朝食前、ニードルラットと遊んでいるマシュー君を見つめているアメリア様達がいた。
 何だかため息をついているが、何かあったのかな?

「ため息なんてついてどうしたんですか?」
「サトー様。私達はあの子の為に何とかならないかと、無い知恵を振り絞って生きないといけないと思ってました」
「それがサトー様の保護下になる事ができ、身の安全が確保されました」
「全財産の没収となると思っている所に、昨日の薬草取りで得た大金。更にあの子達は指名手配を捕まえた懸賞金が入りました。私達はこんなに幸せでいいのか、ふと考えてしまいました」

 実家の大不祥事で一族連座で死刑になってもおかしくない所を、陛下や王妃の配慮で救われた。
 しかも一文無しになるところだったのに、当面の資金も手に入ってしまったのだ。
 まだ八歳の少女には、多くの事がありすぎて考えが追いついていないのだろう。

「今は俺達大人に頼っていいんですよ。成人になるにはまだまだですし、一人で抱え込まないでいいんです」
「そうでしょうか?」
「そういうものですよ。せっかく弟を守って生きていくって決意したところですけど、もう少し大人を頼って子どもらしくしてもいいと思いますよ」

 アメリア様達は考えていた。
 俺としては、アメリア様達ももう少し子どもでいても問題ないと思うな。

「よーし、ボール投げるよ」
「エーちゃん投げて!」

 マシュー様に混じってボール投げをしているエステル殿下は、もう少し大人になってもらいたいが。

「サトーよ、軍の引き継ぎも終わったので儂を王都に送ってくれるか?」
 
 新しく国境に配置された軍も問題なく稼働したので、軍務卿も王都に帰るという。
 思えばブルーノ侯爵領からの、ちょっとした付き合いになったな。
 アルス王子のいる国境に孫のヴィル様を迎えに行き、そのまま王城の控室にワープした。
 控室ではまたもや陛下が何かを食べていたが、もう気にしないことにした。

「サトーが王都で一段落ついたら、晩餐会を開こう」
「皆さんで是非きてくださいね」

 軍務卿とヴィル様からお誘いがあったので、王都についたら連絡しよう。
 ちなみにうさぎ獣人のミミは、このまま軍務卿と一緒に過ごすという。
 なんだかんだで、随分と軍務卿に懐いたものだ。
 軍務卿と握手をして、ギース伯爵領に戻った。

 ギース伯爵領に戻って皆で会議。
 というのも、遺体の埋葬も終わり仮の建物もできたので、俺達もゴレス侯爵領に行かないといけない。

「通常の馬車で三日なら、私達なら二日もあれば着きますね」
「ゴレス侯爵領に人を戻すなら手分けしてワープでいいし、内部の調査を行わないといけませんね」
「うむ、場合によっては人道支援を行わないとならん。手分けする必要があるのう」
「となると、フルメンバーで現地に向かうのが良さそうですね」

 ゴレス侯爵領の隣のブラントン子爵領とマルーノ男爵領は、歩いても半日で着くという。
 ならばまずはゴレス侯爵領に向かうことにする。

「俺達は明日にでもブルーノ侯爵領に戻ります。まあ、依頼を受けているので直ぐにきますよ」

 ブルーノ侯爵領騎士団も明日領地に帰るが、その後工兵を依頼されたメンバーは再びギース伯爵領にやってくる。
  
「俺達も、今日は準備にあてて明日朝出発しましょう」
「そうじゃのう。ついでじゃから、散財してギース伯爵領に金を落とすとするか」

 ということで、明日に向けて買い物をすることになったが、メインは新しく加わった人のみ。
 つまり女性陣の買い物になる。
 この話を聞いた瞬間、シルは猛ダッシュで逃げていった。
 もう女性の買い物が、すっかりトラウマになっているよ。
 という俺も苦手なので、ちゃちゃっと買い物を済ませて書類整理に戻った。

「気持ちはわかります。ヘレーネと買い物に行くと、いつも長いですよ」
「男は黙って待つしかないので辛いですよね」
「うちは、最近まだ小さい娘の買い物も長くなってきました」

 書類整理をしつつ、皆で女性の買い物あるあるを話していた。
 男性は皆買い物で苦労しているんだな。
 共通の話題があると皆の会話も盛り上がるが、女性の悪口にもなるので程々にしておく。

「ピィ」

 突然現れたショコラが、手紙を咥えていた。
 何々? 午後も買い物をします。お昼は屋台で食べてきます。
 ショコラは連絡できた事に満足して、女性陣の所に戻っていった。
 危なかった。買い物に参加していたら一日コースだったよ。
 女性にとって買い物はストレス発散だから、この機会に買いだめするつもりだろう。

「ねーね、遅いね」
「遅いね」
「いつ帰ってくるかな?」
「いつだろうね」
「待ちくたびれたよ」
「俺も待ちくたびれた」

 夕方になっても女性陣が帰ってこない。
 マシュー君達は、ニー達に薬草を食べさせながら門の所で待っていた。
 俺も一緒に待っているが、流石に遅いので心配になってくる。

「「「ねーね!」」」

 と、ここでようやく女性陣が戻ってきたので、弟君達は一斉に走り出した。
 あらら、ニー達を置いてきぼりにしているよ。

「やっぱり、お姉ちゃんが一番なのかね?」
「チュー」

 ニーは、そうですよって言っているようだった。
 良くできたネズミだ。
 ニー達を抱えて行くと、弟君がアメリア様達に抱きついていた。
 寂しかったのだろうな。

「随分時間がかかりましたね。心配しましたよ」
「私達も久々の買い物で盛り上がったのよ」
「おかげで、女性陣は皆仲良くなりました」

 荷物はマジックバックに入っているのか手ぶらだったけど、エステル殿下とリンさんの顔はホクホクしている。
 いい買い物ができたんだろうか、皆でワイワイ話をしていた。

「色々話をしていたけど、どうもクロエちゃんは貴族の子どもらしいんだよね」
「え? 貴族が子どもを捨てたと言うことですか?」
「小規模領地の貴族らしいのだけど、間違いない。生きていると分かったら返せと言われると思うから、早めに養子にするとか手を打った方がいいよ」

 道理で、市井の子にしては礼儀正しいと思ったよ。
 陛下や内務卿に相談をしよう。
 ゴレス侯爵領についたら、内務卿をよぶから丁度いいな。

「買い物は楽しくできたよ。当面の生活は大丈夫かな。まあ、王都に住むことになるんだし、今は最低限の物で大丈夫でしょう」

 新たな事実も分かったけど、とりあえずゴレス侯爵領への道中の準備は終わった。
 明日は朝早いし、今日は早めに寝よう。