「ふう」
「そういえばシル、大人しかったなあ」
「主人、あのギルドマスターという女性はとんでもない達人だぞ。我思わず緊張してしまったぞ」
「ああ、なるほどね」

 その気持ちはよく分かる。マリシャさんの前では緊張するよね。
 スラタロウもその意見に同意って感じで揺れていた。

「サトー様、ちょうど良い所に。手続きが完了しました」
「お、タイミングが良いなあ」

 一階に降りてくると、受付のお姉さんが声をかけてくれた。
 番号札をお姉さんに渡して、俺とミケのギルドカードを受け取った。

「こちらが新人冒険者向けの冊子となります。後は一人づつに容量が小さいですがマジックバックもありますのでお持ちください。武器などは入れることが出来ます」
「はーい!」

 ミケが元気よく手を上げるが、マジックバックをもらえるのは助かるなあ。

「冒険者はSからGまでのランクがあり、それぞれ受けられる依頼内容が異なります。実績に従ってランクが上がっていきます。ただ、GからFに上がるためには新人者講習を受けてもらう必要があります」
「分かりました、一番早い新人者講習はいつですか?」
「三日後になります。まだ空きがありますので予約されますか?」
「それでお願いします」
「かしこまりました。三日後のお昼からになりますので遅れないようにしてください」

 新人者講習も予約完了したから、今日はもう終わりかな? って思った所にミケが受付のお姉さんに質問してきた。

「お姉さん、今日は依頼受けちゃダメなの?」
「ミケ様、もう依頼を受けることは可能です。Gランクのものでしたら大丈夫ですよ」
「やった! お兄ちゃん依頼受けようよ!」

 ミケは依頼受ける気満々だ!依頼の掲示板は見ていこうかな?

「サトー殿、我々はもう少し話していくが、この後はどうしますか?」
「あらあら、ミケちゃんはもうやる気満々なのね」
「隊長さん、マリシャさん。俺たちは依頼を見ていきます」
「そうか、帰りの時間がわからないから帰りは別々だな。サトー殿も気をつけてな」

 隊長さんとマリシャさんと別れ、ミケ達と先ずは依頼掲示板に行った。

「いっぱいあるね!」
「そうだな」
 
 依頼はたくさんあるが、ランク毎に分かれていてとても見やすい。
 Gランクはっと、なるほどお掃除や荷物運びなど、街を出ない依頼だけになっている。
 街に出れるのはFランク以上なんだ。だから外に出るために新人者講習が必須なんだな。
 そんな事を思っていると、ミケが一枚の依頼書を持ってきた。

「お兄ちゃん、おばあちゃんが困っているんだって。これにしない?」

 どれどれ? とあるお店の清掃の依頼か。依頼主がお婆さんで、腰を痛めて動けないらしい。
 依頼料は最低料金だけど、お金に困っている訳ではないから問題はないな。
 特に期間は決まっていないようだ。 

「よし、これにしようか」
「うん!」

 初めての依頼内容決定だ。

「サトー様、ミケ様。依頼は決まりましたか?」
「うん、これお願いします」
「はい、かしこまりました。ギルドカードの提示をお願いします」

 依頼書を、冒険者登録を受付してくれたお姉さんに持っていって依頼書の処理をしてもらう。
 おや、依頼書にあるバーコードの様なものをハンディみたいなので読み込んでいるぞ。
 ギルドカードもハンディみたいなので読み込んでと。
 マネーカードもそうだけど、最先端な技術を使っている所もあるんだな。
 
「はい、手続き完了です。依頼頑張ってくださいね」
「はーい!」

 手続きが完了し、ミケが元気よく手をあげています。
 依頼者はギルドから五分くらいの所に住んでいるみたいです。

 ギルドを出ると、ちょうど隊長さんが帰る所だった。

「隊長さん、これからお帰りですか?」
「はい、これからお屋敷に戻る所です。サトー殿は依頼ですか?」
「うん! お店をキレーにするんだ!」
「おやおや、ミケ殿。それは頑張らないといけないですね」
「ミケ頑張るよ!」

 隊長さんと別れ、依頼者の元へと向かう。

「ふんふふふーん!」

 ミケは初依頼でご機嫌だ。
 ミケとシルと先頭にして住宅街を進んでいきます。

「あった、ここだ!」

 ミケが依頼者のお店を見つけたようだ。
 『ミルカ魔法具店』と看板が出ていたが、お店はやっている気配がない。
 ドアに鍵もかかっていないようだ。

「こんにちはー、誰かいますかー」
「こんにちは、どなたかいますか?」

 返事は返ってこなかった。

「主人、奥に人の気配がするぞ」
「もしかしたら、腰を痛めていたというから、動けないのかな?」
「それは大変だよ。お兄ちゃん行こう」

 ミケが促すので、中に入っていく。

「お邪魔しまーす」
 
 店内と思われるところは埃がだいぶ溜まっていた。
 奥に進んでいくと生活スペースになったが、だいぶゴミが溜まっていた。

「あ! お婆ちゃんいた!」

 ミケがお婆さんを見つけた様だが、お婆さんはベットから動けないようだ。

「お婆ちゃん、大丈夫?」
「うう。おや、可愛い猫耳のお嬢ちゃんだね。こんな所にきてどうしたんだい?」
「依頼で来たんだよ。お婆ちゃん、腰痛いの?」
「歳もあってね、なかなか良くならないんだよ。いたた……」
「お兄ちゃん、お婆ちゃん助けて」

