何もやっていないはずだ。
 そう信じよう。

「うーん」

 もぞもぞと動いてしまったせいか、猫耳幼女がパチリと目を覚ました。
 
「うーん……。あ、お兄ちゃんだ!」

 目を覚ました猫耳幼女は、俺の胸に飛び込んで来て、頭をぐりぐり押し付けて来る。

「えへへ、お兄ちゃんの匂いだ……」

 そのまま、猫耳幼女はうっとりしながら俺の匂いを嗅いでいる。
 ……一体何が起きているんだ? 異世界について起きたら、いきなり猫耳幼女に抱きつかれている。
 
 からからから。

 何か音が聞こえたかと思ったら、その音が止まった。
 顔を上げると、一台の馬車が止まっていた。結構豪華な馬車だ。
 馬車の窓が開いていて、貴族っぽい誰かがこっちを見ていた。
 前後には騎士っぽい人が護衛している。
 そうか、ここは街道っぽい所だった。

 ……あれ? もしかして、今猫耳幼女に抱きつかれている所、ばっちり見られている?
 馬車の御者の人も、馬車の中にいる高貴っぽい人も、騎士の人も……ニヤニヤしている……
 
「「ヒヒーン」」

 おい、馬もニヤニヤかよ!。

「……お兄ちゃん……」
 
 猫耳幼女は相変わらずくっついたままだ。
 もしかして馬車に気が付いていない?

 ピュー。
 ふと風が吹いたタイミングで、馬車は何事もなかった様に動き出した。

 からからから。

 馬車の走る音が遠ざかって、見えなくなっていく。

 俺の異世界ライフは、出だしで終わったかもしれない……