「はわー!」
「これは大きい」
「こんな所に仕えるなんて」
「わー、凄い大きいね!」

 予定通り、翌朝に我が家に仕えてくれる人を迎えにいった。
 最終便だったチナさん達を迎えたら、お屋敷の大きさに驚いていた。
 でも、ルキアさんの所も大きいと思うけどな。

「わーい、チナお姉ちゃんだ!」
「本当だ!」
「久しぶりー!」
「わーい!」
「これからもよろしくね!」

 と、ここでミケ達がチナさん達に抱きついてきた。
 一緒に薬草取りもしたし、馬車にも乗って旅もしたし、知っているお姉さんと一緒で嬉しいのだろう。

「ミケちゃんはいつも元気ですね」
「うん! ミケはいつも元気だよ!」

 チナさんは、抱きついてきたミケの頭を撫でていた。
 でも、この後で纏めて自己紹介するけど、びっくりしなければいいな。

 新しい人も含めて屋敷の面々を、パーティールームに集めた。
 こういうときに、大きい部屋があると役に立つ。

「知っている方も多いかと思いますが、改めて紹介します。サトーです。ライズ姓と伯爵を賜っております」
「シルクです。ランドルフ姓と子爵を賜っております」
「ミケだよ! リンドウって名前と子爵でもあるよ」
「レイア。サルビアの姓で男爵」
「「「ミケちゃんが子爵!」」」

 皆さん、予想通りにミケの所で一番驚いた。
 というか、俺が伯爵だといったらやっぱりねという反応だったよ。
 うーん、殆どの人には一般人で会っていたはずなんだけどな。

「サトーの婚約者で、エステルです。王女でもあるけど、ついでに覚えておいてね」
「リンです。同じくサトーさんの婚約者です。バスク名誉男爵を賜っております」

 この辺は知っている人が多いので、特にこれという反応はない。
 普通の反応にエステルが不満気だが、そこは無視をしよう。

「妾はビアンカじゃ。王女でもあるが、公務の関係でここにはよく来る」
「あとの子は、俺が保護下に置いている子ども達です。姓を名乗るとなると、ライズ姓になるのかな? 後は元々一緒に行動していた方で、使用人でもありますが一緒に冒険者としても活動します」

 うん、ここまではいい。ここまでは。
 ビアンカ殿下も知っている人が殆どだし、自己紹介しても何も問題はない。

「アーサーだ。エステルとビアンカの父親をやっている。ついでに国王もやっているがな」
「エリザベスよ。たまに息子のアルスや孫のウィリアムと一緒に来るからね」
「フローラです。エステルの産みの親ですよ。不出来な娘だけどよろしくね」
「ライラックですわ。私もよく遊びにくるので、よろしくですわ」

 何故あなた達まで、当たり前の様に自己紹介しているんですか!
 新しい使用人の人は、完全にフリーズしているぞ。

「娘の嫁ぎ先なのだから、挨拶に来て当然だろう」
「そうですわ。今更ですわよ」
「娘の事をビシバシやってくれないと」
「また直ぐに、お茶会をしますしね」

 えーっと、エステルやビアンカ殿下も白い目で親を見ているぞ。
 チナさん達は、陛下達への反応に困っているし。

「陛下、作業が完了しました」
「おお、そうか。では皆で見に行くか」

 あの、陛下。
 殆どの人が二階にいる間に、一体何をしたんですか?
 お付きの人まで良い仕事したって、汗を拭っているぞ。

 皆で一階にいくと、玄関入ってすぐのホールに何やら布で隠された額縁みたいたものが取り付けられていた。

「サトーよ、布を取るように」
「分かりました」
「「「おー!」」」
「えー、なんじゃこれは!」

 布を取ると、俺が女装した姿の絵が書いてあった。
 いや、よく出来ているけど、これはちょっと恥ずかしい。
 そんな中、よく分かっていないチナさんが質問してきた。
 フローレンスとかは、炊き出しの時に正体を知っていたっけ。

「はー、綺麗な女性ですね。どなたなんですか?」

 周りの人は、一斉に俺のことを指差ししている。
 チナさん達は、はっ? っていった表情になっている。

「サトーの女装した姿。それが聖女サトーの正体じゃ。聖女サトー、勇者ミケ、知の令嬢レイア。聞いたことあるかもしれんがのう」
「サトーさんが、あの救国の聖女サトー様? えー!」

 ビアンカ殿下がニヤニヤしながら答えると、チナさんの絶叫がホールに響いた。
 よく見ると、バルガス様から推薦された小さなメイドさんも目を白黒させている。
 
「すみません、気が動転しまして……」
「いや、気持ちはよく分かります」

 応接室に四人を連れてきて、簡単な説明をする。
 ちなみに陛下と王妃様達は、良い仕事をしたと帰ってしまった。

「本当にサトーさんが、聖女サトー様なのですか?」
「はい、そうです」
「お兄ちゃんがお姉ちゃんになったんだよ!」
「近々炊き出しをする予定なので、直ぐにわかりますよ」

 チナさん達は未だに理解できていないけど、こればっかりは納得してもらうしかない。

「女装した方が絶世の美女なんて、女である自身がなくなってしまいます」
「それは妾もよくわかるのじゃ」
「女として自信がなくなりますよね。しかも殆ど化粧とかしないし」

 おい、そっちですか!
 皆も納得しないで下さいよ。

「はあ、ちゃんと出来るか不安です……」

 そして、小さなくま獣人のクマミちゃんは、ここで仕事をするのが不安な様だ。

「聖女様に憧れて田舎から聖女様を見出されたバルガス様の所に行ったら、まさか聖女様本人のお屋敷で働くなんて……」
「いやいや、そこまで気構えなくていいんだよ。一般人だったし、最初は失敗なんて当たり前なんだから」

 しゅんとしてしまったクマミちゃんに、急いでフォローを入れる。
 誰だって、最初は失敗はつきものだから。

「それに勇者様までいるとなると、緊張してしまって」
「勇者ってミケのこと? そんなことないよ」
「でも、もし失敗してしまったらと考えたら……」
「大丈夫だよ。もう家族なんだから」
「家族、ですか?」
「そう。ミケとクマミちゃんにチナお姉ちゃんも、みんなみんな家族だよ!」

 ミケらしい考え方だな。
 まあ、家は基本アットホームな感じでやっているし、間違っても貴族主義の連中とは違う。
 って、クマミちゃんがボロボロと泣き始めたぞ。

「わあ、ミケが何か変なこと言っちゃった?」
「違います。クマミは孤児だったので、家族って言ってくれたのが嬉しくて」
「そうなんだね。これからはずっと一緒だよ!」

 ミケはまだ泣いているクマミちゃんを、ギュッと抱きしめていた。
 よくよく考えると、うちにいるのは天涯孤独の人が多いので、そういう意味でも大きな家族というのはいい考えなのかもしれない。