 依頼とは違うけど、目の前で弱っている人を見過ごせないよ。
 確かアイテムボックスの中に、痛み止めと湿布があったはず。

「まず生活空間の掃除をしよう。店舗の方は後だ。俺がお婆さんをみるから、ミケとシルはこの部屋を片付けてくれ」
「わかった! お掃除頑張るよ!」
「我に任せるが良い」
「スラタロウは……、うん、そのまま頼む。手が空いたらトイレとかもお願いできるか?」

 スラタロウはこちらに手を振りながら、台所の汚れを溶かして綺麗にしていた。
 よくよく考えれば、スライムは掃除の達人だ。
 ミケは高い所も軽々と綺麗にしていき、シルも器用に雑巾を使って床を拭いていた。
 俺はお婆さんをみてみよう。

「お婆さん、背中と腰に湿布を貼りますね、あと軽く食べるものを作りますので、その後にお薬を飲んで下さい」
「何から何まで悪いねえ」

 お婆さんの背中に湿布を貼り、スラタロウが綺麗にした台所で簡単な食事を作る。
 水と食料はアイテムボックスから出した。

「あ、ミケが食べさせてあげる」
 
 掃除がひと段落したミケが、お婆さんにご飯を食べさせる役に立候補した。

「お婆ちゃん、熱いから気をつけて食べてね」
「ありがとうねお嬢ちゃん」
「ミケはミケって言うんだよ」
「そうかい、美味しいよミケちゃん」
「えへへ」

 お婆さんに頭を撫でられてミケはご機嫌だが、この建物の掃除はちょっと大変だぞ。
 手持ちにある掃除道具だけでは足らない。
 バルガス様にお願いして、モップとかを貸してもらおう。
 時間もかかったし、今日はここまでだな。期限も決まっていない依頼だったし。

「お婆さん、今日はここまででまた明日来ます。ご飯は余分に作ってあるので、後で温めて食べてください」
「何から何まですまないね」
「お婆ちゃんのお身体の方が大事だよ。また明日来るね!」

 お婆さんに明日また来ることを伝え、お屋敷への帰り路となった。

「ミケさん、初めての依頼はどうでした?」
「キチンと出来たかい?」
「今日はお婆ちゃんのお店のお掃除をしたんだ」
「まあ、それは凄いですね」
「ミケちゃんすごい!」
「えへへ、でも今日だけでは終わらなかったから、明日もお掃除に行くんだ。お婆ちゃん、腰が悪くて動けなくて……」 

 夕食時にビアンカ殿下とマリー様とサリー様がミケに初めての依頼の事を聞いてきて、ミケが答えていたのだが、お婆さんの腰が悪い所でトーンダウンしている。猫耳もへにゃってなっている。

「サトー殿、そのご婦人は大丈夫なのかい?」
「見た感じ、腰を痛めているだけの様でしたので、俺が持っていた湿布と薬を飲んでもらって安静にしてもらっています。でもどこかでキチンとお医者様に診てもらった方が良いですね」
「そっか……。先ずはサトー殿がみていただいたことに、この街の領主として感謝する」
「いえいえ、人として当然の事をしたまでです」
「それが言えるのがサトーの美徳よのう。所でバルガス卿よ、弱者の医療福祉はどうなっておるのじゃ」
「これはビアンカ殿下、耳の痛い所を。定期的に回復持ちの神官に巡回をお願いしておりますが、なかなか全てには行き渡らないのが現実です」
「バルガス卿よ。そなたは良くやっておる。弱者切捨の領主など珍しくもない。サトーは先ずは目の前の老人を救うことに注力せよ」
「ビアンカ殿下、わかりました」

 バルガス様がどんなに凄い領主としても、全てを救うことは難しいからなあ。
 こればっかりはしょうがないのかもしれない。
 あ、そうだ。バルガス様に掃除道具の事を確認しないと。

「バルガス様、一つ相談が。明日また清掃に行くのですが、その際に掃除道具を貸していただけませんか」
「サトー殿、いくらでも使ってもらって結構です。世話役のメイドに声をかけていってください」
「ありがとうございます」

 これで掃除道具の手配は大丈夫だ。
 後でメイドさんに色々相談しようと。

 明日は早く出かけるから、今日は夜更かしなしでみんな早く寝てしまいました。